【読書雑記】加地伸行著『漢文法基礎:本当にわかる漢文入門』(講談社、2010年)

 ここ数日で読んだのは、高等学校時代に使っていた参考書の復刻版、二畳庵主人こと加地伸行著『漢文法基礎:本当にわかる漢文入門』(講談社、2010年)。刊行と同時に購入したので、10年余り積読となっていた本である。わたしの同世代かそれより上の人には懐かしい本のはず。通信教育で有名なZ会の『旬報』の連載をまとめて受験参考書として出版したもので、手にとって取り組んだ人も少なくないだろう。わたしも、中学生の時から(三国志の影響で)漢籍に興味を持ち、大きな本屋さんに行っては、明徳出版の中国の古典を買い求めては分かったような分からないような感じで書き下し文と和訳だけを読んでいたものだった。高校に進学したとき、自力で漢文を読めるようになりたくて手にしたのがこの本だ。内容は硬派そのもので、受験などは素通りし、真に中国の古典と向き合いたい人のためのノウハウが埋め込まれている。それもそのはず、二畳庵主人とは、中国哲学史の泰斗・加地伸行先生だったのである(正体は文庫版によって明らかになった)。もちろん、記述に古さはあるが、今読んでも十分ためになった。いや、(高校の時とは違い)あれこれ読書を重ね、漢語の知識がついた今ならもっと自由に漢文を読めるような気がしてくるというものだ。「すぐに役立つものはすぐに役立たなくなる」とはよく言ったもので、硬派なこの手の本は受験参考書であっても何十年も色褪せない。そういえば、今から10年ほど前、往年の高校生向けの参考書が文庫版として復刊されるブームがあった。講談社学術文庫だけでなく、ちくま学芸文庫からも懐かしい受験参考書が復活を遂げた。どれも大人になってからも十分楽しめるものばかりだ。今も受験参考書はたくさん刊行されている。効率的に学べるようよく練られたものが少なくない。しかし、この本のように、何十年か経ち、大人になってから読み返したとき、知的な興奮というか学問の醍醐味を感じさせてくれる受験参考書はあるのだろうか。われわれの子供たち世代にぜひ聞いてみたいものだ(2022年3月19日記)。

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