【読書雑記】今野敏『疑心-隠蔽捜査3』(新潮文庫、2012年)

 日頃全くといってよいほど小説を読まないわたしだが、この人の作品についてだけは、「はまりすぎてはいけない」と自制心を働かせ、ガマンのためいくつかのハードルをあえて設けている。
 それは、(1)シリーズを限定する、(2)購入は文庫版だけ、(3)なるべく新刊情報を追いかけない、の三つ。
 だが、昨日、オフィスからの帰りがけ、駅ナカの本屋でこの人の新刊が平積みされているのを見てしまった。今月の新潮文庫の新刊だった。出会ってしまった以上、迷わず購入。買ったら最後、徹夜をしてでも読み終わるまで止まらない。結局、昨晩は、午前2時過ぎまで夜更かしをしてしまった。
 今野敏著『疑心-隠蔽捜査3』(2009年)。『隠蔽捜査』(2006年)、『果断-隠蔽捜査2』(2008年)に続くシリーズの第三弾。文庫版はおよそ2−3年くらいのインターバルをおいて刊行される。
 きっかけは、母校の高等学校の50周年イベント。作者の今野敏氏は高等学校の先輩。正確なタイトルは忘れたが、数年前に「出版文化の未来」というようなテーマでささやかなシンポジウムが催されたことがある。わたしは、このシンポジウムの司会を依頼された。同氏はそのときのパネラーのおひとり。
 同氏の作品はテレビドラマ「班長」シリーズの原作にもなっており、たいへんな「売れっ子」だと聞いていた。しかし、テレビドラマはほとんど見ない上、小説の類も「鬼平」シリーズ以外熱心に読んだこともなく、正直関心の射程外で、お名前も恥ずかしながら存じ上げなかった。それでも、先輩でもあるし、シンポジウムでご一緒する以上、作品の一つくらいは目を通しておこうと、ふらっと入った本屋で手に取ったのが、文庫版の『隠蔽捜査』。そして、はまった。
 警察小説をそれほどたくさん読んでいるわけではないが、どの作品もストーリーの展開がユニークである。事件が起こり、それを振り返り、推理を働かせ、解決に至るという、現在と過去を行き来するこの手の作品群とは一線を画していることは確かだ。とにかく時系列に沿って、状況が展開する。主人公の置かれた状況と判断が、スピーディに臨場感をもって描かれる。読む者を放さない、今野敏の文章。巧みである。
 実は、<隠蔽捜査>シリーズは、すでにハードカバー版で最新刊の『転迷−隠蔽捜査4』と『初陣−隠蔽捜査3.5』が刊行されている。もちろん、読みたいのはやまやまだが、文庫版が出るのを待つことにしている(2012年1月29日記)。

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