【独占禁止法叙説】3-1 規制の対象

(一)事業者
 独占禁止法は、事業者を「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」と定義している(法2条1項)。ここでいう「事業」とは、反復継続して、商品・サービス・金銭などの経済的利益を提供し、その反対給付として対価を受け取ること、つまり、経済事業を意味する。したがって、事業者とは、経済事業を行う者として客観的に評価できればよく、その目的や主体の法的性格が問われることはない(都営と畜場事件:最1小判平成元・12・14〔民集43巻12号2078頁〕参照)。また、事業者は、必ずしも営利を目的とするものに限られず、国や地方公共団体も、そうした経済事業の主体である限りにおいて、ここにいう事業者に当たる(お年玉付年賀葉書事件参照:最3小判平成10・12・18〔審決集45巻467頁〕)。
 一般に、純粋な慈善事業、社会福祉事業、宗教事業、教育事業などは、一方的な給付をその事業の内容としていることから、独占禁止法の適用がないとされる。しかし、このような場合であっても、収益事業を中心に経済事業としての性質を認めうる限り、その範囲において事業者性は肯定される。
 医師、弁護士、公認会計士および建築士などのいわゆる専門自由業は、もっぱら個人の能力が評価の対象となり、また専門的な知識や技能を依頼者との関係で個別的に提供することを業とするものであることから、これらの行為は競争秩序との関わりが稀薄で、その事業者該当性につき消極的に解する考えがこれまで存在していた。しかし、自由業も経済事業としての性質を有することに異論はなく、また、近時これらの業種において種々の競争制限が行われ、その弊害が認識されるにいたり、現在では自由業も事業者と解されるようになった(「資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方」〔平成13年10月24日〕参照。なお、医師会の活動につき「医師会の活動に関する独占禁止法上の指針」〔昭和58年8月7日〕)。
 芸能人やプロスポーツ選手は、被用者として労働法上の保護を享受する場合を除き、独立した主体として事業活動に従事していると評価される限りにおいて事業者に該当し、法の適用を受ける。

(二)事業者団体
 事業者団体とは、「事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体または連合体」をいう(法2条2項)。事業者団体の構成員は、常に競争関係にある事業者(同業者)である必要はなく、業種・取引段階を異にする事業者であっても構わない。事業者団体の形態は、2以上の事業者の継続的な組織であって、構成事業者の存在とは別個独立の社会的存在として認めるに足るものであればよく、法人格の有無、団体の名称なども問わない。
 なお、2以上の結合体またはその連合体であっても、資本または構成事業者の出資を有し、営利を目的として事業を営むことを主たる目的とし、かつ、現にその事業を営んでいるものは、それ自体事業者としての実質を有していることから、事業者団体には該当しない。
(三)役員
 法2条3項は、役員に該当する者として「理事、取締役、執行役、業務を執行する無限責任社員、監事、監査役若しくはこれらに準ずる者、支配人又は本店若しくは支店の営業の主任者」を示している。本法における「役員」は、実質上ないしは事実上、事業者の業務執行ないし意思決定に影響力を有する者を指し、形式的な代表権ないしは業務執行権の所在が問題となってはいない。

(2024年3月4日記)

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