複雑性PTSDにおけるフラッシュバック

今回は以前書いたこちらの記事で触れた複雑性PTSDの症状であるフラッシュバックに着目して記事を書きたいと思います。

フラッシュバックとは過去のトラウマを想起するような体験があった際にそのトラウマ体験が今起きているかのように反応してトラウマ症状が起こってしまう事です。
具体的にトラウマ症状というと、過呼吸や動悸や身体や思考の硬直や凍り付き、激しい恐怖、多汗やパニック発作など多岐に渡ります。
たとえば性的虐待を受けた人であれば、性加害者と同じ性別の人間が身体接触をしてきた場合にフラッシュバックが起こる場合があります。
なお、この反応というのは相手が強姦しようとしているかどうかに関わらず起こる可能性があります。

これは花粉症などのアレルギー反応の話と似ているところがあります。
たとえばスギ花粉症の人がトマトを食べるとトマトにもアレルギーを起こす場合があるという話があります。
スギ花粉とトマトには類似性がある為にスギ花粉症があるとトマトに対してもアレルギー反応を起こしやすくなるという事です。

これと同じようにトラウマがある人というのはトラウマ体験とわずかでも共通点がある場合に症状が発生するリスクがあります。
表情や言葉やニオイや声や身体的接触など五感を通じてトラウマが想起されるリスクがあるのです。
このような現象によってたとえば恋愛においてトラウマを受けた人であればその後の恋愛で毎回トラウマ体験を想起してしまい、まともに恋愛する事自体が難しくなってしまう可能性が高いです。

【具体例】
•津波の被害者が海に近づく事が怖くなる
•地震の被害者が工事など地震以外の理由で揺れを感じた場合に恐怖を感じる
•火事にあった人が炎を見る事や煙のニオイを感じる事で恐怖を感じる
•男性にレイプされた人が男性恐怖症になる(特に身体接触がある場合)
•溺れた事があるので海やプールに近づくだけでも動悸がする

そして今回1番書きたいなと思っている内容がフラッシュバックの際に記憶が想起されない場合があるという事です。
通常のPTSD(=単純性PTSD)の場合であれば、具体的にどの出来事がトラウマになっているかという事を本人がハッキリと認識している場合が多いです。
したがって本人はフラッシュバックが起きた際に明確にそのトラウマ記憶が想起されるという事が一般的でしょう。

ところが複雑性PTSDの場合は一つ一つのトラウマ自体は単純性PTSDに比べると大きくない場合も多いのですが、トラウマの上にトラウマが重なり続けている為にフラッシュバック症状の際に具体的な記憶が想起されない場合があります。
原因が分からないけど怖いというような状態になり、過呼吸や動悸や負の感情の暴走などが起こるのです。

すると本人としてもそのような症状が起こる原因として過去のトラウマが関係していると認識しづらくなります。
つまり今目の前にある人や状況が本当に恐ろしいものであるからだという認識になりがちであるという事です。
たとえば虐待やイジメなどで暴力を受けていた複雑性PTSDの人がその加害者と似た風貌や声やニオイの人と関わってトラウマ症状が起きたとします。
するとその症状を過去のトラウマ経験と結びつける事ができない為に目の前の相手に全ての原因があると錯覚してしまう可能性が高いのです。

このような症状によってその人にとって味方であるはずの相手に対して攻撃したり拒絶したりして本来であれば必要な人間関係を台無しにしてしまう可能性があります。
そしてそうやって大切な人間関係を台無しにする割には薄く浅い愛のない関係だけは長く続けたりしてしまいがちです。
というのもこのようなトラウマ症状というのは多くの場合には深い関わりの中で起こりやすいものだからです。

このような対人関係のトラブルの多さというのは境界性パーソナリティの人にもよく見られる傾向です。
境界性パーソナリティと診断される人の中でトラウマがあったり複雑性PTSDの診断基準を満たすような人というのは非常に多いのではないかと考えています。

トラウマというと単純性PTSDのように分かりやす
いものを思い浮かべられがちですが、複雑性PTSDの場合には本人としても自覚のないトラウマの累積による症状がある為、トラウマがある事は見逃されがちです。
あくまでも仮説ですが、境界性パーソナリティなどの別の診断をもらった人の中に無自覚のトラウマがあってそれに気づかない事が治療の妨げになっている場合があるのではないかと考えています。
記憶の具体的な想起を伴わないフラッシュバックというのはそもそもこれをフラッシュバックに含めて良いのかも含めて探っていきたいところです。

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