【随想】ビルオーナーは店子を選べるか?#2−Apple社の審査(2/7)

 プラットフォーム事業者によるアプリの選別の問題がしばしば指摘されるのはApple社が運営する「App Store」においてである。「App Store」にアプリが掲載されるためには、「Android Market」の場合と異なり、Apple社の審査を経なければならない。この審査はiPhoneやiPadをウィルスなどの不正アプリから守る上で重要な役割を果たしているとの指摘もあるが(林信行『iPadショック』(日経BP、2010年)83頁)、審査はこうした不正アプリ排除のためだけに行われているわけではないようである。かつて、iPhoneの画面が割れたようなアニメーションを表示する「イタズラ」アプリが開発されたが、「製品が壊れたとの誤解を招くおそれがある」との理由で「App Store」での販売を拒否された。また、「Skype」などIP電話系のアプリも当初はパートナーである携帯電話キャリアに配慮して承認してこなかった経緯も知られている。そして、何よりプラットフォーム事業者によるアプリの選別が、世間一般の注目を集めたのは、2010年2月に行われた5000本に及ぶアダルト系アプリの一斉削除である。
 「App Store」によるアプリの掲載・不掲載の選別が、非公開ながらも一定の審査基準に基づくものとはいえ、Apple社の裁量に委ねられていることに対するコンテンツ供給事業者の懸念はきわめて強い。Apple社の純正web閲覧アプリ「Safari」と競合するため、「App Store」の掲載を危惧したOpera社が自社web閲覧アプリ「Opera mini」の「App Store」への申請を自社ホームページにおいて広く周知し、審査から公開までの期間を日々数え上げることでApple社の判断を衆人監視の下に置こうとする動きも見られた(2010年4月記)。

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