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わたしが書いた詩
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記事一覧

ヤマダ電機キリバス店  (2021年7月)

ヤマダ電機には何でもある
だから諍いは起こらない

朝はホームベーカリーでパン
コーヒーメーカーでエスプレッソ
ひと休みしてからイヌと散歩
ヤマダ電機に似合うのは
まんまる顔の茶毛のイヌ
午後はお客さん対応
疲れたらマッサージチェア
大画面テレビではキリバス
世界一早く朝日が昇る国

「ヤマダ電機キリバス店をつくろう」
社長も思わず快諾
ないものがないからあっという間に完成
キリバス人は大歓迎

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豆大福の日 (2021年4月)

四月の終わりにちかい
桜の花はもうとおい
あっというまに一日を消費して
気づけば空をみていない

豆大福が食べたい
ここ数日そのことばかりを考えていて
生活はとにかく平和だった
わたしという構造は案外むずかしくないと
うすく片栗粉のついた指をみて
満足げに笑っている

とてもよい
空が青くて豆大福は白い
そのとき急に
もっとも大事なことを思い出して駆けだす

新宿のシャンゼリゼでベトナムごっこをしたいだけ (2017年5月)

顔もわすれたし、声もわすれた
名前に至ってはもともとしらないし、借りた本もどこに置いたかわすれた

いっしょに観たものもわすれたし、いっしょに歌ったものもわすれた
シャンゼリゼごっこをしたことは覚えているけれど、シャンゼリゼごっこがなにかはわすれた
うっすらと夏だった、いつの夏かはわすれた

シャンゼリゼは新宿にあったように思うけれど、どこがどうシャンゼリゼだったかはわすれた
いい大人がふたりでど

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生きるためにパイを焼く (2020年10月)

女は思い出したように
レモンパイを焼いた
なんとなくだ
いのちにはそれ以上の事情が表明されていない

ある朝
ネコの死体が市の指定の袋につめられて
ゴミ集積所に放ってある
半透明は丸みをうきあがらせ
どうやらいまだに生ぬくい
陽光に照らされているのは
何故なのだろう
遠くからみていた

オーブンの熱では
歓喜や悲哀はすこしも減らない
人生は短くて
たった数回パイを焼いたら必ず終わる
黙っていた

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大阪のミャンマー (2018年7月)

大阪のミャンマーはやたらに生真面目な青年で、直立不動がよくにあう。まいにち夜の公園で詩を朗読しているから、はたからみるとちょっとあれで、しかも時々に勝手に感極まって泣いているという。

仕事がおわるとミャンマーは6キロの道のりを歩いて帰宅する。ひたすらにまっすぐ歩きながら、へとへとのミャンマーは詩を書いたりしている。ミャンマーは定期券を買ったことがない。ミャンマーには一ヶ月先の生活がわからない。そ

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トウキョウのスカイツリー(2022年2月)

マルちゃんはたかいところに住んでいる
あれがスカイツリーなんだよ
ときどき神さまが降りてきて
お花を咲かせたりする
だからまだ寒いっていうのに
この街にはもう梅が咲いている
ゼウスもアマテラスもブラフマンも
神さまの90%はせっかちだ

それからあれが江戸川
トウキョウと天国の境目をながれる川
向こうでわらっているのがひいおじいちゃん
マルちゃんが粘土でつくったお菓子をたべて死んだ

すごいね、マ

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サンデイ (2023年6月)

ある晴れた日曜日の朝
みうらくんにでんわをする

ちきゅうさん、僕は今、
自転車でイオンに行くところで、
いろいろと考えてしまって、 生きていてよかったなあとおもって、
ラブホテルの路地の陰で泣いているところなんですよ、
そう言われた

そうしてほとんど何にも話さずに じゃあイオンに行くんでと、でんわを切られた

週末金曜日
助けを求めて駆け込んで来た人は 僕はネットカフェ難民です、と言

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ライチと花 (2022年11月)

窓の近くに立っていた、ときどきライチの名を呼んだ、花がよく咲く家だった

ライチは空想上の犬だった、それなのによく懐いた
いつもわたしたちについてきて、ダルメシアンと何かの雑種だった
模様がすこし変わっていた、脚が短くまるかった、なぜだか一度も吠えなかった

花が咲かなくなったから、ライチはいなくなった
逃げてしまったのだろうか、あるいは死んでしまったのだろうか

あれから何十年も経って、

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