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タイ旅行記⑤【正解はいつもわからない】

サラブリーのどこかよくわからない路上で途方に暮れ…ている場合じゃない。

無闇に歩いても道に迷うだけだろうから、とにかく人を見つけて聞こう。と言っても人がいないんだよなぁ、、
もう一度ぐるっと見回してみると、今いるところのすぐそばに畑?
みたいのがあって、なんか布か服か干してある?
ここ、もしかして人がいるんじゃ?

道路とその敷地の間のフェンスが一部途切れていたので、中に入って行ってキョロキョロしてみると、人の声が聞こえる気がする。
よく見ると20〜30mくらい先にいる人が、どうやらこちらへ話しかけて来ているようだ。近づいて行くと、人が2人座っていて、近くにバイクが2台ある。
片方のおじさんがタイ語で何か私に向かって言っているようだけど、何て言っているのかわからない。
たぶん、どうしたの?とか聞かれてるんだろうなと思い、「ワット・プラプッタチャーイに行きたいんです」と言ってマップと写真を見せる。

おじさんがカタコトの英語で「ここに行きたいの?この場所わかるよ。バイク乗る?」というようなことを言う。
場所を教えてもらえれば良かったんだけどな。
ここから遠いのかな、と思いながらおじさんたちを改めて見てみると、お揃いのベスト🦺のようなものを着ている。
あ、この人たちひょっとしてバイクタクシーのドライバーなのか。

「バイクで行けるよ。その場所知ってるから大丈夫」というようなことをまた言っているので、きっとバイクで行くくらいの距離なんだろうな。
他に行く手段はないし、乗ってみるか。という気持ちになってくる。
金額を聞くと60バーツ。ボッタクリじゃないよね。240円ならいっか。

OKするとおじさんはすぐにバイクにまたがり、私が後ろに乗るのを待っている。後部のシートはわりと縦の長さがあり、安定して腰掛けることができそうだ。
それでも初めてのバイクタクシー、おじさんの肩にがっしり掴まってシートをまたぐ。

私が乗るとすぐにバイクは出発し、けっこうな速度を出して走って行く。
これ動画撮りたい!と思ったけど、このスピードではiPhoneを取り落としかねないし、自分が落ちたらたぶん大ケガ。ここはおとなしく、おじさんにつかまって安全に行こう。

スリルがあるスピード感ながら、顔と腕に直接感じる風が気持ちいい。沿道にはローカルな野外食堂などが現れ、私が見たいと思っていた田舎らしい景色が流れて行く。
バイクタクシー悪くないな、これは移動手段としてアリだ。
2日前にワット・プラケオで出会った日本の植物研究者さんに、バイクタクシー乗りましたよ!と心の中で報告する。

景色を見てると、さっきバスで通ったのと同じ看板のところを通ったりして、どうなっとんねん?という気持ちになったりもしたけど。
バイクが遠回りしてるのか?バスがもっと手前で降ろしてくれればよかったのか?
わからない。今はおじさんの肩にしがみついて、行けるところまで行くしかない。

バイクは10分ほど走り(バス降りたとこからだいぶ走ったんでない?)にわかに減速して何かの敷地内に入ったかと思ったら、車がたくさん停まっている広い駐車場を横目にゆるゆると走り続け、まもなく目の前には、赤い屋根の建物が現れた。
建物には厳かな感じのする装飾。その先には長い石の階段が見える。人もそれなりにいて賑やかやだ。
この感じ、まさしくお寺なのでは!?

ドライバーのおじさんはバイクを停めて言った。
「ワット・プラプッタチャーイだよ🛕」

ワット・プラプッタチャーイ🛕到着←🏍️💨

わー無事着けてよかった!おじさん本当に連れて来てくれてありがとうね!
疑ってたわけじゃないけど、ちょっと不安ではあったので胸をなで下ろす。
乗車前に聞いた金額を支払うと、「帰りはどうするの?」と言っているよう。
「このあとサラブリー駅に行きたい」と言うと、電話してくれたら迎えに来ようか?と言って電話番号を教えてくれる。
一応金額を聞いてみると160バーツ。さっきバスで10分のとこから60バーツだったから、バスの距離分が100ってことか。それって妥当な金額なのかな?ほんの少し逡巡していると、

「何か助けが必要?」と後ろから声がかかる。
振り向くと、バイクが停まったところはカフェの前で、カフェの店員さんが私たちを見てモメてるとでも思ったのか、声をかけてくれたらしい。
事情を話すと、タイ語でおじさんと話した彼女が「あなたをここまで迎えに来る分も料金が発生するから、妥当な金額だって」と通訳してくれる。
そうだよね、一回さっきおじさんがいたところまで戻ってまた来てくれるんだもんね。納得しかけていると「140バーツでいいって」と、どうやら値段交渉までしてくれたようでありがたい!金額に了承し、じゃあ後で電話しますと言って、お姉さんにお礼を言う。
お姉さんは笑顔で「どこから来たんですか?日本なんですね。後でドライバーさんに電話してね。どうぞ観光してきて」と私をお寺に見送ってくれた。

赤いトタン屋根の建物は山門のようなものだろうか。両脇にはお参りのための、日本で言うとローソクや線香といったお参りセットを売っているところがいくつか見られる。
参道の先に見える階段はずいぶんと高いところまで伸びているように見える。イメージしていたよりも大きなお寺なのかもしれない。

階段の前まで行って見上げると、岩山がもの凄い迫力で鎮座し、むき出しの岩肌の手前には仏塔の先端のような金色のものが見える。あそこがお寺だろうか。
階段下の両脇には、コブラのような石像と、それを四方から取り囲む仏の使いのような像。表情といい、こちらも迫力。

参道の先にあるこの階段を上っていく🪜

階段を登って行くことにする。雲上にでも登るくらいの気持ちでいたけれど、登り始めたらすぐに先ほど仏塔の先端と思ったものが見えてきて、そんなにかからずにあそこまで行けそうだ。岩肌の迫力で高さがあるように見えたんだろう。

登りきった正面には、胸を張るようにこちらへグッと迫って来る巨岩。湿って黒く光っているのがより迫力を増している。ところどころ、と言っても広い範囲に生えた苔が、この岩がここに存在し続けている長さを思わせる。
岩の前には、岩とともに歳月を重ねてきたと思われる苔むした石仏。そして対照的に、眩しい金色で覆われた仏像が座している。
岩に沿うように、同じ角度で一本の木が伸びている。木から生える葉の緑もまた、岩や石仏の苔とは対照的に明るくまぶしい。

苔むした岩肌と石仏

ここが階段を登った突きあたりで、左に行くと階段下から一部見えた金色の屋根のお寺がある。建物の手前に靴が5足ほど置かれているから、やはり靴を脱いで入るのだろう。

反対の右側に目をやると、そちらにも道があって岩肌がずっと続いて見える。先に右に行ってみようと思って歩いて行くと、岩に窪みができて洞窟になっているところがあり、そこにも何か像が置かれている。「Hermit Cave」と書かれた看板、仙人窟という意味のようだ。
洞窟前を横切って行く猿。

仙人窟と🐒

🐒?

猿が歩いて行く方を見ると、あ、猿猿猿🙈🙉🙊猿がいっぱいいるわ。
そういえば、サラブリーへ来るバスでお世話になったお姉さんが、そのお寺monkeyがいるよと言っていたことを思い出す。
この先は猿山なのかな?食べ物は持っていないけど、寄って来てバッグの中から何か持って行かれたりしたらな…と心配になって引き返し、お寺の中に入ることにする。

靴を脱いで中に入ると、さらに岩が斜め上に覆い被さってくるかのように迫っている。岩肌の足元には金色の仏像が並び、お参りしている人たちがいる。
さらに奥があるようなので進んでみようと思う。床が濡れていて、裸足の足裏が濡れるけれどしかたない。雨は降っていないのに岩肌も艶々と濡れているし、ここはこういうふうに水が垂れてくるところなんだろう。

迫り来る岩肌と仏像に金箔を貼る人

下から見たときは金色の仏塔のようなものと屋根が見えて、ここが屋内なのだと思っていたけど、来てみたらところどころ屋根があるものの岩に沿って仏像が置かれているのでほぼ屋外だ。
先に進むと、山の上からの眺めのような景色が広がっている。

一番奥に、幾体かの仏像が見えた。その横には、岩を背にした寝仏が安置されている。ワット・ポーの涅槃仏ほどではないにしても、かなり大きな仏様だ。

手前で子ども2人がお参りセットのようなものの売り子をしている。
10歳くらいだろうか、金色の布を私に差し出し、タイ語で何か話しかけてくる。その金色の布を買うことのご利益などを説明してくれているのだろう。
身振り手振りもまじえて説明してくれて、広げるとかなり長さのあるその布を、どうやら寝仏に掛けて差し上げるというもののよう。金額は100バーツとのこと。
布の隣りには通常のお参りセットと思われるものが置かれていて、そちらはいくらか聞くと20バーツ。
金額の差からして、金の布の方はかなり特別感がある。寝仏に3枚掛けられているのが見えたが、きっとこれをやる人は多くないんじゃないか。

まぁでもせっかく熱心に説明してくれたしと思い、布とお参りセットの両方を購入。
布は広げてハンガーのようなものに掛け、ハンガーと繋がっている細いロープを引くことで仏様のお体の上の方まで上がっていく仕組みになっている。

寝仏様に金の布を掛けているところ

お参りセットはローソク、線香、先っぽにお花や葉っぱのようなものがついた棒、金箔。
点火したローソクから線香に火をつけて鉢の中に立てる。これは日本と同じ。
1本に見えた棒は2本が一緒になっていて、棒と棒の間にお札をはさんで別の鉢に立てる。

棒と棒の間にお札を挟む💴これがお賽銭?

そして金箔を仏像に貼る。金箔を貼るところを子どもがビデオ撮影してくれたけど、仏像よりも自分の指にばかり金箔が貼りついてしまい、うまく貼れなかった。

寝仏様 近づくと貼られた金箔が見える✨

子どもたちにお礼を言い、3人で記念写真を撮らせてもらう。

これで下山するつもりが、子どもの1人が「タンブン、タンブン」と言って、ついて来てという感じで私の前を歩いて行く。
「タンブン」という言葉はガイドブックにも載っていて、タイに来る前にチラッと読んでいた。
タンブンとはタイの仏教で徳を積む行為のこと。お寺へのお布施や寄付だけではなく、人に対して行う善行などもタンブンになる。徳を積むことで来世で幸せになれるという観念で、タイ人の生活に浸透しているものだそう。

今ここでこの少年が言っているのは、もっと徳が積めるところがあるから案内してあげる、というようなことだろう。他にもお堂があったりするんだろうか。

彼について行くと、さっきの猿がたくさんいたところを通り、

仙人窟の少し手前と🐒

その奥にさらに上へ登る階段が現れる。これを登って行くようだ。

どこにたどり着くか分からずに登る階段

歩きながらしきりに何か話をしてくれているが、タイ語なのでほとんど全然わからない。ただ、「お父さん」「お母さん」という単語は聞き取れて、彼のそのときの表情とあわせて考えると、たぶん両親が亡くなってもういないというようなことを言っている気がする。
だんだん雲行きが怪しくなってくる。
これは…ひょっとして…カモられているのでは?🦆

そうだ、音声翻訳アプリ入れて来てたんだった。
国立研究開発法人情報通信研究機構による研究で作られたもので無料で利用でき、一方向でも双方向でも翻訳可能なVoiceTraというアプリ。

アプリを起動したiPhoneを彼に手渡すと、音声を入力し始めた。写真や動画の撮影もそうだったけど、扱いにとても慣れている。
入力されたものを渡されて見てみると、案の定だ。両親が亡くなり、学校に行こうにもお金がなくて教科書や制服が買えない。今日はそのお金を稼ぐためにお寺に働きに来たと。

やっと私に話が通じるとわかった彼は、何度も音声入力し、言葉を替えて切実さを訴えてくる。
日本語訳を見てうなずきながら、あとで案内してくれたお礼のチップをあげないわけにはいかないな、だけどいくらくらいあげたらいいんだろうか。と考えながらひたすら階段を登って行く。
この段数、参道から見上げた階段の比じゃない。息があがってきた私を見て、少し休みましょう、でもあと少しですよ、と少年が気遣ってくれる。

階段の終わりが見えてきて、視界が開ける。こっちですよ、と言われて歩いて登れる岩の上に上がると、広大な山上の眺めがそこにあった。
これは!サラブリーを一望できているのでは!?(サラブリーは広いのでそんなわけない)
連れて来てもらわなかったら、お参りの後そのまま下りていたな。こんなところがあるなんて!

サラブリー(の一部)を一望する

反対側を振り返ると、さらに上の方にお寺のお堂と思われる建物が見えていて、人の声がかすかに聞こえる。
あそこにも行くのかなと思ったら、少年は来た道を引き返して行く。ここまで来られたからいいか、と思い彼について下山することにする。

さらに上があったが、この先は登らなかった

猿たちのところまで下ると、右へ曲がれば仙人窟とお参りしたお寺。猿たちの中を通ってこのまま下る階段もある。
なかなかお金を出さない私に見切りをつけたのか、彼が「ここから下に行くこともできます。じゃあお気をつけて」と暗い表情で別れを切り出すので、「待って。案内してくれたお礼にチップをあげるから」と言ってお金を出す。

いくらあげたらいいのか…

タイにはチップの習慣があり、ホテルで荷物を持ってもらったら20〜50バーツ程度、レストランでは飲食代の5〜10%というのが相場とガイドブックで見た記憶があった。
だとすると、これくらい?と思う金額を渡すと、「ありがとうございます」と丁寧に受け取りはしたものの、表情は暗いまま。少なすぎたか…

翻訳アプリを使いたいという手振りをするので渡すと、「制服を買うのにあと〇〇円足りません」と表示される。具体的な金額を提示するもんなんだね、とちょっと驚く。
だけど彼の言う金額は、私が渡したのの4倍。それはさすがに多すぎない?たしかにとてもいいガイドだったと思うし、行く予定じゃなかったところに連れて行ってもらえてありがたいけど…

「ごめんね。旅行の途中であまりお金ないから」とタイ語に訳したものを見せて、追加のお金を少し渡す。
また丁寧にお礼を返してくれたけど、彼の言い値には遠かったので浮かない表情のまま。あんなに可愛かった笑顔はどこかに消え、足早に去って行ってしまった。

階段を下りながら、私の気持ちも下降していく。
もう少しあげたら良かっただろうか。でも言い値までは出そうと思えなかったし、それなら結局彼は残念な気持ちになるだろうし、同じことかな。
お父さんもお母さんも亡くなってというのが本当だったとしたら?
この方法で稼ごうと思ったら、タイの人は案内を必要としないだろうし、外国人をつかまえてってなると…サラブリーに来て、しかもこのお寺に来る外国人がどれだけいるだろうか?次に彼がある程度のお金を得られるのはけっこう先になってしまうんじゃないの?

どうすれば良かったのか、どうすればお互いに気持ちよくお別れできたのか。
頭の中で堂々めぐりをしながら階段を下り終わったとき、彼と別れた後まったく景色を見ずに下りて来てしまったことに気づいた。

(タイ旅行記⑥へつづく)

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