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未だにアクティビストは悪者なのか

8月15日、国内大手VCであるジャフコグループは、野村絢氏(村上世彰氏の実子)、旧村上ファンド系投資会社である株式会社南青山不動産及び株式会社シティインデックスイレブンスから大量かつ急速にジャフコグループ株式を買い集められていることを受け適時情報開示を発表した。村上氏らに対して十分な情報提供と他の株主たちが検討する時間の確保を求め、村上氏ら側がそれらの要求に応じずに株式を買い進めた場合、ポイズンピル(新株予約権の無償割当などの対抗策)を導入し全面的に争う姿勢も示した。
2022年8月9日にシティインデックスイレブンスが提出した大量保有報告書によると8月2日時点でジャフコグループ株の6.54%を保有し、さらに8月5日時点で15%弱を保有しており短期間で急速に買い進めていることがうかがえる。村上氏らから要求されていることは、ジャフコグループが保有するNRI株(時価評価約980億円)の流動化及び500億円の自社株買いで、今後51%まで買い進めて買収する示唆も伝えられているという。
今回のニュースが注目を集めた理由は何だろうか。VC自体が買収されそうになっているからだろうか。VC自体が買収されてしまうと、買収者がそのVCが投資している投資先も間接的に支配することになるため未上場のベンチャー企業やVC界隈の中では多少反響があったかもしれない。
しかしそれよりも注目すべき点は、資本市場のど真ん中に存在するベンチャーキャピタル自身が上場を維持したまま企業価値を向上させることを怠り続けてきたことではないだろうか。ジャフコグループのコーポレートサイトを覗いてみるとコーポレートガバナンスやESGについて声高に記されているが、同社のバランスシートを見てみると、2022年6月30日時点で総資産2224億円に対して純資産1891億円で、手元流動資産(現金預金&有価証券)だけで1405億円ほどある。時価総額は1600億円程度で推移しているため勿論PBRは1倍割れだ。有利子負債はほとんどない。持ってる資産が全く有効利用されておらず、株価は低く放置されており、このまま上場し続ける理由がないことは明らかである。まさに2000年代、村上世彰氏率いるM&Aコンサルティングに同じ要求を突きつけられた昭栄や東京スタイル、ニッポン放送のバランスシートのそれと同じカタチである。このような極度に低いPBRのまま上場し続けている事業会社は昔も今も沢山あるが、ベンチャーキャピタルのような企業価値がそのまま会社の収益に直結するような会社が企業価値をあげることを放置して、テレビ局のようなバランスシートのまま上場し続けていることは由々しき事態だろう。村上氏らが気がついて実際にアクションを起こさなかったら他のアンダーバリューの事業会社のようにそのまま放置されていたことになる。現在でも日本では上場企業の約40%近くがPBR1倍割れであり、平均はアメリカの3倍と比べて1.3倍である。勿論”上場していないのであれば”、どのようなバランスシートのカタチをしていようがどれだけ現金を溜め込もうがそれは自由だ。しかし上場している限り、それは許されない。常にWACCを上回るROICが求められ、高いROEを出さなくてはいけない。それが嫌であるならば今回のような株主提案に対する合理的な買収防衛策は新株予約権を発行することではなく、MBOをして非上場化することだろう。
今回も20年前とまったく変わらず村上氏らが物言う株主というレッテルを貼られ悪者扱いされているが、こういったPBRが1倍を割ってもなお企業価値を上げる施策を何もせずにただただ上場し続ける企業が増え、セカンダリー市場がそういう会社ばかりになるとセカンダリー市場自体がババ抜きになるのでジャフコグループのようなVCのEXIT先は無くなり、いずれは自分達に跳ね返ってくることになる。その結果プライマリー市場にはリスクマネーは入らなくなるため日本経済全体のイノベーションも起こらなくなってしまう。
ジャフコグループのようなプライマリー市場とセカンダリー市場両方に身を置く企業がこのような株主を軽視するような経営を行っていたことが今回の件でもっとも注目すべき点だろう。
セカンダリー市場自体にその自浄作用がないため、村上氏らのようなアクティビストの外圧がなければプライマリー市場までもが腐ってしまうので日本に早くグローバルスタンダードのコーポレートガバナンスが根付くことを願う。


故郷の母と父に、何か買って送ってあげたいと思います。