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『オッペンハイマー』

『オッペンハイマー』を友人たちと観にいきました。
凄い作品です。
3時間ノンストップなのに緩むところがなく科学が切り開いてしまった恐怖の「新しい世界」を描くとともに、倫理的な裁きを政治的な裁きに重ねる構成が見事だな、と。公聴会の場面はまるで『十二人の怒れる男』を観ているようでした。
にしても出てくる物理学者はほとんどユダヤ人。ヒトラーが物理学を牽引してきたユダヤ人たちを信用できず、2年ぐらいリードしてきた製造競争に負けたけたんですけど、勝ったアメリカのユダヤ人も旧ソ連と同じようにユダヤ人差別で排斥される、みたいな。ファインマンさんがボンゴを叩くだけで一言のセリフもないのは寂しかったけど。
にしても、ユダヤ人であるオッペンハイマーが、西欧社会でバカにされないように絵画、音楽などの教養も身につけようとするあたりのいじらしさ…
オッペンハイマーに「卑しい靴売り」と蔑まれ、アイソトープ輸出許可の公聴会でもバカにされたことを根に持って追い詰めようとするルイス・ストローズも実はユダヤ系。ドイツではヒトラーに、米国では同じユダヤ人に追い落とされる皮肉。
『オッペンハイマー』では、ルイス・ストローズがどう描かれているか楽しみでした。ストローズは靴の行商人から身を起こした銀行家というか金貸し。ルーズベルトもアヘン商人の孫だし、ケネディの親父も「こいつが一番インチキやって株で儲けたから、証券監視委員長にしてやろ」ということで公職に就いたり、この当時の人事はメチャクチャなんですよね…で、その性根が最後に出る、みたいな。
原爆爆発実験を「トリニティ」(三位一体)と名づける皮肉は、改めて凄いな、と。原爆で廃墟になった長崎の大浦天主堂の前に横たわる聖人の首を思い出しました(写真)。
にしても、ロバート・ダウニー・ジュニア、マット・デイモン、ラミ・マレックなどのオールスターっぷり。みんな、クリストファー・ノーランの映画に出たいんだろうな、と。

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