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別々に過ごしてきた時間を経て思い出すあの頃

久しぶりに会った人がお酒を飲んでごきげんに洋楽を口ずさむのを見て、「この人はわたしの知らないところで、わたしの知らない時間を過ごしてきたんだなあ」としみじみ思った。聴いたことのない曲。昔は邦楽ロックの話ばかりしていたのに、いつのまに洋楽を歌えるようになったんだろう。

たまに会う友人とか、知ってると思ってた人が全然知らない人に思える瞬間がたまにあって、そのたびに驚かされる。

人見知りの人は、誰かとしばらく会わずに時間が経つと、それまでの関係がリセットされてしまうと聞いたことがある。どちらかといえば、わたしもそのタイプだ。

実際に、いっとき仲を深めたはずのひととの関係が、時間とともにすっかり変わってしまったのを感じたことがある。数年ぶりに友達に会った日、自分も相手もバレバレじゃない程度に気を遣いあっていて、どこかよそよそしくて、寂しかった。バイバイした後になって、会えたうれしさよりも、寂しさの方がちょっと上回っていることに気づいた。

一緒に過ごす時間が多ければ多いほど、共有できる情報や感情は増えるし、そのひとの心に触れることもできる。でも逆に会わない時間が延びていくほどに、知らないことばかりが増えていく。

数年会ってないひとに久しぶりに会うと、それぞれ別の場所で過ごしてきた時間が目の前に立ちはだかる感覚がある。自分はそれを無視できなくて、別々で過ごした期間を一瞬で飛び越えて、一緒に過ごしていた“あの頃”に戻れたらいいのにとか思う。

でも“あの頃”の自分たちは“あの頃”に置き去りにされたままで、いまの自分たちとは違っていて。だからこれからまた時間を過ごして、変わったり変わらなかったり、途切れたり続いたりの新しい関係を続けていくんだろうな。

それでも、あの頃を自分ひとりで懐かしむのは少し寂しいから、たまには一緒に“あの頃”の話をしたい。





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