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【二次創作小説】秘密の電話

こちらは「太陽よりも眩しい星」の二次創作小説です。
20〜21話頃のお話の裏側を想定して書いています。
一部にネタバレも含みますのでご注意ください。


♪プルルル プルル
♪プルルル プルル

ある日の昼下がり。
ケータイが鳴った。

(あら、珍しい…)
待受画面に表示されたのは数年ぶりに見る名前だった。

淹れたてのコーヒーで食べかけのクッキーを喉にながし込む。
ひと呼吸置いてから出た。

「はい、岩田です」
『こんにちは〜!神城です。神城光輝の母です』

長女が小学生の頃にお世話になっていたママ友さんだった。

「神城さん!お久しぶりです〜」
『お久しぶり〜!ずいぶんご無沙汰してたけど番号変わってなくて良かった〜』
「本当にお久しぶりですねぇ!お元気ですか?」
『元気よぉ!岩田さんは?』
「うちも家族みんな元気です」
『そっかー良かったわぁ!さえちゃんも?』
「朔英も元気です」

神城さんは相変わらず明るい。

長女の朔英が小学生の頃、6年間同じクラスだった男の子のママさんで、朔英が一度おうちにお邪魔したことがある。
電話で話すのは訪問のお礼をした時以来だ。

「今日はどうされたんですか?」
『んー……』

おや?
神城さんにしては珍しく歯切れが悪い。

『あのね、さえちゃんには黙っててくれる?』
「?? はぁ…」
『実はね、昨日光輝がものすごく浮かれて帰ってきてね』
「ああ、光輝くん!」

最近見かけた光輝くんの姿を思い出す。

「光輝くん、そういえば北高なんですよね」
『そうそう、絶対ムリだと思ったのに滑り込みセーフでね〜』
「こないだ、朔英が学校休んだ時にノート持ってきてくれたんですよ」
『あら〜!そうだったの。うちにもさえちゃん、ノート届けに来てくれてたわよ』
「北高だと北の沢の子は少ないのかな」
『そうかもねぇ』

地元の北の沢駅は地下鉄の終点だ。
北高は地下鉄を乗り継いだ場所にある。

「光輝くん、すっごくかっこよくなってましたね〜!」
『なーんも!さえちゃんこそ相変わらずしっかりしてて、それにきれいになって〜』
「いえいえ、そんなそんな」

『そう、それでね、昨日光輝が浮かれて帰ってきて』
「もしかして、告白でもされたんですかね?」

茶化して言ってみたら、神城さんに
『惜しい!』
と言われた。

『それでね、あまりにもわかりやすく浮かれてると思ったら、夜になって"俺、明日は早く出るから"とか言い出すじゃない?』
「まぁ!じゃあ、やっぱり…?❤」

背が伸びてかっこよくなってた光輝くんを思い浮かべた。
うんうん、あの見た目は絶対モテる。

『それでちょっとカマをかけてみたのよね』
「カマを?」
『誰と行くの、って』
「もしかして、彼女ですか?」
『そうなのよ〜!』
「キャー!やっぱり告白?」
『自分から告白したみたいなのよね』
「わーすごい!男らしいですねぇ」

最近の子は草食系ばかりと聞いてたけど、自分から告白するなんて。
光輝くん、やるな。

『なーんも!昔っから片想いしてて、やーっと告白したみたいなのよぅ』
「それでも自分からっていうのがすごいじゃないですか」
『まぁねぇ、やっとこ頑張れたみたいでね』
「光輝くんに想われるなんて、どんな可愛い子なんでしょうねぇ」
『えーと、それがね』

またしても神城さんの歯切れが悪くなる。

「えっと…、もしかしてお相手はその、ギャルみたいな??」
『ううん、真面目で良い子なのよ〜』
「そうなんですね」
『というか、その』
「?? はい」
『さえちゃん、なんだけど』
「……………」

「はいーーーーー?????」

まったくもって予想外の話にびっくりして、思わず変な声を出してしまった。

「え、うちの朔英ですか!?」
『そうなのよ〜!さえちゃん!…やっぱり、まだ知らなかった?』
「ぜ、全然知らなかったです…!」

朔英は口数が少なくおとなしい子だ。
顔はまぁまぁ可愛い方だと思うが(親の欲目かもしれない)、背が高くて骨太で、男子にモテるというよりは女子に頼りにされてるタイプ。
光輝くんのお相手とは、正直あまり考えてなかった。

『いやね、光輝は昔っからさえちゃんさえちゃんて、家ではさえちゃんの話ばっかりしてたのよね』
「あー、うちも小さい頃、光輝くんの話をよくしてたような…」
『うちの子はわかりやすいからさ、もうチビの頃からさえちゃん大好きなんだなーって思ってたのよね』
「そ、そうだったんですか…!」
『北高もさえちゃんを追いかけたんだと思うし』
「そ、そんなことはないんじゃ」
『ううん、絶対そう!それで今回もすぐピンときて』
「へ〜…、は〜…」

男女交際?
家でごろごろテレビを見てる朔英が??
神城さんは確信たっぷりに話しているけど、私は正直まったくもってピンとこない。

「あ、でも、そういえばうちの子も、今朝は少し早く出たような…」
『そうでしょ!?』
「部活って言ってたんですけど…。あと、昨日は晩ごはん用の大根おろしを大量にすりおろしてました」
『そうなの!?さえちゃん面白いわぁ!お手伝いえらいわねぇ』
「いえいえ、そんな大したアレでは」

神城さんが朔英の全部をベタ褒めしてくれるのも何だか混乱する。

『そう、それでね、うちの子は特別わかりやすいからすぐにわかったんだけど、お付き合いとなると何かと女の子の方が不安があるかと思って』

神城さんが急にかしこまった口調になる。

『さえちゃんがまだお母さんにお話ししてないかもしれないとは思ったんですけど、こちらからはきちんとお話ししておいた方が良いんじゃないかと思って、それでお電話させていただいたんです』
「…そうだったんですね、ありがとうございます」

もう高校生、されど高校生。
しっかり者の長女だけど、まだまだ幼いところもある娘なので、こういう配慮はありがたい。

『これからどうぞ、よろしくお願いいたします』
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

かしこまったご挨拶をして、何となくへへへと照れ笑いし合う。

『それでできれば、さえちゃんには私から話したことは秘密にしていただいて、さえちゃんのペースで話してくれるのを待ってもらったほうがいいかなって』
「なるほど」
『お泊まりとか、そういう怪しげな話になった時には連絡をとらせていただきますので』
「…お泊まり……あるんですかね?」
『光輝はさえちゃん大好きだから、すごく大事にすると思うし、私にもバレてるからそうそう変なことはしないとは思うんだけど…。万が一そういう話が出てきたら、ということで』
「はい、わかりました」

朔英は無口だけど周りをよく見る賢い子だ。
親に嘘をついて外泊するとは考えにくいけど、先方がこう言ってくださるのは安心だ。

「丁寧にありがとうございます」
『いえいえ!こんなきっかけだけど、岩田さんとまたお会いする機会がありそうで嬉しいわ〜』
「私もです」

ふふ、とまた笑い合う。

『さえちゃんがなかなか話してくれなくても、責めないであげてね。光輝も私がツッコんで白状しただけだから』
「そ、そうですよね。気をつけます」
『じゃあ、突然ごめんなさいね』
「お電話ありがとうございました」
『この件以外でも、そのうちお茶でもしましょ』
「わぁ、ぜひ!」
『じゃあ、失礼します』
「失礼します」

電話を切ってからも、内容を思い返してしばらくボーッとしてしまった。
気づけばコーヒーはとっくに冷めていた。

***

朔英はそのあと、新しいリップを買ったり、いつも家族で行く初詣や雪まつりに友達と出かけたりと、明らかに行動パターンが変わった。

夜、誰かと延々とLINEしていることもあるようだ。

でも半年経っても未だに彼氏がいることを自己申告してくれない。
もともと無口な子ではあるけど…。
母はちょっとさびしいぞ、朔英。

クリスマス前にリュックを膨らませて出かけたり、家で友達とバレンタインチョコを作るのを見かけるたび、必死でツッコむのを耐えている。

今日も神城さんにLINEする。
「口がもごもごして苦しいので、お話聞いてください!」
『あら〜!円山に新しいカフェができたみたいよ』
「行きましょう!」

fin.


こちらは「太陽よりも眩しい星」の二次創作小説です。
明るい神城ママが大好きなので、お付き合い後のふたりのママ同士がこっそり電話したという想定で書いてみました。

こういう内容は設定が浮かべば一気に書けるので楽しいです♪

作中にほとんど出てこない朔英ちゃんママの風貌を想像しながらお絵描きするのも楽しかったです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪

2024年5月12日
神城光輝誕生祭を記念して
ちー

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