【独占禁止法叙説】0-a コラム−経済秩序と価格メカニズム

 近代市民法に由来する経済秩序とは、市場、なかんずく価格メカニズムが有効に機能することによって形成されるところのそれである。すなわち、価格メカニズムの下では、各経済主体は利己心に基づき、自らの判断で自由に行動する。そして、需給の一致したところに客観的な価格(市場価格)の成立をみる。この市場価格が各経済主体の行動を規律(コントロール)し、その結果、経済全体に統一ある秩序が形成されるのである。これは、市場(ないし価格メカニズム)の秩序形成作用ともいうべきものである。
 現在、多くの国々において市場メカニズム(ないし価格メカニズム)が支持を獲得している理由は、先に触れた市場経済の力強い創造力のゆえばかりではない。これによって形成される秩序とそれと不可分に結びついている個々の経済主体の自由ゆえである。
 もちろん、こうした考え方は、価格メカニズムの有用性を「完全競争」モデルを用いて説明する経済学上の議論を排除するものではない。ミクロ経済学の一般的な教科書によれば、「完全競争」とは、①売手も買手もその数が多く、いかなる売手も買手も市場の大きさに比べてその供給および需要の占める比重が小さく、単独では自己の行動によってその売買する価格になんらの影響も与えず、②各生産物および諸資源の需要、供給および価格についてなんらの人為的制約もなく、③売手も買手も自己の利益のみをもとめて完全に流動的に行動し、④売手も買手もその売買する商品や生産方法について完全な知識をもっている場合を指すとされる。
 前者は競争の過程(プロセス)の中に市場経済に内在する自由という価値を見出しているのである(義務論的説明)。これに対し、後者は競争の実効性を資源配分の効率性ないしは経済厚生を帰結主義的に評価するものといえる(帰結主義的説明)。

(2024年1月29日記)

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