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藍井エイル「ロゼ」:行き先の分からない言葉たちが音のなかで羽ばたく

切々と響く歌声が胸を打つミディアム・テンポのラブ・ソング。藍井エイル「ロゼ」は、2023年の頭にリリースしたアルバム『KALEIDOSCOPE』に収録された新曲のひとつです。エイルの歌声は温かみを感じさせる一方で、濃厚な哀愁を運びます。美しく哀しい色が滲み、やがて目の前の世界を染め上げる。明るい印象を抱くサウンドのなかで、ボーカルが醸す切なさの虜になります。

印象的だったのは歌詞です。あふれ出すように流れる多くの言葉はエモーショナルで、ドラマチック。歌詞の隙間からストーリーが顔を覗かせます。終わった関係を懐かしむのか、記憶に残る光景にすがりつくのか、いくつもの後悔に苛まれるのか。連なる言葉が行き場を失った鳥の群れのように思えました。過去には戻れず、さりとて未来にも行けない。行き先の分からない、迷子になって彷徨う言葉たちが音のなかで羽ばたきます。


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