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『NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子』山口仲美

『NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子』山口仲美、NHK

「100分de名著」はだいたい良いんですが、この枕草子編では4回分の講義に、特別章「女の才能、花開く 清少納言と紫式部と和泉式部」を加えたお得な構成となっています。

 有名な春はあけぼのから始まるんですが、清少納言の斬新さは、「時間」で自然美を切り取るという発想であるというのはなるほどな、と。

《『古今和歌集』の春の歌を調べてみると、春の自然美は、 霞、桜、梅、柳、 若菜、 鶯、 雁、 百千鳥、 呼子鳥 といった風物なのです。「時間」で自然美を切り取るという発想は、『枕草子』以前には見当たりません》(k.1401)。

《『枕草子』以後にできた『後拾遺和歌集』 になると、時間から切り取った情緒的な風景が歌に取り上げられています。「花ざかり 春のみ山の あけぼのに 思ひ忘るな 秋の夕暮」(一一〇二番歌) などと、『枕草子』の影響を感じさせる歌も出てきます。清少納言による、時間から自然美を切り取るという視点がいかに新しく、人々に衝撃を与えたかが分かるでしょう》(k.366)

 という引用は日本の古典の素人にとって、ありがたい指摘です。

 また、枕草子は中宮定子の全盛期の割と短い間に書かれて《凋落が始まってからの屈辱的で悲しい出来事はほとんど書かなかったということです。あくまで、明るく輝き、 意気軒昂 とした定子のサロンの様子を描き切っている。ここに『枕草子』の虚構があります》(k.307)というのは知らなかったな…《紫式部が宮仕えに出た時は、清少納言は、宮仕えを終え、引退して数年経っています。和泉式部は、いわば紫式部の同僚で、紫式部のほうが二~三年先輩です》(k.1162)というあたりも。

 古典をよく読む方には常識かもしれませんが、《清少納言と和泉式部は平易な日常会話語を好んで、前者は散文を綴り、後者は和歌を詠んでいました。それに対して、紫式部は、歌の世界で用いる雅やかな言葉「歌語」が好み》(k.2006)というあたりもありがたい教示です。

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