見出し画像

DFRLabウクライナ侵攻2年目の総括の感想 #DFRLab_U2nd

DFRLab(デジタルフォレンジックレサーチラボ)の6つのレポートからなるウクライナ侵攻2年目の総括をご紹介した。


●1年前との違い

1年前のDFRLabのレポートとざっと見比べて見た。

昨年のレポート
Undermining Ukraine: How the Kremlin Employs Information Operations to Erode Global Confidence in Ukraine
https://www.atlanticcouncil.org/wp-content/uploads/2023/02/Undermining-Ukraine-Final.pdf

今回のレポートで随所に「前回のレポートで指摘したように」といった記述があるように、ロシアが行っていることは基本的に変わっていないが、解像度が上がっている。昨年の段階では、欧米以外の地区についての解像度が低かった。今年のレポートでかなりくわしくわかってきた感じがする。
今年の内容が先日紹介したISDのレポートとほぼ同じ結果になっているのも注目に値する

ウクライナ侵攻から2年 ISDによるロシア情報戦の分析
https://note.com/ichi_twnovel/n/n3f437b15d5f1

1年前の記事で紹介したように、昨年はそれぞれの機関の報告内容が今年ほど似てはいなかった。おそらく欧米以外の地区についての情報量が少なく、ロシアが行っていることの全体像の解像度が低かったためだろう。昨年と今年のDFRLabのレポートでは欧米以外の地区がかなり増量されている。
2年目になってロシアがやっていることの全体像が見えてきたので、異なる機関のレポートの内容が似てきたような気がする。もっともこれはISDとDFRLabの比較だけの話なので、他のものにも当てはまるかどうかはわからない。昨年は仕事でたまたま横断的に調べる必要があったので、多数の機関のレポートを比較できた。今年はそういう仕事がないのでわざわざやるのはちょっと大変。たくさん読んでもらえるならやる気もでるがそうでもないので、やる気がでない。

●2年目の状況

ISDとDFRLabなどのレポートを読む限りでは、1年経過してロシアが行っていることは大きくは変わっていないようだ。ただ、EUではロシアのプロパガンダメディアが規制されたため、他のアプローチを取っている点はだいぶ変わっている。しかし、それも経路が変わっただけで最終的にロシアのナラティブがEUに届いていることは変わっていない。

当然ながら適切な対抗措置が執られていなければ同じ攻撃にさらされるとより被害は大きくなる。先日公開されたV-Demデータセットから「社会の分断」と「SNSでオフラインでの暴力を組織化」の2つの指標でロシアのターゲットになった国の変化を見てみる。
ポーランドとアメリカははっきり悪化していることがわかる。EUはポーランドやアメリカよりはましだが、2つの指標の長期的悪化は続いている

V-Demグラフツールで作成、https://v-dem.net/data_analysis/CountryGraph/
V-Demグラフツールで作成、https://v-dem.net/data_analysis/CountryGraph/
V-Demグラフツールで作成、https://v-dem.net/data_analysis/CountryGraph/
V-Demグラフツールで作成、https://v-dem.net/data_analysis/CountryGraph/
V-Demグラフツールで作成、https://v-dem.net/data_analysis/CountryGraph/

一方、ロシアと中国は悪化していない。

この情報戦が全領域の戦いの一部であるなら、その成果は社会全体への効果で測られるべきであって、対症療法的にテイクダウンした偽情報の数が成果にはならないはずだ。この2つの指標は社会全体への効果の目安になると思う。
この2つの指標だけで結論めいたことを言うつもりはないが、少なくともアメリカやEUがやっている対策に効果あるの? という疑義を差し挟む余地はあるだろう。
ありがたいことにV-Demはデータセットを整備して使えるようにしているので、掘り下げた分析もしてみたい。ちなみにこの2つの指標はざっと見てピックアップしたので、精査するとより適切なものがありそう。あとは時間さえあれば……

●DFRLabによるウクライナ侵攻2年目の総括

序章 https://note.com/ichi_twnovel/n/n276580f76ffc
パート1 ウクライナ国内に対するロシアの情報戦 「In Ukraine, Russia tries to discredit leaders and amplify internal divisions」 https://note.com/ichi_twnovel/n/n689b35630899
パート2 ロシア国内監視状況 プリゴジン後のネット監視 「After Prigozhin, Russia clamps down online」 https://note.com/ichi_twnovel/n/n0578afbf9637
パート3 ロシアのヨーロッパとアゼルバイジャン、ジョージア、アルメニアに対する情報戦 「In Europe and the South Caucasus, the Kremlin leans on energy blackmail and scare tactics」
https://note.com/ichi_twnovel/n/nc5fc96fed79a
パート4 ロシアのラテンアメリカに対する情報戦 「In Latin America, Russia’s ambassadors and state media tailor anti-Ukraine content to the local context」https://note.com/ichi_twnovel/n/nad62ce2dfc8a
パート5 ロシアのアフリカに対する情報戦 「Two-pronged approach to Africa pays dividends for Russia」 https://note.com/ichi_twnovel/n/n9e812531321a
パート6 ロシアの中東に対する情報戦 「Complicated history helps Russian narratives about Ukraine find a foothold in the Middle East」
https://note.com/ichi_twnovel/n/ne3f0507fa308

好評発売中!
『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』(原書房)
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。

本noteではサポートを受け付けております。よろしくお願いいたします。