石岡 克俊(ISHIOKA Katsutoshi)

大学で法律学を講じています。分野を問わず、これまで書き貯めてきたものや、これから書いて…

石岡 克俊(ISHIOKA Katsutoshi)

大学で法律学を講じています。分野を問わず、これまで書き貯めてきたものや、これから書いていくものをまとめ、整理することを目的にnoteを使ってみようと思い立ちました。

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最近の記事

【随想】ビルオーナーは店子を選べるか?#2−Apple社の審査(2/7)

 プラットフォーム事業者によるアプリの選別の問題がしばしば指摘されるのはApple社が運営する「App Store」においてである。「App Store」にアプリが掲載されるためには、「Android Market」の場合と異なり、Apple社の審査を経なければならない。この審査はiPhoneやiPadをウィルスなどの不正アプリから守る上で重要な役割を果たしているとの指摘もあるが(林信行『iPadショック』(日経BP、2010年)83頁)、審査はこうした不正アプリ排除のためだ

    • 【随想】ビルオーナーは店子を選べるか?#1−スマートフォン・アプリ配信の現状(1/7)

       近年、RIM社製のBlackberryやApple社製のiPhoneの大ヒットにより、スマートフォンは携帯電話端末の新しいスタイルを確立した。スマートフォンは、それぞれ対応するアプリケーション・ソフトウェア(以下、アプリ)の搭載によって、容易に新たな機能を付加できることに大きな特徴があるが、これに搭載可能なアプリは、「App Store」(iPhone/iPad等Apple社製OS搭載端末向け)や「Android Market」(Google社製OS Android搭載端末

      • 【随想】気分の記憶−バゲットと、カレーマルシェと「大富豪」−

         受験勉強に明け暮れた高校時代の寮生活。卒業から四半世紀あまりを隔てた今になっても、ときおり思いだされる、気分みたいなものがある。 休日前夜の寮の情景——寮生は、おのおの、思いおもい、好きなことをしてこの時間を過ごす。おそらく、すべての寮生にとって、唯一、気の休まる瞬間だと思う。それは、一寮のときも、二寮・三寮にうつってからも、変わらない。  当時は、日曜だけが休日だった。土曜はいわゆる「半ドン」だから、休日とはいえない。正午すぎに寮に帰ってきても、何となく授業のザワザワっと

        • 【随想】「自炊」の法律学#2−「自炊」代行業(2/2)

           前回は、著者が執筆した本を出版社が編集・製本して流通させ、やっとのことで書店などに並んだ本を、読者が買うそばからそれを裁断し「自炊」してしまうという何とも不思議な状況について取り上げた。  確かに、本や雑誌を解体して裁断するというのは、本好きの人間にとってかなりハードルの高いことかもしれない。しかし、住宅事情にもよるが、本の所蔵スペースが限られている人からすれば、とても重要な選択肢の一つだといえる。  もちろん、本や雑誌の裁断は、これらを自ら購入して自分のものとしている以上

        【随想】ビルオーナーは店子を選べるか?#2−Apple社の審査(2/7)

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        • 【独占禁止法叙説】
          15本
        • 【菓子探求】
          3本

        記事

          【随想】「自炊」の法律学#1−「自炊」そのもう一つの意味(1/2)

           「自分で飯を炊くこと」や「自分で食事を作ること」を、通常、「自炊」と呼んでいる。しかし、この言葉には、最近、もう一つの意味が付け加わり解されるようになった。  そのもう一つの意味とは、「本や雑誌をスキャンして(画像として取り込み)、電子化すること」。今、巷では電子書籍が何かと話題だが、この「自炊」という言葉も、これとの関連で急にクローズアップされてきた。  「自炊」は「自吸い」に由来すると言われている。かつて、アーケード・ゲーム(昔、ゲームセンターなどで置かれていたテーブル

          【随想】「自炊」の法律学#1−「自炊」そのもう一つの意味(1/2)

          【随想】新聞を読まなくなった訳

           ここ数ヶ月ほど、ちょっと試していることがある。それは、「果たして、何ヶ月新聞を読まないでいられるだろうか」という実験だ。きっかけは、日本経済新聞の駅売り価格が今年から一六〇円になり二〇円値上がりしたこと。昨年まで、自宅では値段が一番安い東京新聞を購読し、朝、駅売りの日本経済新聞を買うという、実質二紙を毎日読んでいた(家人が読みたいというので東京新聞の購読は続けている)。  ただ、自らの新聞の読むパターンを振り返ってみると、すべての部分に目を通すのではないし、多くは「見出し」

          【随想】新聞を読まなくなった訳

          【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート2)

          (一)過度経済力集中会社の設立・転化の禁止  2002年改正法(平成14年法律47号)以降、法9条は「持株会社」の規制を専らとするものから、「事業支配力が過度に集中することとなる」会社一般にその規制の対象を拡げてきた。法9条1項は、「他の国内の会社の株式(社員の持分を含む。以下同じ。)を所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社は、これを設立してはならない」とし、同2項は、「会社(外国会社を含む。以下同じ。)は、他の国内の会社の株式を取得し、又は所有することに

          【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート2)

          【随想】たった一人の受講生

           この秋から、急遽、ある大学が新たに設置した学部で週に一度講義をすることになった。  ちょうど、一週間ほど前に第一回目の講義をするため、その大学に行ったのだが、わたしは、そこで今まで経験したことのない事態に遭遇したのだった。大学で授業をするようになって十年余り、こんな経験をしたことは一度もなかった。  教室に行っても誰もいない。  これが、わたしを襲った初めての事態である。もちろん、朝一番の講義だたったので、もしかしたら交通機関の遅れなどで遅刻する者もいるかもしれないと、とり

          【随想】たった一人の受講生

          【随想】萎縮効果

           ここ数年、企業に対する規制を考えていくときにしばしば現われ、あたかも当然あるかのように振る舞う不可思議な言葉がある。「萎縮効果」である。  先日も、ある行政官庁から出されたガイドライン案に対する意見招請(パブリックコメント)があり、その検討をしていたときにもやはり出ていたこの言葉。  そもそも行政機関が公表するガイドラインは、その法律の運用にあたっての解釈の方向性を示す指針のこと。わが国では、法律の最終的な解釈を示すのは裁判所だから、とりあえずの方向性を示すものにすぎない。

          【随想】熟読の効用−本とのつきあい方を考える

           その日がどんなに慌ただしかったとしても、また、その日が家族と過ごす休日に当たっていたとしても、必ず一日一度は書店に訪れる......。いつのころからかすっかり定着したわたしの習慣である。幼少の頃、ほとんど本を読まず、読むとすればマンガの本ばかり。そんな、両親を心配させてばかりいたわたしが、いまでは、見違えるほどの無類の本好きになった。  本に関わる出費は、職業柄もあるかもしれないが、ふつうのサラリーマンとは比べものにならないほど膨大だ(確定申告のときに本代をまとめてみると、

          【随想】熟読の効用−本とのつきあい方を考える

          【随想】ヒューマニティーズ・ミーツ・ジュリスプリューデンス〜本当の学際的研究とは何か?〜

           漢字文献情報処理研究会とのご縁のはじまりは、たしか2003年のことだから、きょうまで10年以上のお付き合いになる。あるとき、経済学部のM氏が、「著作権の問題についていろいろ疑問点があり、話を聞きたいという人がいる……」というので、紹介を受け面会したのが、この研究会の世話人の一人、C氏であった。Cさんが、わたしのオフィスに訪ねてきたときの光景はいまでも鮮明に覚えているし懐かしくも思うのだが、不思議とこのときのやりとりはあまり覚えていない。もしかすると、それから展開する10年以

          【随想】ヒューマニティーズ・ミーツ・ジュリスプリューデンス〜本当の学際的研究とは何か?〜

          【随想】消費者問題としてのオレオレ詐欺!?

           数年来、ご縁もあってわたしが住む神奈川県の消費生活審議会の委員をしている。ちょうど5年に一度の「かながわ消費者施策推進指針」の改定時期にあたっており、この改定案の検討が行われているところである。先日の会合も、かなり固まりかけた骨格の提示と過日行われたパブリックコメントへの取り扱いについて事務局から報告がなされた。「消費者教育推進法」の制定後最初の改定ということもあって、消費者教育に対する県の新たな姿勢を示すということ、そして、相変わらず高い率を推移する高齢者被害への対策が、

          【随想】消費者問題としてのオレオレ詐欺!?

          【随想】討論会と独演会

           来年度から、久しぶりに学部での大教室の講義を担当することになった。  現在、わたしが所属している法務研究科(ロースクール)は、わが国において大規模なものの一つといわれるが、学年200人程度。わたしが担当する経済法(独占禁止法)は司法試験の科目ではあっても、選択科目の一つであり、これを選択する学生はその1割にも満たない。少人数で、学生と教員とが討論しながら、授業を展開させていくのがロースクールのやり方である(しばしば、これを「ソクラテス・メソッド」と呼んでいる)。  ところが

          【随想】討論会と独演会

          【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート1)

           独占禁止法(以下、「法」という。)は、その冒頭において同法が禁止する私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を列挙すると共に、その直後において「事業支配力の過度の集中」の防止を併せ規定している(法1条)。法第四章の規定−殊に過度経済力集中会社の設立・転化を禁ずる法9条及び銀行・保険会社の議決権保有を制限する法11条−は、これを受けて設けられたものである。ここにいう「事業支配力」とは、他の事業者の事業活動を支配する力であり、そうした支配しうる地位によって行使され得る力であ

          【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート1)

          【随想】カード加盟店の手数料引下げの問題#4−(4/4)

           今年10月に予定されている消費税増税時のポイント還元策は、消費者がキャッシュレス決済を行った際、中小企業にあっては増税分を超える5%、大手企業のフランチャイズなどにあっては増税分と同等の2%をポイントとして還元するというものである。たとえばクレジットカード決済の場合、ポイントはカード会社を通じて消費者に提供されるが、その負担は政府からカード会社への補助というかたちをとる。  2%の還元は増税の負担感を緩和し、景気の下支えをするためのもの。中小企業にかぎってさらに加わる3%分

          【随想】カード加盟店の手数料引下げの問題#4−(4/4)

          【随想】クレジットカード会社のビジネスモデル#3−(3/4)

           先月、クレジットカード会社のビジネスモデルをやや面倒な文字式で表現したが、そもそもクレジットカードの支払決済サービスは、一般消費者(カード会員)が、現金を持っていなくても、その場で商品・サービスを購入でき、カード加盟店は一般消費者が購入した商品・サービス等の代金を確実に受け取ることができるというものである。この仕組みは、ある取引において消費者が購入した商品・サービスの価格から、取引手数料(加盟店手数料)を差し引いた額がカード加盟店に支払われることで成り立っている。一般消費者

          【随想】クレジットカード会社のビジネスモデル#3−(3/4)