神の哲学
「まず始めに無が在った……いや、無がなかっ――違うな。何もなかった……いや……」
神は悩んでいた。神は何もなかった世界に天と地をつくり、光をつくった。そしていよいよ自らの形を真似て人をつくった。
人らは神にとって、自らの信徒となるべき存在であった。しかるに神は、天地創造の神話を彼らに伝えんとした。
「つまり、世界があったのだが、そこには何もなかったのだ」
神は、すでに自身が混乱しはじめていることをその全知全能性によって理解していた。
「神もおられなかったのですか」
人の問いに、神は歯がみする。こんなことなら人も全知全能につくっておけばよかったと、心の底から後悔する。
つくられたばかりの人はまだ、哲学の世界の入口に立つことすらままならない。無という概念を理解することも、神という、いわば世界の外側にある概念を理解することもできない。彼らに分かるのは、目の前の世界に神がいるということだけなのだ。
「……産めよ。殖えよ。地に満ちよ」
神は、それを理解できるほどの学問が発達する世代まで、問題を繰り延べることにした。
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