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PANDORA「Be The One [feat. Beverly]」:小室哲哉と浅倉大介の感性が交差し、デュオというスタイルから生まれる “TK+DA=∞” のエレクトロニック・ミュージック

シンセサイザーに精通した両人が生み出すエレクトロニック・サウンド。小室哲哉浅倉大介のタッグという、僕らファンにとっては夢のような、そして最強の組み合わせが実現しました。デュオの名前はPANDORAです。2017年に最初の曲「Be The One」の配信が始まりました。

ストレートに突き刺さるエレクトロニック・サウンドという印象を受けました。多様な音が絡み合いながらも、聴かせたい音が屹立して耳に脳に身体に一直線に届きます。ソフト・シンセの音は日進月歩で変わり続けるとされますが、流動性と新規性の高い音を使いながら、小室さんと大ちゃん各自のエッセンスも感じられます。

ダイナミックに広がる音のなかで、芯の太いサウンドが楽しめます。シンセサイザーの気持ちよさが存分に伝わるイントロから始まり、AメロはBeverlyの美しい歌声の魅力を丁寧に届けるリズムで構成されています。そして、EDMの特徴のひとつであるノイジーなwobble bassでサビにつなぎ、サビでBeverlyはブレスの余白を最小限にするようにはめ込まれた言葉を歌い、聴き手は一気に高揚感に包まれます。

PANDORA誕生のきっかけは、小室さんがThe Chemical Brothersのステージを観たことです(『Keyboard Magazine 2017 AUTUMN No. 398』より)。曲を制作して、ステージでミキサーを操作しながらパフォーマンスするという手法は新しいわけではありませんが、それをデュオで行なうことが重要だったようです。実現のためには自分と同じ作曲家、キーボード・プレーヤー、プロデューサーであり、そして気心も知れた大ちゃんとのタッグがベストだと考えたのでしょう。

2018年に入って「Be The One」のフルレングスが公開されました。新しい音とメロディが加わり、Beverlyの歌も多くなって曲が厚くなりました。ドラムを抜いたりボーカルを強調させたりするような「緩い」部分がないのにもかかわらず、単調ではありません。厚みを維持したまま、雰囲気の違う音を入れて前後をつないだり、前の音を引き継ぎながら体感速度を上げたりするというアプローチが、ダイナミックな展開を生みます。

イントロからAメロに入り、ダブステップ系の音を挟んでサビへつなげ、間奏ではサビの音を引き継いで別の音を重ねて駆け抜けて、二番のAメロに突入します。二番のサビ以降は、サビから間奏、そして加工された音声を瞬間的に挟んで突入する最後のサビまで、勢いを維持したまま突き進みます。音とともに、聴き手の気持ちもまた高揚し続けます。

イントロから生産・蓄積されてきたその勢いに拍車をかけるのが、最後のサビに乗って聴き手に畳みかけてくる英語のフレーズです。リズミカルに流れる英語の響きがメロディ、音、歌声と組み合わさり、曲はスピードを落とすことなくエンディングを迎えます。

新たに加わった部分で心に引っかかったのは、♪未来へつなごう 過去をいたわろう♪という歌詞です。「過去を労わる」という言葉は独特であり、小室さんが書いたものと思われます。過ぎ去った時間に向けた優しい眼差し。昔を懐かしむというより、肯定してその延長線上に今が、そしてこの先があることを示す言葉ではないでしょうか。


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