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LINKIN PARK『Meteora (20th Anniversary Edition)』:バンドが残したもうひとつの痕跡、見え隠れする分岐点

2023年4月、LINKIN PARK『Meteora』の20周年記念盤『Meteora (20th Anniversary Edition)』をリリースしました。2003年に発表されたスタジオ・アルバムにデモやライブ音源、さらにアルバム未収録曲を加えた作品です。「Somewhere I Belong」や「Breaking The Habit」といった曲の仮歌さえ入っていない原型は貴重であり、先行して配信された「Lost」など数々の未発表曲は新曲のように聴けます。

『Meteora』に入らなかった曲やデモは、バンドが残したもうひとつの痕跡です。初期のLINKIN PARKらしい曲や『Meteora』に馴染みそうな曲がある一方で、アプローチを大きく変えようとしていたのではと思える曲もあります。どのような基準で収録曲やアレンジの方向を決めたのか――完成に至るまでの紆余曲折が、ほんの少しながらも見える気がします。

「More The Victim」では、多くのファンが好きであろうLINKIN PARKの音楽スタイルを楽しめます。それはすなわちMike ShinodaのラップとChester Benningtonのボーカルの交差です。体温低めのラップにクリアな歌声が映えますが、やがてボーカルは一気にヒートアップしてワイルドさを見せつけます。メロディはポップで耳に馴染み心に心地よく、ギターが鳴り続けるサウンドは身体を熱くさせます。

重厚なギターの音に包まれた「Massive」は、これぞヘビー・ロックと思わせてくれるサウンド。ギターに加え、スネアの抜けるような音が壮大な雰囲気を曲に与えます。大きなスタジアムで映えそうなアレンジであり、巨大な壁が目の前にそびえたつイメージが浮かびました。哀愁を帯びたMikeの歌声は、壁の向こう側から聞こえてくるような、少し距離の離れた感じでミックスされています。

メランコリックなピアノの音が支配するのは「Healing Foot」です。陰鬱に響く音をChesterのシャウトが引き裂き、ノイジーに叫ぶギターの音が呑み込みます。しかしながら烈しい歌やサウンドのなかでもピアノの音は淡々とループし、他の音が引いたときに顔を見せます。無表情なのに存在感を感じる、不思議な音です。

収録されなかった曲を聴きながら思い浮かべるのは、あり得たかもしれない未来です。これらの曲が入って『Meteora』とは違うアルバムが完成していたとすれば、世界中のファンはどのような反応を示したのでしょうか。LINKIN PARKの歴史が大きく変わっていたかもしれません。もちろんただの空想に過ぎませんが、バンドの「正史」と「もしも」の分岐点を想像してみるのも、長くファンを続けているからこその楽しみといえます。


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