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「なりきりチャット」のオフ会に行った話

例のごとく20年前の話だが一度だけなりきりチャットのオフ会というものに参加したことがある。
レストランを貸し切っての大規模なオフ会で、こんな機会は滅多にないだろう、ということで私は参加を決めた。

そのサイトには私の恋人のキャラクターもいたので、ドキドキして「オフ会は参加されますか?」と聞いたのだが「オフでの交流はちょっと抵抗があって………」との答えだった。
ちょっと残念ではあったが、ただでさえ情報量の少ない当時のネット社会、こういう考えの人の方が多かったように思う。

恋人のキャラクターのプレイヤーは参加しないが、普段仲良く話している人たちと実際に会うのは楽しみでもあり、ちょっと怖くもあった。

オフ会当日は気合いを入れて、キャラクターのイメージが壊れないような服選びをしたような記憶がある。
参加者全員同じ考えだったのだろう、格好いいスーツ姿の人や、ゴスロリの人………様々な勝負服の人がいた。

席に着くと一人一人自己紹介をするのだが、キャラクターのイメージそのままな人から、大人しいキャラクターを演じてる人が元気に喋っていたりと「正反対」な例もあり面白かった。

「いっちさん!この間◯◯さんに告白されてましたよねえ〜!」

突然話しかけられて驚くが、そのノリのいい話し方に(ああ、知り合いのキャラクターだな)と思った。

「実はね、◯◯さんってMって設定だからSしか愛せなくて………いっちさんってSなんですか?」
「ええっ!?いや、どうだろ………そういうプレイは(なりきり上で)したことないですが……」

側から聞いたらとんでもない会話だが、前も書いた通りなりきりチャットを趣味にしていることをリアルの友人に話したことがないので、現実でこういう話をするのは新鮮で楽しかった。

(オフ会に参加して良かったなあ〜)

と思った。

「なになに?何の話?」
話に入ってきた女性がいた。
その人はサイトでは「言葉が喋れない」キャラクターを演じていて、「チャット」上で言葉を喋れないキャラクターが演じられるということは、文章能力のかなり高い人だった。
「あ、いつもチャットのログ拝見してますよ!すごく魅力的なキャラクターで………」
私は素直に感想を言ったのだが、ふとしたことに気づく。

「あれ、先輩………」
そう、その人は同じサークルの先輩だったのだ。

「えっ、もしかして◯◯ちゃん!?」

レストランの照明が暗かったので最初はよく見えなかったが、この人は確かに先輩だった。

「うそぉ〜こんなところで会うなんて!なりチャやってるなら言ってよ!しかも同じサイトじゃん」
「リアルではこの趣味隠してるんですよ〜!でも偶然とはいえお会いできて嬉しいです。」

当時、無数にあったなりきりチャットのひとつのサイトで、あろうことか同じ学校の先輩に会うとは………世の中狭すぎである。
先輩とも話が弾んだ挙句、当日来られなかった人とも電話をつないでもらって話したり、管理人に挨拶したりと実に有意義な時間を過ごせたのだが一つだけホッとしたことがある。

先輩とチャHしてなくて良かったなあ〜!

先輩のキャラクターは受だったので攻の私にはいくらでもチャンスがあったし、魅力的なキャラクターだったのでログを眺めながら若干期待していた面もある。
だが、それを実行に移さなかったのは正解であった。

先輩とチャHしたら学校で会うの気まずくなるもんな………

その後、決して先輩の演じるキャラクターに手を出すことはなかった。

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