【独占禁止法叙説】1-2 規制の概要

 独占禁止法は、実体的規定と手続的規定とから構成されている。
 実体的規定は、目的にもあるように、私的独占および不当な取引制限(共同行為)の禁止を定める法3条、そして不公正な取引方法の禁止を定める法19条を中心に構成される。これらには、それぞれに定義規定があり、概念の明確化が図られている。
 ここでは、上で指摘した私的独占、不当な取引制限および不公正な取引方法を中心に、法によって禁止・制限される行為等の性質、とりわけ市場競争に及ぼす影響(違法性の判断基準)に着目し、規制類型を整理し解説を加えていく。
 私的独占および不当な取引制限(共同行為)の禁止を定める法3条につき、私的独占との関連で企業集中行為の規制(15条1項1号・15条の2第1項1号・ 15条の3第1項1号・16条2項・10条1項・14条1項・13条1項)、不当な取引制限(共同行為)との関係では事業者団体の活動に対する規制(8条1号-4号)や、不当な取引制限(共同行為)を内容とする国際的協定・契約の禁止(6条)がある。これらの規定のほとんどが、市場における競争の機能を失わしめる競争制限行為としての特質を有している。なお、私的独占および不当な取引制限(共同行為)の差異は近年ますます相対的なものとなり、これらを別のカテゴリーとして取扱うことは現在において必ずしも妥当とはいえない。したがって、ここではこれらの行為をまとめて [類型1] と整理しておくことにする。
 法19条で禁止される不公正な取引方法は、法2条9項1号-5号までに掲げられた行為に加え、同条同項6号に規定する公正取引委員会の指定をまってその内容が確定するものがある(一般指定・特殊指定)。また、不公正な取引方法を補完する制度として、事業者団体による不公正な取引方法の禁止(8条5号)、不公正な取引方法による企業集中行為の禁止(15条1項2号・15条の2第1項2号・15条の3第1項2号・16条1項・10条1項・14条1項・13条2項)、また不公正な取引方法を内容とする国際的協定・契約の禁止(6条)があげられる。
 さらに、不公正な取引方法の禁止との関係で、下請け取引については「下請代金支払遅延等防止法」(昭和31年法律第120号)が、また、不当表示をともなうあるいは取引に際し景品類を付する取引方法については「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法:昭和37年法律第134号)が、それぞれ独占禁止法の補助立法として制定されていた(ただし、後者の景品表示法については「消費者庁及び消費者委員会設置法」(平成21年法48号)により消費者庁に移管され(同法4条14号)、規定の上では独占禁止法との関連性はなくなった(同法1条参照))。これらの規定ないし法律のいずれもが、競争を制限・歪曲する行為として特徴づけられ、公正競争阻害性(「公正な競争を阻害するおそれ」)をその本質とする。したがってここではこれらの規定ないし法律により禁止される行為を [類型2] と整理しておくことにする。
 その他、市場における競争には直接の影響は認められないものの、大きな経済力や金融による産業支配等への懸念から過度経済力集中会社の制限(9条)や銀行業・保険業の株式保有制限(11条)があり、また高度寡占市場に対する措置として、独占的状態に対する措置(8条の4・2条7項・同条8項)が設けられている。前者を過度経済力集中規制として [類型3]、後者を高度寡占市場に対する措置として [類型4] と整理することとする。
 私的独占、不当な取引制限(共同行為)および不公正な取引方法などの禁止規定、独占的状態の規制などについては、公正取引委員会による排除措置命令(7条・8条の2・17条の2・20条)または措置命令(8条の4)の制度があり、法3条・法19条違反行為者の無過失損害賠償責任(25条・26条)、法19条違反等に対する差止請求制度(24条)を定め、法19条関係を除く違反行為者に対する罰則(89条-100条)が定められている。また、不当な取引制限(共同行為)、私的独占、事業者団体の競争制限行為(8条1号)、共同行為を内容とする国際的協定・契約(6条)及び不公正な取引方法の一部の類型(共同の取引拒絶・差別対価・不当廉売・再販売価格維持行為・優越的地位の濫用)(2条9項1号-5号)には、課徴金の制度が設けられている(7条の2・8条の3・10条の2-7)。
 独占禁止法は、以上のような規制を定めると同時に、こうした規制が適用されない場合につき、適用除外制度を設けている。第6章の規定のうち、法23条のみが不公正な取引方法にかかる適用除外であり、それ以外は私的独占ないし不当な取引制限(共同行為)の禁止との関わりで理解されることになる。
 手続的な規定としては、独占禁止法第8章がその中心となる。第8章は公正取引委員会の組織、権限および公正取引委員会の行う手続についての定めがあり、法27条から法44条までが公正取引委員会の組織および権限に関する規定、法45条から法70条の22までが独占禁止法違反行為に対する公正取引委員会の手続を定めている。また、公正取引委員会による規則制定などの雑則については、第8章第3節に定めがあり、法71条から法76条までがそれに当たる。なお、政令及び規則制定に当たっての経過措置につき法88条の2がある。第9章法77条以下には訴訟に関する定めがある。公正取引委員会の排除措置命令等に対する抗告訴訟(行政事件訴訟法3条1項)やその他民事・刑事裁判の管轄などに関する規定が設けられており、法88条までがこれに当たる。第12章には、第11章「罰則」規定の一部(法89条から法91条まで)が適用される事件(犯則事件)の調査等にかかる定めがある。

(2024年2月26日記)

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