【独占禁止法叙説】3-2 規制の手法(パート2)

(三)規制手法の類別化と類型
 法が採用する規制手法には、実定法上存在する具体的な禁止・制限類型を念頭に、従前より「行為規制」、「構造規制」および「純粋構造規制」の区別が存在していた。これらの規制手法の類別にあっては、主に2つの視点の組み合わせによって整理することが可能である。一つは、法適用に当たっての要件が「行為」に着目したものか、あるいは一定の市場「構造」に着目したものか、という視点であり、いま一つは、法適用の結果、政府・公権力(たとえば、公正取引委員会)による措置(排除措置命令などの行政処分)の内容が「行為」の差止に止まるか、あるいは市場構造に直接・間接に影響を及ぼす「構造」的措置を伴うものか、という視点である。
(1)行為規制
 法2条9項は、その柱書において「この法律において『不公正な取引方法』とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう」とし、法19条において禁止される「不公正な取引方法」が「行為」であることが示されている。他方、同条違反の事業者に対し命じられる排除措置は「当該行為の差止め」をはじめ、「契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置」である(法20条)。この意味で、不公正な取引方法は行為規制の典型例ということができる。
 また、私的独占及び不当な取引制限については、その定義規定(法2条5項・6項)や禁止規定(法3条)において、必ずしも明示はされていないものの、その禁止の対象が「行為」であることは明らかである。私的独占にあって、その要件たる「他の事業者の事業活動の排除ないし支配」は、いずれも講学上「排除行為」・「支配行為」と整理されてきたし、「共同性」をその本質とする不当な取引制限においても、より一般的には「共同行為」とされてきたところである。また、法3条違反に対する排除措置も、不公正な取引方法と同様、「当該行為の差止め」にはじまり、「その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずる」ものとされている(法7条1項)。私的独占及び不当な取引制限も、この意味において「行為規制」として位置づけることができる。
(2)構造規制
 法第4章はいずれも企業の集中を規制対象とし、集中の手段としては、合併(法15条)、合併類似行為(法15条の2−会社分割、法15条の3−共同株式移転、法16条−事業譲受け等)、株式保有(法9条、法10条、法11条、法14条)、役員等の兼任(法13条)が掲げられている。これらはいずれも法17条の2において「行為」として把握され、同条にもとづく排除措置として「株式の全部又は一部の処分、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置」、つまり、構造的措置が命じられることになる(法17条の2第1項及び2項)。
 なお、すでに「行為規制」として位置づけた私的独占につき、その排除措置にはすでに述べた「当該行為の差止め」以外にも「事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずる」ことが可能となっている(法7条1項)。この点に注目すれば、私的独占はここでいう「構造規制」としての側面も併せ有していることになる。しばしば、法第4章の各行為類型が「集中」行為として一括され、私的独占の、殊に「支配行為」の予防として性格づけられていることはそのことの証左でもある。
(3)純粋構造規制
 1977年(昭和52年)改正(昭和52年法63号)によって導入された「独占的状態に対する規制」は、同種の商品及び同種の商品に係る通常の事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく供給することができる商品で構成される「一定の商品」又は「同種の役務」に係る「一定の事業分野」について、(イ)一定の商品並びにこれとその機能及び効用が著しく類似している他の商品で国内において供給されたもの(輸出されたものを除く)の価額、または国内において供給された同種の役務の価額の政令で定める最近一年間における合計額が1,000億円を超えること、(ロ)当該1年間において、一定の商品及び類似の商品又は同種の役務について、1の事業者の市場占拠率が50パーセントを超え、又は2の事業者で75パーセントを超える市場占拠率を占めること(法2条7項1号)(以上、市場構造要件)を充足し、その上で、(ハ)他の事業者の新規参入を著しく困難にする事情があること(法2条7項2号)、(ニ)当該一定の商品又は役務の価格が、相当の期間、下方硬直的であること(法2条7項3号前段)、(ホ)当該事業者が、(ニ)の期間、著しく高い利益率の利益を得ているか、著しく過大な経費を支出していること(法2条7項3号後段)(以上、弊害要件)が認められる場合に、当該事業分野において「独占的状態」の存在が認められることになる。
 この規制の適用にあっては、立法過程において弊害要件の導入などその狙いはやや弛緩したものの、主に市場構造に着目した法適用が想定され、そこに「行為」は介在しない。
 また、ここでいう「独占的状態」があるときは、公正取引委員会は、事業者に対し、事業の一部譲渡その他当該商品又は役務について競争を回復するために必要な措置を命ずることができるとする(法8条の4第1項本文)。
 「独占的状態」の認定には、いくつかの弊害要件が加味されるものの、主として一定の市場構造が前提となり、競争回復措置といわれる排除措置においては、もっぱら事業の一部譲渡を中心とした構造措置が命じられる。この意味で、本条はわが国の独占禁止法において唯一の「純粋構造規制」と性格づけられている。

(2024年3月18日記)

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