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『NOISE 上 組織はなぜ判断を誤るのか?』

『NOISE 上 組織はなぜ判断を誤るのか?』ダニエル・カーネマン / オリヴィエシボニー / キャス R サンスティーン / 村井章子(訳)

 ジムで有酸素運動のエアロバイクを漕ぎながら聴いているAudibleの1冊。

 行動経済学などで有名になったバイアスについて書かれた『ファスト・アンド・スロー』に続き、今回はノイズを取り上げています。

 本人はプロ中のプロと思い込んでいる裁判官たちの下す量刑に大幅な軽重があるというのが全ての出発点。事態を重く見た米国では実際に、「量刑ガイドライン」が策定されたそうですが、なんとプライドの高い裁判官たちの反発で有名無実化されてしまったとのことですから深刻です。

 これは1970年代にアメリカ連邦判事のマービン・フランケルが刑事裁判における量刑が裁判官によって大きく左右されることを問題視示することから始まりました。50人の裁判官に架空の事件の量刑を求めたところ、量刑が一致することの方が珍しいという深刻な結果だったそうです。

 このほか難民申請の受理、保険料率の決定、医療診断、指紋の判定まで実はノイズだらけというのには驚きます。

 私たちが意思決定をする際、先入観や直感などによって非合理的な判断をしてしまう原因となるバイアスについてはよく知られるようになってきて、行動経済学によって、それを未然に防ぐナッジ(nudge:そっと後押しすること)を工夫して、人々がより良い選択を自発的に行えるように手助けする方法も広まってきました。

 しかし、これよりノイズはより深刻です。特定の人格的傾向、こなしているのが午前中の仕事か午後の仕事か、天候の良し悪しなどによって判断が変わってしまったら当事者には目も当てられません。しかも、判断を下す方は、自分のことをプロ中のプロと錯覚しているので、自覚症状がゼロというのも事態をより深刻にしています。

 こうしたノイズにはシステムノイズ、レベルノイズ、パターンノイズ、機会ノイズの4種類があるとのこと。

 それぞれ、システムノイズ=同じケースに対して別々の人間が下す判断のばらつきがあることで、さらにシステムノイズはレベルノイズとパターンノイズに分類されます。このうちレベルノイズは判断者による判断のバラつき(基本的に量刑が厳しい裁判官と甘い裁判官など)、パターンノイズは再犯に厳しい裁判官など特定のケースに対する判断者の反応のバラつき、と。さらには、その日の気分や環境要因による一過性の機会ノイズもあるというのですから「果たして人には公正な判断など出来るのか」と不安になってきます。

 実際、著者たちが調査した保険会社では、システムノイズは経営者たちが許容できる水準よりも5倍もあったそうです。なんと査定額の差の中央値は、経営陣の予想が10%以下だったのに対して55%もあったそうで、「群衆の知恵」の方が自称プロよりも正確な判断を下せるそうです。

 機会ノイズについては、バスケットボールのフリースローのようなもので、どんなにトーニングしても、同じ動作を正確に繰り返すことはできないことを知るべきだというあたりが印象的でした。一般にフリースローの成功率はガードの選手であれば80%以上、フォワードやセンターの選手であれば70%以上が合格点と言われていますが、これをクリアーするのは難しいそうです。

 さらには、会議などでは集団によってノイズは増幅されるので始末におえません。会議では根回し(誰が最初に発言するかなど)が重要ですが、そんなことで政府の安全保障政策の判断も下されるかと思うとゾッとします。これはマーケティングの戦略でも、新製品は発売第一週で話題になることを重視されることに似ています。

 また、将来予測については「ダーツ投げをするチンパンジーよりましなのかどうか」というレベルだそうです。

 予想よりも統計を重視すべきだ、というのが上巻の結論でしょうか。ちなみに、イズ検査ですガウスの「最小二乗法」が今でも有効だそうです。これは全誤差は個々の測定誤差の二乗を平均した値で、平均二乗誤差(MSE:Mean Squared Error)と呼ぶ、というあたりも勉強になりました。


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