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経済紙の記者をやっておりました http://pata.air-nifty.com/

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最近の記事

『中世荘園の様相』網野善彦、岩波文庫

『中世荘園の様相』網野善彦、岩波文庫  網野さんの本はかなり読んでいたつもりだったけど、一般向けの本ばかりだったんだろうな、と改めて反省。学生の頃、この『中世荘園の様相』を読んでいたら、マジで日本中世史をやろうとしたかもしれないなどと仕方ないことを考えながら読みました。  本書は太良庄の開発から、東寺の荘園となるいきさつ、百姓や代官同士の訴訟合戦、突然やってきて突然終わる得宗支配と南北朝の混乱、何がなんだか分からない観応の擾乱に晒されながら、農業以外の手仕事なども含めて経

    • 『オッペンハイマー』

      『オッペンハイマー』を友人たちと観にいきました。 凄い作品です。 3時間ノンストップなのに緩むところがなく科学が切り開いてしまった恐怖の「新しい世界」を描くとともに、倫理的な裁きを政治的な裁きに重ねる構成が見事だな、と。公聴会の場面はまるで『十二人の怒れる男』を観ているようでした。 にしても出てくる物理学者はほとんどユダヤ人。ヒトラーが物理学を牽引してきたユダヤ人たちを信用できず、2年ぐらいリードしてきた製造競争に負けたけたんですけど、勝ったアメリカのユダヤ人も旧ソ連と同じよ

      • 『源氏物語論』吉本隆明

        『源氏物語論』吉本隆明、ちくま学芸文庫  大学生の頃に出た『源氏物語論』は、当時、吉本さんには別なものを求めていたので、文字通りざっとしか読んでいませんでした。吉本源氏に対してアカデミックな立場から行われた批評に対してこっぴどく反論した評論の方が印象に残っていますが(この文庫版にも収録されてます)、それでも自分の源氏物語に対する基本的な見方は吉本源氏なんだろうな、と思って改めて文庫版を読み返してみました(文庫版はちくま学芸文庫が創刊された時に、吉本さんの源氏論がラインナップ

        • 『ミクロ経済学入門の入門』坂井豊貴

           コカ・コーラとペプシコーラのどちらが好きかというところから無差別曲線の解説をするなど、親しみやすい内容だが、一番、感動したのがギッフェン財の説明。  これを留学時代の貧しい食生活から説明したあたりが素晴らしい。筆者は留学先の地元スーパーのPB商品だった1袋1.5ドルの不味いパスタを買っていたのですが、時々は高くて美味しい2ドルのパスタを購入していた、と。こうしたなか、このスーパーが1.5ドルから1.6ドルに値上げした時、もう贅沢な高いパスタを求めることをやめ、安いパスタの

        『中世荘園の様相』網野善彦、岩波文庫

          『進化のからくり』千葉 聡

          『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』千葉 聡、ブルーバックス  毎日出版文化賞を授賞した『歌うカタツムリ』岩波科学ライブラリーは地味でパッとしないカタツムリが進化研究では重要なプレイヤーであることを解き明かしていましたが、『進化のからくり』では、カート・ヴォネガット が《ガラパゴス諸島の生物は、アフリカのものと比べると、パッとしないと言わざるを得ないでしょう。しかし、それが彼らの運命であり、彼らが百万年を経て進化した結果なのです》(『ガラパゴスの箱舟』朝倉久志訳、

          『進化のからくり』千葉 聡

          『NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子』山口仲美

          『NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子』山口仲美、NHK 「100分de名著」はだいたい良いんですが、この枕草子編では4回分の講義に、特別章「女の才能、花開く 清少納言と紫式部と和泉式部」を加えたお得な構成となっています。  有名な春はあけぼのから始まるんですが、清少納言の斬新さは、「時間」で自然美を切り取るという発想であるというのはなるほどな、と。 《『古今和歌集』の春の歌を調べてみると、春の自然美は、 霞、桜、梅、柳、 若菜、 鶯、 雁、 百千鳥

          『NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子』山口仲美

          『NOISE 下 組織はなぜ判断を誤るのか?』カーネマンその他

          『NOISE 下 組織はなぜ判断を誤るのか?』カーネマン/ オリヴィエシボニー / キャス・R・サンスティーン / 村井章子(訳)  上巻ではノイズが発生する様々な場面が描かれていますが、下巻はノイズの原因と対処法がテーマとなっています。  上巻に引き続き医師、裁判官などプロ中のプロの判断に信じられないほどのバラツキがあり、それが社会的な許容限度を超えている実態が次々と明らかになっています。さらに、こうしたプロ中のプロは独立独歩で自分の直感的な判断を盲信するため、それを制

          『NOISE 下 組織はなぜ判断を誤るのか?』カーネマンその他

          『明解 歴史総合』帝国書院

          『明解 歴史総合』川手圭一ほか、帝国書院  帝国書院の『明解 歴史総合』を購入、読んでみました。  高校では2022年度から歴史総合・地理総合が共通必修となり、2024年度で3年目を迎えます。その教科書で異変がありました。ぼくたちの時代から歴史の教科書といえば山川なのですが、24年度の採択数では山川の『歴史総合 近代から現代へ』に変わって帝国書院の『明解 歴史総合』が1位となりました。  もっとも山川は進学校向けの『歴史総合 近代から現代へ』、中級の『現代の歴史総合』、

          『明解 歴史総合』帝国書院

          『わが投資術 市場は誰に微笑むか』清原達郎

          『わが投資術 市場は誰に微笑むか』清原達郎、講談社  2005年に発表された「最後の長者番付」で1位となった伝説のサラリーマン投資家・清原達郎さんが、咽頭がんで声帯を失い、引退を決め「私には後継者がいない」ということで株式投資のノウハウと、バブル期以降の市場の動きを公開したのが本書。無類の面白さでした。  「はじめに」だけでも迫力が違います。若い頃は会社四季報を3日で読んだとか、引退するのはショートで貪欲に儲けていく情熱を失ったからだとか(日本M&Aとレーザーテックの空売

          『わが投資術 市場は誰に微笑むか』清原達郎

          『経済評論家の父から息子への手紙』山崎元

          『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』山崎元、学研  今年1月に亡くなられた経済評論家だった山崎元さんの最後の著書をKindle版で購入、読んでみました。  東大の理系に合格した18歳の息子さんに宛てた手紙のうち、最後の経済的処世術みたいなアドバイスの部分を拡げて書き上げた1冊。新NISAで株式投資を始めたという方にもぜひ、これぐらい読んで、生前、著者が日本での普及につとめたインデックスファンドとは何かぐらいは勉強すると良いと思います  著者の現代

          『経済評論家の父から息子への手紙』山崎元

          『NOISE 上 組織はなぜ判断を誤るのか?』

          『NOISE 上 組織はなぜ判断を誤るのか?』ダニエル・カーネマン / オリヴィエシボニー / キャス R サンスティーン / 村井章子(訳)  ジムで有酸素運動のエアロバイクを漕ぎながら聴いているAudibleの1冊。  行動経済学などで有名になったバイアスについて書かれた『ファスト・アンド・スロー』に続き、今回はノイズを取り上げています。  本人はプロ中のプロと思い込んでいる裁判官たちの下す量刑に大幅な軽重があるというのが全ての出発点。事態を重く見た米国では実際に、

          『NOISE 上 組織はなぜ判断を誤るのか?』

          『特殊効果技術者になるには』小杉眞紀、山田幸彦 (著)、ぺりかん社

           時々、手に取るんですが、ぺりかん社の「なるにはBOOKS」シリーズは、新しい職種の実際がどうっているかを知りたい時に便利。実はいまの中高生向きということもあって、新しい仕事をどんどんカバーしてくれていて、村上龍の『13歳のハローワーク』がどんどんアップデートされている感じ。今回はCGや特殊メイク、ミニチュアなど映像に特殊効果を加える技術者が紹介されているので読んでみました。  『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞で日本映画として初めて米アカデミー賞へのノミネートを果たすなど、日

          『特殊効果技術者になるには』小杉眞紀、山田幸彦 (著)、ぺりかん社

          『「むなしさ」の味わい方』きたやまおさむ、岩波新書

           きたやまおさむさんは、本人は嫌がるでしょうが、なんていうか、時代の良心として日本の社会に寄り添ってきてくれた、みたい印象があります。吉本隆明さんが全集の推薦文として《北山修さんは、二度目には真摯な精神の治癒についての実践的な研究者として、凛々とした切口をもった著書をたずさえてわたしたちのまえにあらわれた。心のどこかでいい変身のマジックをみている気がする》と書いていますが、まあ、その通りだな、と。  きたやまさんは、吉本さんにも影響を受けていると思っていますが、吉本隆明さん

          『「むなしさ」の味わい方』きたやまおさむ、岩波新書

          『太平記 (下)』亀田俊和訳、光文社古典新訳文庫

           亀田訳『太平記』の下巻は後醍醐天皇が吉野で南朝を開くものの、楠木正行らが師直に撃ち取られ、北朝の軍事的優位が確定し、武士の狼藉、幕府内の分裂が進む第三部。足利直義は横暴な武士の代表格である高師直を失脚に追い込むが、逆に逃げ込んだ尊氏邸を御所巻きにされることなどを経て観応の擾乱が勃発するという第四部。尊氏の死後、義詮が二大将軍となるが、管領たちの争いは続き、細川賴之が三代義満を補佐することで太平の世となって完結する第五部が収録されています。  佐々木道誉は第三部では妙法院を

          『太平記 (下)』亀田俊和訳、光文社古典新訳文庫

          『自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊』

          『自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊 上下』ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン、櫻井祐子(訳)  原題は『The Narrow Corridor 狭い回廊』(原著2018年) 。ジムで筋トレ~有酸素運動をやっている間にAudibleで聴きました。  同じように聴いた『国家はなぜ衰退するのか』(原著2012年)の続編のような作品で、紙の本では上下巻700ページを使い、成功している数少ない国家はいかに「The Narrow Corridor 狭い回廊」を通り、

          『自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊』

          『太平記 (上)』亀田俊和訳、光文社古典新訳文庫

           上巻まで読了。  ダイジェストなのにダイジェスト感がなく、だんだん鎌倉幕府が衰え、後醍醐天皇が盛り返そうな雰囲気をかもしつつも、人材がたいしていないので早晩建武政権は瓦解するだろうという予感に満ちた書きっぷりなので、筋を追いやすい。セレクトされたのは長大な全40巻の『太平記』原文からの90話。まさか『太平記』をこんなかたちで読めるとは思ってなかったので、本当にありがたい限り。  急に権力を握ったことで、内ゲバに明け暮れる鎌倉時代の武士に続く南北朝期の武士も、忠義などの言

          『太平記 (上)』亀田俊和訳、光文社古典新訳文庫