『中継地にて 回送電車Ⅵ』堀江敏幸

土に還る。天に昇る。大気中に消え去る。どのような消え方も、ここでは許容されるだろう(「中継地にて」より)。
 さまざまな媒体の注文に応じて生み出された52篇の小さいけれど大きな世界。変わったことも、変わらないことも実感できる「回送電車」11年ぶりの発車オーライです。

素晴らしかった。特に後半(Ⅲ章、Ⅳ章)はもう、円熟の極み。これまでの回送電車シリーズどれも素晴らしいんやけど、今回はさらに磨きがかかっている。

優れた文学作品は時代を超えて読み継がれるものだけれど、作家がまさにその文章を生み出した、今この時のこの日本という社会、その空気感を共有しながら読めるのは、同時代の読者の特権だなあ。

堀江敏幸と同時代を生きられるという歓び。読み手にそう思わせる堀江敏幸の、媚びることなく外連もなく素っ気ない、しかし含羞の奥に佇む深い優しさと、痛みや悲しみへの共感。

次作をジリジリとした気持ちで待つというのも、同時代の読者の特権だな。

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