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『進化のからくり』千葉 聡

『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』千葉 聡、ブルーバックス

 毎日出版文化賞を授賞した『歌うカタツムリ』岩波科学ライブラリーは地味でパッとしないカタツムリが進化研究では重要なプレイヤーであることを解き明かしていましたが、『進化のからくり』では、カート・ヴォネガット が《ガラパゴス諸島の生物は、アフリカのものと比べると、パッとしないと言わざるを得ないでしょう。しかし、それが彼らの運命であり、彼らが百万年を経て進化した結果なのです》(『ガラパゴスの箱舟』朝倉久志訳、早川書房、1981)と書いたガラパゴスの島で、著者が本を読むところから始まります。

 修士課程で預かったサーフィン好きの学生が、突然インドに旅だってしまったものの、研究室に戻ってきて、やがてサーフィン好きの米国人ポスドクと意気投合して、そこからホソウミニナが生物的に別れていく途中ではないかというストーリーに基づく研究が覆され、二生吸虫の感染による異化だったというあたりの話しは凄いな、と。そして、その章に遠藤周作の『深い河』と1968年制作のサーフィン映画の嚆矢だった『エンドレスサマー』をもってくるあたりのセンスが素晴らしい。

 フリオ・イグレシアスが『北斗の拳』のサウザーのように内臓逆位(Situs inversus)だったとは知りませんでした。

 なんかパッとしない左巻きカタツムリのジェレミーの話に感動するとともに、それが終章で多くの市井の生物愛好者の助けによって、日本で新た
展開を生むあたりの大団円も見事。

 スコットランド出身のポスドクが小笠原のフィールド調査に行くあたりの描写も素晴らしいな、と。

[目次]
第1章 不毛な島でモッキンバードの歌を聞く
第2章 聖なる皇帝
第3章 ひとりぼっちのジェレミー
第4章 進化学者のやる気は謎の多さに比例する
第5章 進化学者のやる気は好奇心の多さに比例する
第6章 恋愛なんて無駄とか言わないで
第7章 ギレスピー教授の講義
第8章 ギレスピー教授の贈り物
第9章 ロストワールド
第10章 深い河
第11章 エンドレスサマー
第12章 過去には敬意を、未来には希望を
第13章 グローバルはローカルにあり

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