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MozillaのTech Platform Elections Policy Database SNSが世界の2024年選挙を歪める

Firefoxで知られるMozillaが2024年2月27日にSNSの選挙の告知などに関する調査結果「Platforms, Promises and Politics A reality check on the pledges platforms make before elections」https://foundation.mozilla.org/en/campaigns/platforms-promises-and-politics/ )を公開した。
ところどころ数字で「おや?」と思う箇所があるけど、おそらく国数と干渉数(告知数とか)の違いだと思う。説明があまりないんですよね。


●概要

このレポートでは、世界の人口の多くを占める(当然、SNS利用者も多い)非欧米諸国でのSNSプラットフォーム各社の無知と無視が被害をもたらしていると指摘している。レポートでは、世界の人口の多くを占める非欧米諸国をグローバルマジョリティと呼んでいる。

グローバルマジョリティの国々には、北米やヨーロッパのSNSフォームで働く人々とは異なる現実があり、多様で複雑な民主主義が存在する。利用者の多さに比べて、SNSプラットフォームのリソースは極めて限られている。SNSプラットフォームはこれらの国々に充分なスタッフやコンテンツモデレーションのリソースを持っておらず、その結果、選挙に広範囲に影響を及ぼす可能性のあるバイアスが生じている

SNSプラットフォーム各社はファクトチェック、リテラシー、コンテンツモデレーションなどで選挙に干渉するが、グローバルマジョリティの国々は国ごとに制度や政府との信頼関係などが異なっており、同じ干渉を行っても全く異なる結果になる。
近年の批判を受けて、SNS各社は誤解を招きやすい虚偽の選挙関連情報の拡散に対抗するための新しいポリシーや対処を定期的に開発している。各SNSプラットフォームは、透明性を保つためにこうした干渉をブログ記事や告知で公開することが多い。

SNSプラットフォームの介入を評価するため、過去7年間、各国の選挙前と選挙中に行った公約や発表をデータベースにした。MozillaのTech Platform Elections Policy Database( https://docs.google.com/spreadsheets/d/1AtHwlZtZOLlCUdssGYaQwK9sLwyuGJjTU84FI7vO7Fo/edit#gid=820055922 )は、27カ国にまたがる2016年以降のテックプラットフォームの活動をDB化したものだ。

・SNSプラットフォームごとの選挙の告知

「Platforms, Promises and Politics A reality check on the pledges platforms make before elections」( https://foundation.mozilla.org/en/campaigns/platforms-promises-and-politics/ )

調査期間中の選挙告知はMetaとそのプラットフォームがもっとも多かった。他のどのSNSプラットフォームよりも多くの選挙告知を発表しており(96件)、最も多くの国(19カ国)をカバーしていた。TikTok は新興SNSプラットフォームであるにもかかわらず、選挙告知を積極的に行っており、10カ国で21件を発表していた。
WhatsApp(Metaグループ)は、世界的な利用者数がフェイスブックとほぼ同規模であるにもかかわらず、あまり選挙に対処していない。Metaの選挙告知は圧倒的にフェイスブックを優先しているようだ。
WhatsAppは、インド、ブラジル、ナイジェリアといった国々での選挙対応において、デジタル影響工作に利用されている。これらの国々では、WhatsAppのようなメッセージングアプリはバイラルや誤報の影響を特に受けやすい。SNSプラットフォームはグローバルマジョリティ諸国における情報エコシステムの独自性とそのリスクを十分に織り込んでおらず、影響工作のリスクを放置している。
このためWhatsAppやTelegramといったグローバルマジョリティの国々で支配的なSNSプラットフォームは、悪用される可能性が極めて高くなっている。

・アメリカ大統領選の極端な優先対処

SNSプラットフォームの選挙関連の干渉を分析したところ、北米とヨーロッパを合わせた地域が選挙関連の発表で常にリードしており、他の地域を圧倒していた。特にアメリカの選挙に影響されており、アメリカで大統領選がある年は告知が増加する。
逆に、もっとも注目されていないのはアフリカ諸国だった。気になるのは、これらの介入策の多くがひとまとめにされていることで、プラットフォームがアフリカ大陸に対してとってきたリモコン操作のようなone-size-fits-all(味噌も糞も一緒にした)アプローチを象徴しており、すでに各国で問題を起こしている。こうした実態は、SNSプラットフォームがなにに注目し、より多くのリソースを割く可能性が高いかを示しており、プラットフォームがどこの国の選挙への干渉を優先させるているかがわかる。

「Platforms, Promises and Politics A reality check on the pledges platforms make before elections」( https://foundation.mozilla.org/en/campaigns/platforms-promises-and-politics/ )
「Platforms, Promises and Politics A reality check on the pledges platforms make before elections」( https://foundation.mozilla.org/en/campaigns/platforms-promises-and-politics/ )

・SNSプラットフォームがよく用いる干渉方法

SNSプラットフォームが用いる選挙への干渉方法は下記の3つだった。

デジタル・リテラシー・プログラム(23カ国)
ファクトチェック(21カ国)
コンテンツモデレーションポリシーの更新(21カ国)

グローバルマジョリティの国々と北米やヨーロッパではSNSプラットフォームの干渉はだいぶ違う。まず、全般的にグローバルマジョリティの国々では北米やヨーロッパよりもSNSプラットフォームからのシステマティックな選挙対策の干渉が少ない

「Platforms, Promises and Politics A reality check on the pledges platforms make before elections」( https://foundation.mozilla.org/en/campaigns/platforms-promises-and-politics/ )


北米やヨーロッパでは政治広告の管理やモデレーションを目的とした介入がいくつもあり、主にフェイスブックによって推進されている。さらに、権威ある情報の促進やデジタル・リテラシー・プログラ ムの導入を目的とした干渉をより多く発表している。
その一方で、ナイジェリア、ケニア、フィリピンのようなグローバルマジョリティの国々では、ファクトチェック、ステークホルダーの関与、コンテンツモデレーションポリシーのアップデートに注力する傾向がある。

・リソースの透明性の問題

選挙干渉のための資金などのリソースは開示されることがほとんどなく、開示されても全体の金額だけのため国別にはわからない。

・SNSプラットフォームは選挙干渉にone-size-fits-all(味噌も糞も一緒にした)アプローチを採用

ほとんどのSNSプラットフォームはガバナンスについて本社からのリモコン操作的なアプローチをとっている。one-size-fits-allのテンプレートが採用されることが多い。このパターンは、SNSプラットフォーム選挙の告知方法でもっとも顕著である。
ケニア、ナイジェリア、エチオピアの各選挙に先立ち発表された選挙関連の誤報に関する方針は、基本的にコピー&ペーストで、細部が少し変更されているだけだった。
SNSプラットフォームが選挙対策にコピー&ペーストの手法を取り、深刻な影響を及ぼしていることが発覚したのは今回が初めてではない。ブラジルでは2023年、TikTokが米国の選挙ポリシーの一部を英語からポルトガル語に翻訳しただけであることが明らかになったが、その際ブラジルには郵便投票制度が存在しないにもかかわらず、このポリシーには郵便投票について書いてあった。これらの例は、ある選挙へのアプローチをまったく異なる国の選挙にコピー&ペーストするだけという直面する深刻な問題を浮き彫りにしている。

・2023年選挙干渉への関心の低下と影響

主要SNSプラットフォームは2022年と2023年にモデレーションなどの部署の人員を大幅に削減した。イーロン・マスクが2023年10月Xの選挙インテグリティチームを解雇し、コンテンツモデレーション人員の多くを解雇したのは有名だ。Metaは、2020 年の米国選挙後に自社のシビック・インテグリティ・チームを解散させ、ケニアのハブで180人以上のサハラ以南のコンテンツ・モデレーターを解雇した。SNSプラットフォームがリソースを節約するために、ファクトチェッカーやコンテンツモデレーターのようなサードパーティに信頼性、安全性、インテグリティの仕事を任せるパターンが増加している。
2023年は2017年以降ではもっとも選挙に特化したアナウンスの数が少なくなりそうである。この傾向はテック企業のこうしたリソースやスタッフの変更を反映している。2023年には30以上の総選挙があったことを考えると、SNSプラットフォームの告知や干渉の手抜きっぷりがすさまじい。

「Platforms, Promises and Politics A reality check on the pledges platforms make before elections」( https://foundation.mozilla.org/en/campaigns/platforms-promises-and-politics/ )

●感想

言われてみれば気がつくが、多くの人はSNSでニュースなどの情報に接する。選挙についての情報も同じだろう。SNSプラットフォームの行う選挙の告知などは利用者に影響を与える可能性がある。たとえば日程や選挙方法が誤っていたら選挙できなくなる人もいるかもしれない。にもかかわらず、世界の人口の多くを占める非欧米諸国での体制は手薄で他の国の告知内容をコピペ、翻訳しただけものもある。中には郵便投票の制度のある国での告知をそのまま翻訳して、郵便投票の制度がない国で告知していた例もあったわけだ。
そもそも告知によって選挙を知って投票しようと思う人もいるだろう。投票率の上昇、下降によって特定の政党や政治家が有利になることもある。

そういえば以前、「10の偽情報対策の有効性やスケーラビリティを検証したガイドブック」( https://note.com/ichi_twnovel/n/n01ce8bb38ef3 )で莫大な過去の論文や文献を調査した結果、もっとも研究されていたのがファクトチェックとメディアリテラシーだった。今回の調査でSNSプラットフォームが力を入れている施策と一致する。これはSNSプラットフォームがリソースを投入していることで、論文や文献も多いということなのか、それとも重要あるいは効果があるからなのか気になる。

そう考えると単なる民間企業が世界の選挙の趨勢に影響を与えているのは、とんでもなく危険なことなのだろう。

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