次を期待させる無貌の作家『森をひらいて』

雛倉さりえ『森をひらいて』(新潮社)を読んだ。この方の作品は、これまで3作を読んだが、それぞれ題材が異なっており、そのたびに驚かされる。そして、読み終わると、「次の作品が出たら読まなければ」と思わされる稀有な作家である。
私は小説の感想をnoteにほとんどあげないが、いろいろと読んではいる。人に勧めたいと思ったものしか書いていないので、いきおいほとんど書かないことになっている。

『森をひらいて』はファンタジーともSFともとれる作品で、これまでの作品が現実よりだったのに比べるとだいぶ違っている。とはいえ、著者独特のしっとりとした情感のある描写や、登場人物のそっけない個性はそのままで違和感なく題材と融合している。不穏な雰囲気と甘い絶望に酔う。

どこかで起きている不可視な戦争の最中、隔離された臨時校舎で過ごす少女たちがの物語。少女たちは想うことで「森」を作ることができる。作中には「森を飼う」という表現もあった。
戦争が進む中、戦いの真実、臨時校舎の真実、森によってひらかれる可能性、そして少女群像がもつれ合いながら進んでゆき、気がつくと読了していた。

雛倉さりえは作品ごとの重要な題材の描写が秀逸である。『もう二度と食べることのない果実の味を』の狂おしい愛欲、『ジゼルの叫び』の幻惑的な踊り、そして今回は目眩をもたらす森の描写である。
やはり、読み終わって次作も読まなければと思った。雛倉さりえには、まだ先がある。




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