【随想】「自炊」の法律学#2−「自炊」代行業(2/2)

 前回は、著者が執筆した本を出版社が編集・製本して流通させ、やっとのことで書店などに並んだ本を、読者が買うそばからそれを裁断し「自炊」してしまうという何とも不思議な状況について取り上げた。
 確かに、本や雑誌を解体して裁断するというのは、本好きの人間にとってかなりハードルの高いことかもしれない。しかし、住宅事情にもよるが、本の所蔵スペースが限られている人からすれば、とても重要な選択肢の一つだといえる。
 もちろん、本や雑誌の裁断は、これらを自ら購入して自分のものとしている以上、これらをどう使おうと持ち主の自由である。
 一方、本や雑誌の電子化はどう考えればよいのだろうか?これらの電子化は、著作権法上は「複製」となる。複製というかたちで利用するには、通常は複製権を有する著作者の許諾がなければならない。
 ただ、これには法律上例外がある。すなわち、「私的使用」を目的とする複製については、このような許諾を得なくとも複製が可能となっている。そのためには、まず「個人的・家庭内」などの限られた範囲内で複製が行われること。また、複製はそれを使用する者が自ら行うこと、が必要である。
 したがって、自分で本や雑誌を買ってきて、自分の手元で一連の「自炊」作業を行うのであれば基本的に「私的使用」の範囲で理解することができる。当然、著作権法の問題になることはない。
 しかし、「自炊」はページ数が重なれば、かなりの労力が要求される上に、きれいにスキャンするにはいくつかコツがあるようだ。そうなると、こうした面倒な作業を代行する業者が現れてくる。最近では、本や雑誌を所有者から預かり、これを有料で電子化する業者が増えてきた。
 ここで問題となるのは、複製はそれを使用する者が自ら行わなければならないとする私的使用の条件との関係である。
 結論から言えば、代行業者に依頼する顧客がきちんと業者を管理・監督し、自分が預けた本や雑誌の電子データを勝手に保存したり、他に流用したりといった不正を行わないようにすることを条件に、これらの業者の存在を認める余地があるのではないかと考えている(2010年4月5日記)。

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