ありふれた土曜日

飲みに出たらやはり「今日もいい日だったなあ」と思いたい。つまりはその一日の物語に結末をつけて帰りたいと思っている。今日は昼の15時から抱けそうで抱けていなかった東中野の女と安いイタリアンバルでワインを飲み、ようやく女の部屋に入ることができた。シンクに溜まった食器が目についた。

外が暗くなってから女の部屋のベランダスペースで冷凍肉を焼いたのだが煙で体中の匂いが油臭くなり、そのまま風呂場に誘導した。そこで再び絡み合う。冗談で中に出してもいいかと聞いてみたが女の声が怒気を帯びたため終了したが何となく真っ直ぐ帰る気になれず友達に「飲んでる?」とLINEした。

友達が主催の渋谷の合コンに女3人、男4人という形で参加した。「あわよくば」を育ててホテルに持ち込むのがゴールような会なのになかなかマッチングしない。酔いも手伝ってみんなでハプバーに行こうという楽しげな案を出すが、乗り気のようでみんなダラダラとそれぞれの思惑を育てているのか動かない。

あの妖しい空間に足を踏み入れてさえしまえば勢いで挿入できるかもしれないのに尻込みするなんて勿体ない。23時50分。「終電が〜」という台詞を紋章を見せるかのように放った女と駅まで歩いて別れ下北沢へ向かう。その途中の池ノ上で降りてしばらく鬱で引きこもっている後輩の顔を見に行くことにした。

コンビニで買った鮭おにぎりとレッドブルとラテという統一性のない袋をボサボサ頭の後輩に手渡しマリカーをしてる間ずっと同棲して3年目になる本命彼女からの着信が鳴っていて「帰らなきゃ」と思う。思うのに機嫌の悪い声を聞く気になれずLINEで「今帰ってる」と打ちながら煙草を一本吸おうと思う。

平穏な生活を続けるためにはタイムリミットを守ることが一番イージーで必要不可欠なのに、理由もなく帰りたくない夜ある。この一日の物語のエンディングは、不安に駆られた彼女の額に頬をこすりつけて宥めすかしながら眠りにつくといったところだろうか。まだそこに辿り着きたくなくて、二本目の煙草に火を付けた。(完)


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