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準備編 | 「台湾市場における伝統産品・デザイン用品の販売(セミナー文字起こし)」

2021年9月7日(火)に開催された「日台パートナーシップ強化セミナー@佐賀(主催・共催:ジェトロ佐賀、台日産業連携推進オフィス、公益財団法人日本台湾交流協会)」でお話をさせて頂いた要約を備忘録をかねて公開します(企業の例を使用した具体的は省く)長いのでご一読される方は覚悟してご覧ください!


1.はじめに
今回の内容は「聞いたから、知ったから直ぐ商品が売れる」というわけではありませんが、これから台湾への販路開拓に取り組みたいと思っている方の「失敗の確立を下げる」ことを目的にしています。

その理由は台湾販路に「成功している企業の数よりも、実は台湾事業を中断している企業の方が圧倒的に多い」からです。

実際、私も過去、30社以上の伝統産品の方と台湾でお話をしたことがあり、その内数社の方とは一緒に販路拡大に汗をかいたこともあります。ですが、今はコロナの件も影響しているかもしれませんが、今でも台湾事業を積極的に継続しているのは3,4社となっています。

特に中断している企業の現状としては
- 台湾に売り込みに行った当時は注文があったが、現在は激減。
- 注文数の現状に伴い、台湾の取引先とのコミュニケーションも減少。
- 今後の予定は未定。今の取引先に関わらず、良い機会があれば再考。
という方が多いです。
つまり私たちの現在地は「一時的には売ることができるが、売り続けることは難しい」ということです。
さらに成功している企業、そうではない企業のやり方を分析したところ、成功している会社は正直「この企業だから、そしてこのタイミングだから、実はキーマンの存在」という要因が大きく、そのまま他の企業に当てはめても再現性は低いです。
逆に成功に至っていない企業に対しては、『もっとこういった点に気を付けて取り組めばもしかしたら、もう少し違った結果になったのでは』と思うことが多く、実はこの内容にはいくつかの共通点があり、その内容を紹介したいと思います。

2.なぜ、事業がうまく行かないのか
結論からですが、私たちの事業がうまくいかないのは、当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、正しい準備ができていないからです。
勿論、最初はとりあえず台湾に行ってみる、やってみるという側面の方が大事だとは思っています。ただ私たちはこの最初のテスト期間に「どれだけ売れたか」を気にしがちですが、成功している企業はこのテスト期間に「正しい情報収集を行って、どうやって台湾市場を攻略するか」ということにフォーカスしています。
勿論、これらに取り組んだからといって、直ぐに成功につながるわけではありませんが、失敗の確率は確実に下げることが可能です。私たちはついつい、一時的な売り上げに一喜一憂して、こういった点を後回しにしているのです。

それでは台湾攻略の切り口を見つけるために役に立つポイントとして、『市場の状況、日台の違い、流通構造』をご紹介します。

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3.市場の状況:競争環境
私たちが台湾市場に入ろうと思ったら、日本よりも「競争環境は激しく、結果が出るまで時間が必要だ」という事実を認識してください。
もし過去のインバウンドの成功経験が元で『日本に友好的な台湾人が多いし、品質には自信があるので比較的簡単に売れるのでは?』という印象を台湾市場にお持ちの場合は一旦、忘れてください。実際イベント等で一時的に売れることはあると思いますし、コロナ後インバウンド消費が反動で伸びる可能性もありますが、「現地で継続して売れ続ける」という視点で考えた場合、困難の種類が異なります。

その理由を分解しますと次の3つになります。
① 日本よりも、知名度が低い状態で日本よりも高い価格設定で販売をすることになります。これは少し乱暴ですが、自分たちの商品が日本で1.5倍の値付けで売れるかどうか想像してみてください。難しいと感じる方の方が多いのではないのでしょうか。

② 価格が高いうえに、台湾の方が、日本よりも物価や給与の水準が低いということです。
ただし(あくまでも肌感ですが)富裕層の割合は日本よりも多いと思いので、給与水準の平均値から台湾市場を決めつけるのは適切では無く、ターゲットをどこに設定するにより台湾での戦略を決めていくというのが正しいです。また、少し余談ですが、単純に給与額=所得額で考えない方が良いと思います。台湾では不動産や株など収入のチャンネルを複数持っている方も珍しくありません。

③ 台湾市場にはコスパの良いローカルブランドもあり、また日本の有名ブランドは既に流通している現実があります。約5年前にある企業の方を市場調査のためにアテンドをした際の感想が「台北は日本のもので溢れていて、手に入らないものが無いですよね」と言われたほどでした。5年前です。

繰り返しになりますが、海外事業は「限られた資源で、国内の事業よりも難しい市場に取り組むので、正しい準備をしないと失敗の確率が高くなる」ということを理解してください。

4.市場の状況:消費行動
私たちにとって、お客さんの消費行動を把握することも大切です。
先ほどの「競争環境」は皆さん結構、調べていますが「実際に消費者の方とコミュニケーションとる」という事迄されている方は案外に少ないです。渡航制限が解除された際には、一度で良いので数日間、現場に立ってください。それにより向き不向きの商品の把握は勿論ですが、商品のどういった点に興味や価値を感じているのか、価格感が合うのかどうか、などリアルな情報を得ることができると思います。
何より実際に販売する大変さもわかると思います(笑)

この際に大切なのは、当たり前かもしれませんが自分のメインターゲットの方が多く集まる場を選んでください。これがズレてしまうと、いくら消費者の声を聞いたとしても、ほぼ意味が無く、正しい判断が出来なくなる可能性があります。

私自身、売り場に立って感じたことが二つあり、
① 商品に対して深く興味をもってくれる方が、一定数いること例えば、商品の使い方、メンテナンス、価格だけではなく、素材や作り方まで聞かれることも少なくありません。
これに関しては、日本の職人さんやものづくりに対するリスペクトを本当に感じ、日本人としては単純に嬉しく、誇りに思います。商品の背景を伝えることの大切さを改めて感じさせられます。

② もう一つは価格交渉です。レジの場面で本当に良く聞かれます。
台湾の方が躊躇なく割引を聞く理由は、一つは単純にお得感や特別扱いを感じたいという点、もう一つはコミュニケーションの一環だと思っています。
なので中には「(ダメもとで)本当にちょっと聞いてみた」というレベルの場合もありますし「これだけ買うんだからこれだけ安くしてよ」というガチの交渉の時もあります。

私は最初、全然これが理解できず、しかもブランドとしても日本でも割引販売は一切していないこともあって、頑なに断っていました。
また、当時の私は「そもそも割引するとも言っていないので、何で割引をしないといけないのか?」とも思っており、それが表にも出ていたのだと思いますが、逆に断りすぎてお客さんを怒らせた苦い経験もあります(笑)

実際に割引が無いと購入しない消費者の方もいますし、特に購入額の大きい方は、色んなお店で割引や特別サービスを受けていますので、逆にプライドがある場合もあります。

価格戦略にもよりますが、少しのサービスや割引で「お客さんと仲良くなれる」「今後、顧客になってくれる」と思えば、コスパの良い販促費用だと今は感じています。台湾で商売する際は割引に関してはある程度柔軟に対応をされても良いと思います。中には割引されることを前提とした価格設定をしている企業もいます。

このように実際の消費者と向き合うことで、ターゲットが具体化されて、ターゲットが具体化されると「ではどうやって、その方々を攻略するか」など、より具体的な内容に落とし込むことが可能になります。

5.日台の違い:生活習慣
私たちは日本と台湾の生活習慣の違いを知ることも重要です。これは商品の向き不向きとも紐づいていますので、とても重要なポイントになります。

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写真は食卓のイメージで、パッと見てわかると思いますが左が台湾、右が日本です。食器を製造販売している方は、これだけ見ても「台湾では売れ筋がちょっと変わるな」とわかるはずです。
具体的に解説すると、
台湾のドラマとかを見たことがある方はわかるかもしれませんが、家族や親せきが丸いテーブルを囲んで一緒にご飯を食べるシーンがあります。その時、一人一人は白いご飯の入ったお茶碗だけを持っています。その代わり、世話役のお父さんお母さんが、テーブルの大皿料理に手を伸ばし、子供たちのお茶碗の上に「沢山食べなさい」とか言いながら、その料理を置いていくシーンなどあります。

前置きが長くなりましたが、台湾では今でも食卓を囲み、その際は大皿を使って盛りつける習慣があります。
このような点を知っていると、もし日本とは売れ筋が違っても理由を推察しやすいですし、確率の高いトライ&エラーができるようになります。

他にも例えば台湾の料理は日本と比べると『汁気があるものが多いので、深みのあるお皿が好まれる』、
漢方の考えにより冷たすぎる飲料への抵抗感があるため、金属製のカップなどの「熱伝導の良さ」が必ずしもPR効果が高いわけでは無い、とか。

これらはあくまでも一つの例に過ぎませんが、日本と現地の差が分かれば、私たちはサイズ感や見せ方、PR方法を現地に合わせることも可能になります。つまり生活習慣の違いを理解して、
自社の商品と現地の習慣の重なるところを見つける
ことが大切です。

6.日台の違い:商習慣
日本と台湾では商売におけるスピード感が違います。
具体的には意思決定も、行動も、損切り、台湾の方がとても早いです。日本企業は長い目で売り上げや利益を考える傾向にありますが、台湾企業は短期的に成果を求める傾向にあります。

これを商業施設を例に具体例を二つ挙げますと、不動産に特化した関係、短期間の契約期間があげれます。
台湾の商業施設は日本のように外商や施設との連携などは殆ど無なく、テナントを育てて、一緒に発展するという概念は希薄で大家と借主の関係が色濃いです。実際、私もホテルの中にお店があったときは、何度も「披露宴のギフトの選択肢の一つに我々のブランドを盛り込んでほしい、もし売れればホテルの売上にも繋がる」ということを掛け合いましたが、結局最後まで、前向きな回答を得られませんでした。

勿論、披露宴ギフトの価格帯や選ばれやすい商材に関しても日本と台湾では違いがあり、難しいポイントもありましたが、折角テナントに入っているから「一緒に挑戦しよう、サポートしよう」という姿勢を感じることはありませんでした。

もう一つは契約期間になります。
施設側との契約期間は、1年や2年と比較的短いことがが一般的で、更新時に条件が変わることも珍しくありません。特に良い条件程、契約期間は短くなり、テナントの入れ替えは日本よりも早いです。

これもホテルの時の例ですが、施設入居時はものすごく良い条件を提示していただきました。具体的には家賃は最低保証無しで、完全に売り上げに対する%で、しかも僅か、十数パーセントです。今思うと破格の条件だったと思います。

迎えた契約更新、ホテルから提示されたのは、当時支払っていた平均家賃の約3倍にあたる金額でした。この条件には交渉の余地が無く、もしこの条件が受け入れられない場合は他のテナントを誘致すると言われました。このホテルの判断は非常に合理的で「投資分を回収できるかどうか」を最重要視しています。

こちらもようやくお客様に覚えて頂き、売り上げも少しづつ伸びていたので、赤字になることは見えていましたが、もう少し踏ん張ってみようということになり、契約更新を致しました。この判断は日本的だと思います。
もし今回のケース、台湾人経営者の場合、赤字が確定している場合、撤退を選択するのが一般的だと思います。行動も早いですが、損切の見極めも早いというのが両者の違いとなります。

実際に台湾にお店を出すという方は少ないと思いますが、皆様の取引先はこのような環境の中で事業をされています。もしかすると取引先さんの発言や行動が「コロコロ良く変わるな」と思われることがあるかもしれませんが、意外にこのような要因と紐づいていると思えば、相手の状況も理解しやすいかもしれません。

これは良い悪いという議論よりも、やり方の違いですので、
この違いを把握した上で台湾事業に取り組むことが大切です。

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7.流通構造
私たちは実際に輸入業務をするわけではありませんので、貿易条件が工場出荷やFOBであれば、別に貿易にかかる日数やコストを知らなくても商売はできます。それもあって、知らない方はとても多い印象です。ですが、成功している企業の方は例え、貿易条件が工場出荷やFOBであっても意外にこの辺りの情報をきちんと整理しています。

これらは普段は売り上げに直結するわけではありませんが、正しい判断をするために必要な情報と理解してください。

例えば、将来、台湾での販売数が伸び悩み、その原因の一つが台湾での販売価格だったとします。その時に現在の台湾上代を見直そうとしても、そもそも日本側の出荷条件が厳しいのか、物流費用が高いのか、関税が高いのか、代理店や販売店の利益が大きいのかなど、どこを改善すべきなのか、判断ができません。

貿易にかかる日数や検査も同様です。
大口の問い合わせがあっても「エンドの方が許容できる日数≒製造~出荷にかけて良い日数」ではありません。その為、輸送にかかる日数は勿論、商品によっては検査の有無等を把握しておかないと「間に合います」と返事をして取り掛かったものの、貿易の問題で、最悪の場合「指定日にお客様の手元に届けられない」ということも発生致します。
誤った判断をしない為にも一度、調べてみてください。

8.参入方法

今までお話をしたような内容を踏まえて「では自分たちはどの方法で台湾市場に参入するのか」を考える必要があります。
実は私たちの多くはこれらを飛ばして「たまたま問い合わせがあったから」「知り合いからの紹介」という理由だけで「なんとなく商売を始めてしまって、思ったほど発展せずに先細りしてしまう」というケースが多いです。

代理店のメリット:
現地の営業活動や顧客管理などを任せることができ、自分たちの負担を減らすことができるため、限られた資源で開拓する場合は非常に有効だと思います。

代理店のデメリット:
中間コストが大きくなるため、現地での流通価格/上代価格が高くなりがちです。台湾事業自体が代理店への依存度が高くなりすぎること、例えば現地の情報ソースが偏ったり、代理店の販売力に左右され過ぎることです。

代理店にも色んなタイプがありますので、
単純に売れる商材だけを探しているのか?、それとも本当にブランドを広めてくれるのか? という見極めは非常に重要になります。特に安易な総代理契約、つまり独占契約は慎重になった方が良いと思います。
私も過去に『現地企業と総代理契約をしたものの、年間の注文は少額で、商品種類も限定的なのでどうしたら良いか』という相談を何度か頂きました。

実は代理店の中には同業他社/競合関係のブランドを複数取り扱い、各ブランドの売れるものだけを選んで仕入れするという「セレクト代理?」やり方の会社もあります。なので代理店と契約する際はきちんと相手のやり方(ビジネスモデル)を把握して、必要に応じて年間の取り扱い金額等を定めるなど、協議が必要になります。

販売店との直接契約
メリット:
現地での上代設定を抑えることができます。
複数の取引先が存在するので、より多面的な、精度の高い現地情報を得やすいです。

販売店のデメリット:
顧客開拓や管理の負担が大きくなります。
規模の大きくない店舗とは接点ができにくく、また現地での小回りが悪くなりがちです。

台湾の場合は肌感覚ですが、代理店を経由せずに販売店と直接取引しているケースが、年々、増えているように感じます。日本と取引をしている多くの台湾企業の場合、日本語ができるスタッフが在籍していたり、場合によっては日本国内で取引/決済できることもあり、取引のハードルが下がりつつあります。何より「日本のものが既に溢れているからこそ、まだ台湾には流通していない良い商品を取り扱いたい」というニーズが販売側にもあり、このような傾向になっています。

これらはどれが良いという正解は無いので、自社にとって最適な方法を選ぶことが大切です。

時々、代理店契約と販売店を並行して進めている方もいます。個人的には中國のような大きい市場はともかく、台湾のような小さい市場では代理店が離れていくことが予想されますので、このようなやり方はお勧めいたしません。

このように、最初は「刹那的な売上より」も
「相手を理解して、自分達と相手の重なる部分はどこなんだろう」
「その為にはどういうルートで入り込むのが良いか」
という点を見極めることに資源を使ってください。そうすれば自ずと、失敗の確率も下がりますし、台湾に入り込むポイントも見えてくると思います。

9.最後に

また今回、商業施設の関係や消費者のことなど、日本にいらっしゃる皆さんには一見、関係の薄いことをお話を致しましたが、こちらにも意図はございます。台湾の事情を理解した上で、メーカーがブランドが代理店や販売店の支援を続けることは非常に大切ということです。何故なら台湾で認知の拡大に成功した場合、最終的に一番得をするのはメーカーやブランド側だからです。

これは私自身が台湾にいるから、というポジショントークでは無く、台湾で皆さんの認知が広がれば広がるほど、商品の出荷だけでは無く、インバウンド、越境ECなど、消費者との接点は広がりますし、台湾企業とのコラボ企画やOEMなど、新しい案件が舞い込む可能性があり、最初は大変かもしれませんが、最終的には皆さんに返ってくる内容が一番大きくなります。

ですので、取引先さんがどういった環境で奮闘されているかを把握し、
その上でまずは皆様の商品で取引先さんが利益を出せるように一緒になって取り組むこともとても重要です。


最後になりますが冒頭に「成功している企業のやり方は再現性は低い」といった旨をお伝えいたしましたが、一つだけ共通点がありました。

それは「何故、自分達が台湾で事業を行うべきか」という問いに対して自分なりの解を持っている点です。内容は「台湾が好き」「台湾の人の生活を豊かにする」「日本の文化を伝えたい」「儲かりそう」など具体的な内容は皆さんそれぞれ異なりますし、決して規模だけが指標では無いと思います。特に限られた資源で実施することもあるので、小さなスケールでも満足度や意義を得られる内容の方が良いと思います。

特に壁にぶつかったとき「何でこんなに苦労して迄台湾事業をしないといけないのか」と思うかもしれませんが、そういった際に立ち返られる目的があるかどうかは、とても大切になります。

本日の例はあくまでも一例ですが、台湾での販路拡大に少しでもお役に立てば幸いです。皆様の貴重なお時間を頂きましてありがとうございました。

平川正紘


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