散る。
無力とはあはれ魔王の手の渇き散る花びらを支へむとして
──壱羽烏有
恋人が植物園へ連れていってくれました。
大寒の最中にも、冬の花が彩りを添えています。
蝋梅に山茶花が盛り。
そして、もうひだまりの梅が咲き始めです。
恋人が十月桜の低木にちらちらと咲く花を撮ろうとしたところ、枝に触れてしまいました。
もう花の季節は終わろうとしていたのでしょう、もろく散って……
わたしは咄嗟に、倒れるひとを支えようとするような条件反射で、花びらに手を差し伸べました。
当然、花びらは体勢をたてなおしたりはしません。
手をすり抜けていきました。
散る花が戻るとでも思ったのでしょうか……
なんと愚かなのでしょう。
そのとき、ふと思い出したのは、荘子の『虚舟』
虚舟とは、誰も乗っていない舟のことです。
相手が花であればこそ、無常の前に無力感を覚えることがいかに傲慢であるか……自分の愚かさに気がつくことができたのでありました。
まもなく花が花をついでゆく季節が来ます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?