桜のトンネル

じぶんでつくった会社をたたむことにした、長い間したお仕事を辞めることにした、
じぶんの一部が失くなるみたいでずっと、さみしかった、

お仕事を辞めることを伝えると、
わたしがオアシスだったと言って、泣いてくれた人がいた、
こんなかなしいことはないと、倒れるくらい泣いてくれた人がいた、
福祉についてこんな風に真剣に語れた人ははじめてだったんですと、声を押し殺して泣いてくれた人がいた、
うちの会社に来てくださいとたくさんの会社から声をかけてもらった、
知らない会社からもお誘いをうけたりもした、
いっしょにあたらしい事業をしようと言ってくれる人もいた、
そんな中、ほかの会社さんがわたしのファンクラブをつくってくれたりもした、
人生ではじめてのファンクラブ、これは飛び上がるくらいうれしかった、仕事をがんばってきてよかった、

ずっと前、当時働いていた会社がいやで、ある日の昼休み、カバンも置いて会社から逃げ出したことがあった、
鍵もないから家に入れず、夜まで公園で泣いていたことがあった、
もう二度と働けないと、ぼんやり過ごしたことがあった、

そんならあんたが会社を作ったらええんや!と、今はもう死んだおじさんが、背中を押してくれた、
わたしは何にも知らないながら、ちいさな会社をつくって、いろいろな人に助けられて助けられて、わたしなりに一生懸命に働いて、なるべくたのしく働いて、ここまで来れた、

きのう、おじさんといっしょにみていたあの街の桜を一人でみた
あの街の、もうさいごの桜になる、

桜のトンネルがあって、わたしはその景色がだいすきで、
車椅子のおじさんとふたりで並んで、いつもトンネルの向こうを見てた、

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