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『北斎漫画』(1981)

『北斎漫画』#一骨画

『北斎漫画』(1981)

監督・脚本: 新藤兼人
出演: 緒形拳、西田敏行、田中裕子、樋口可南子、フランキー堺、乙羽信子

九十年の生涯を閉じる瞬間まで鉛筆を握った葛飾北斎は、女性への妄想を春画にぶつけた。
北斎は年をとればとるほど若々しい絵を描いた。
そして死ぬときにいったそうである。
「あと十年ほど生きられれば、ほんとうの画家になれたのに」と。
そこに惹かれて六十九歳の時に『北斎漫画』を撮った。
北斎よりも長生きしているわたしは、今、猛烈に北斎に憧れるのである。

新藤兼人「いのちのレッスン」より抜粋


ざっとwikiったところ、

葛飾北斎(1760年?- 1849年)
改号すること30回、転居すること93回、2度結婚し、お金には無頓着、生涯で描いた作品三万点以上、作品は『冨嶽三十六景』『北斎漫画』『百物語』『冨嶽百景』枚挙に暇がない。
90歳まで描き続けた驚異の画狂老人を、新藤監督が撮るのだ!

緒形拳ファンの僕はこの映画も何度か観ているが、新藤兼人の本を読んだのでもう一度観た。
走る北斎(ナックル)から始まる、何処へ行くかと思えば銭湯であった。
走る姿は、Life Is Very Shortな人生(90歳まで生きたんだから通常は長いけど)を駆け抜けた北斎を象徴してる(と思う)。

居候先は、曲亭馬琴(西田敏行)の家2階、娘のお栄(田中裕子)と同居、馬琴の戯作挿絵で幾ばくかの稼ぎを得る。
そんなわけで、馬琴の友情にすがり、数々の師を仰ぎ絵の勉強をし、父親(フランキー堺)から無心し、娘からも世話を焼かれなんとか生きている。

そこへ登場するのが謎の女、お直(樋口可南子)であった。

『北斎漫画』とんがらし前

好きなシーンは、画家をいったん頓挫して唐辛子を行商してるとこ。
唐辛子の入れ物背負って「とんとんとんがらしー」て売り歩く姿がいい。

この映画、自分が中学生のころ、テレビで父と観ている。
ずいぶんと女体が出てくるから困った。
もちろん樋口可南子と蛸(タコ)が絡むシーンは、子供には度を越えていた。

ラストの年老いた北斎と馬琴のシーンは、どっちもボケでツッコミのない漫才のようでとぼけてる。
老人の特殊メイクがまだ中途半端な時期だろう、まるでコントのように見えてしまう。
でも新藤監督はその年老いた二人を描きたかったに違いない。
一緒に歳くった娘の田中裕子もいい感じで、
目が見えなくなった馬琴をドブへと誘導する悪戯ぶりが可笑しい。

監督、この映画『北斎漫画』を撮ったのが70歳前、
前回の『墨東奇譚』でこう仰ってる。

老人になっても性の問題はまとわりつく。
初対面の津川雅彦さんに、わたしは言った。
「荷風は女に性欲を感じなくなったら、もう小説は書けなくなると思っていたんですね。」
津川さんは「監督はどうなんです?」と切り返してきた。
「生力はありませんが、性欲はあります」
当時七十九歳のわたしの答えである。

-新藤兼人(2007)