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アメリカ最凶の多角分散型白人至上主義グループActiveClubが示す情報戦の終焉

●白人至上主義グループはアメリカ国内最大の脅威の進化
RMVEs(Racially or Ethnically Motivated Violent Extremists)、平たく言うと過激な白人至上主義グループは2021年バイデン政権はアメリカ国内の安全保障上最優先の課題となっている。白人至上主義のテロによる死亡者はイスラム過激派を上回っている。過去10年間ではおよそ3倍多い。あらゆる指標において、白人至上主義はアメリカに対するテロの脅威の上位に位置している。
その概要は以前「アメリカ社会を崩壊させるRMVEs」(https://note.com/ichi_twnovel/n/na39742450245)で簡単に紹介した。


●White Nationalism 3.0とは? 地域に分散したフィットネスと白人至上主義

現在、白人至上主義グループの中で勢いを増しているのはRise Above Movement(RAM)のリーダーであるロバート・ルンドが提唱した「White Nationalism 3.0」のグループActive Clubeだ。すでに全米34の州で46のクラブの存在が確認されている。カナダでは12クラブがあり、ヨーロッパでは4カ国に46クラブ
「1.0」はスキンヘッド、「2.0」はオルトライト、そして「3.0」は以前の弱点や課題を克服した新しいものになっている。

地域ごとの小規模のグループ(5人から25人)の集合体であり、肉体のトレーニングによって来るべき戦いに備えつつ、仲間意識を高める。それまでActive Clubがなかった地域で1~3人からスタートし、設立と同時に白人至上主義グループRAMやホワイト・ライブズ・マター(WLM)系のプロパガンダをオンラインとオフラインで配布し始める。公共の壁などへの落書きやステッカーの貼り付けなどは初期によく行われる。他の白人至上主義グループとの連携は継続して行われる。
グループが十分な数の会員に達すると、MMAトーナメント、トレーニング・セッション、カウンター・プロテスト、地域特有のプロパガンダ、グラフィティ、バナーを作成する懇親会などのオフラインのイベントを始める。などもよく行われる。最も頻繁な活動は、ファイト・ナイト、フィジカル・スパーリング・イベント、MMA スタイルのイベントである。

「フィットネスとナショナリズム活動を組み合わせ、仲間意識を高め、チームビルディングのスキルを身につける、小規模なスタイルの地域クラブ」とされている。実際の活動にはここに反LGBTQ3や人種差別、リベラルな左翼文化に変わる価値感の提示などの活動も含まれ、中には殺人や暴動に発展したケースもある。

小規模のグループになり、それぞれが自立的に活動しているため、当局からの捜査が行いにくく、全貌をとらえることも難しくなっている。過去の「1.0」や「2.0」が中心メンバーやコミュニティを特定しやすく検挙されやすかったことの反省が生かされている。
また、「2.0」では内紛が問題となっていたため、内紛が起きないような配慮もなされている。

Active Clubでは伝統的な性別役割分担(特に恋愛関係において)を広めている一方、その視覚的プロパガンダにおいては、女性メンバーを男性的なメンバーと同様の闘士、活動家として描き始めている。Active Clubで女性が登場している画像を分析した結果でも武装した戦闘員など女性が多く描かれていることがわかった。

●Telegramを中心に広がるネットワーク

オンラインの中心になっているのはTelegramであり、各地域のActive Clubがそれぞれチャンネルを作り、公然と情報交換や新人の勧誘を行っている。それぞれが数百人から千人以上のフォロワーを持ち、全Active Clubのチャンネルには3千人以上の参加者がいる。
Active Clubのアカウントは、X、YouTube、インスタグラムを含む主流のSNSで禁止されているが、他のグループやあまり知られていないネットワークといった第三者が、Active Clubのプロパガンダの拡散を行うことも多い。

活動内容はだいたい同じで一貫しているが、地域や状況に合わせてカスタマイズされることが多く、プロパガンダの内容もよく変更される。イデオロギーの違いに関係なく、白人至上主義運動全体から個人をリクルートし、団結させることに重きを置いている。その柔軟性のため、短期間で解散したり、ネオナチ化したり、より過激なものへと変貌したりすることもある。
プロパガンダは通常、3つの核を強調している。暴力的な出来事に関する「真実」の発信、腐敗した主流メディアを暴露と批判、鍛錬による「戦士精神」の覚醒である。

●ファッション、音楽で文化シーンに浸透

このグループをリードするルンドは、2019年にオンライン・グッズ部門である Will2Riseを立ち上げ、2020 年に白人至上主義メディアMedia2Riseを立ち上げた。
ルンドは、「白人のYouTubeラッパー」の音楽がプロパガンダや勧誘において重要と考えている。日常生活や文化に全面的に関与し、影響を与える戦略のひとつとして位置づけている。2022年1月に設立されたWill2Rise Records は、彼らのイデオロギーを主流化し、収益化しようとするグループの新たな試みである。
ホワイト・パワー・ミュージックは、アメリカで40年近く大きな存在感がある、白人至上主義者たちは音楽をイデオロギー的、組織的資源として利用されてきた。特に若者を白人至上主義運動に勧誘する役割を果たしている。白人至上主義のバンドは新しいリスナーにリーチするためにオンライン配信ストリームを利用することが多い。
Will2Rise発ではないが、今年の夏のヒットチャートを席巻した曲は貧困の白人の現状を歌ったものだった。ルンドの読みは正しかった。
Will2Riseは最近、"No Face Nate Activist Pack"というを25.75ドルで販売し始めた。この商品は彼らの活動を宣伝したい人のためのもので、20枚のステッカーと8枚のCDがセットになっており、近所の人々に配り、3.0 のライフスタイルを広めるために使える。

これらの活動で得た資金はActive Clubのために使われる。

●新しいフェーズに入ったデジタル影響工作

アメリカは対テロでは強硬な姿勢で臨んでいるが、国内のアメリカ人が行うテロ行為に対してはその対策にかなり制限がある。そのためこうした白人至上主義グループへの対策はなかなかうまく進んでいない。以前から問題視されたいたにもかかわらず、その急成長を許してしまったのはそこにも原因がある。

以前の記事にも書いたようにすでにロシアと関係のある白人至上主義グループもある。また、まったく無関係でも中露などがネットで彼らの主張を拡散するだけで支援になる。デジタル影響工作では相手国の弱点、脆弱なポイントを突くことが効果的だが、白人至上主義グループはまさにアメリカの脆弱なポイントである。
独自の情報を発信する必要はなく、ただアメリカ国内の白人至上主義グループの発言を拡散したり、公にほめたりすればよいだけになる。これまでのデジタル影響工作対策では対抗できない、というかそもそももともとが国内の問題なので、有効な対策があまりない。

●日本でも同様のことが起こる可能性

Active Clubは白人至上主義グループが多角的に分散、進化した形態となっており、当局からは実態がとらえくい一方、自前のメディアやファッション・ブランド、音楽を通じて広く欧米に広がりつつある。

同様の構造は日本でも可能である。

好評発売中!
ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。

出典

Active Club Network、https://www.adl.org/resources/backgrounder/active-club-network

The Rise Above Movement Plants a Flag in the White Power Music Scene、https://www.adl.org/resources/blog/rise-above-movement-plants-flag-white-power-music-scene

White Supremacist Active Clubs Are Breeding on Telegram、https://www.wired.com/story/active-clubs-telegram/

Hiding in Plain Sight – The Transnational Right-Wing Extremist Active Club Network、https://extremism.gwu.edu/hiding-plain-sight

This ‘Violence-Ready’ Militia Is Hiding in Plain Sight、https://www.rollingstone.com/politics/politics-features/white-nationalist-active-clubs-1234835015/

Dangerous Organizations and Bad Actors: The Active Club Network、https://www.middlebury.edu/institute/academics/centers-initiatives/ctec/ctec-publications/dangerous-organizations-and-bad-actors-active

The Right Fit: How Active Club Propaganda Attracts Women to the Far-Right、https://gnet-research.org/2023/12/05/the-right-fit-how-active-club-propaganda-attracts-women-to-the-far-right/

ネオナチ格闘技ブランド、白人至上主義者グループの資金源に 米、https://rollingstonejapan.com/articles/detail/40110/2/1/1

Extremist Content Online: Active Clubs And Extreme Right Groups Found Using TikTok To Spread Propaganda、https://www.counterextremism.com/press/extremist-content-online-active-clubs-and-extreme-right-groups-found-using-tiktok-spread

White Supremacy Groups in the United States、https://www.counterextremism.com/content/white-supremacy-groups-united-states

Violent Right-Wing Extremism and Terrorism – Transnational Connectivity, Definitions, Incidents, Structures and Countermeasures、https://www.counterextremism.com/sites/default/files/CEP%20Study_Violent%20Right-Wing%20Extremism%20and%20Terrorism_Nov%202020.pdf

Deterrence and Denial: The Impact of Sanctions and Designations on Violent Far-Right Groups、https://thesoufancenter.org/deterrence-and-denial-the-impact-of-sanctions-and-designations-on-violent-far-right-groups-2/

HOW FAR-RIGHT TERRORISTS CHOOSE THEIR ENEMIES、https://thesoufancenter.org/wp-content/uploads/2022/12/TSC-Issue-Brief-How-Far-Right-Terrorists-Choose-Their-Enemies-Dec-2022.pdf

Comparing Violent Far-Right Terrorist Designations among Five Eyes Countries、https://thesoufancenter.org/research/comparing-violent-far-right-terrorist-designations-among-five-eyes-countries/

Active Clubs The Growing Threat of ‘White Nationalism 3.0’ Across the United States、https://www.isdglobal.org/isd-publications/active-clubs-the-growing-threat-of-white-nationalism-3-0-across-the-united-states/

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