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いまのビジネスに使えないデザインってなんだ?――スペキュラティヴ・デザインについて

この記事について

この記事は、令和3年4月19日(月)に開催された、武蔵野美術大学大学院造形構想研究科修士課程造形構想専攻クリエイティブリーダシップコース(以下「本研究科」といいます。)の科目である「クリエイティブリーダーシップ特論」(以下「CL特論」といいます。)の第2回のエッセイです。本研究科のCL特論は、シラバスの表現を借用すると「クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を囲んで、参加者全員で議論を行う」科目であり、要するに、最前線でご活躍されている方に登壇いただく連続イベントです。

第2回のスピーカーは、「スペキュラティヴ・デザイン」を行ってきた岩渕正樹様です。詳細なプロフィールについては、以下のご本人の記事に譲りますが、どういうことをされているかというと、講演中のご本人の表現を借りれば、「何かの問題解決や何かユーザーのニーズを聞いて役に立つ機能的なプロダクト」ではなく「こんな未来になったらどうなってしまうんだろうとか、こっちにいっても大丈夫なのかしらとか、そういったことを人々に考えさせたりするために何か問いかけるデザイン」、「問題解決ではなく問題提起のためのデザイン」、「将来の世界観を考えさせるデザイン」というものです。

なお、例によって書き手である私はスペキュラティヴ・デザインに関してまったく知見がなく、諸々ググりながらこの記事を書いていることをご容赦ください。以下に述べることは、私の勝手な解釈であり、講演に対する印象論に過ぎません。この記事に含まれる誤りのすべては執筆者である私の責任に帰しますので、読者の皆様におかれましては、あらかじめご了承ください。

講演内容について

講演では、具体的な事例を紹介され、また、簡易な演習2題に取り組みました。事例としては、スプツニ子!氏の作品や、長谷川愛氏の「私はイルカを産みたい」などが紹介されました。演習では、布団にくるまれたような人間(何を言ってるかわからないと思いますが…)やゴルフ場に開いた穴のようなものとか(これも何を言ってるかわからないと思いますが…)を見て、これらがいったい何なのかということを検討し、見解を出し合いました。

「スペキュラティヴ・デザイン」は、完全なフィクションやファンタジーの世界ではなく、かといって「ビジョン・デザイン」と呼ばれるようなビジネスに落とし込まれるようなものでもない、とのことです。そういう意味では、起業家ではなく、一般の人々も行うことができるものとのことでした。

「スペキュラティヴ・デザイン」という考え方そのものがスペキュラティヴな気がするのですが…?

私はスペキュラティヴ・デザインを存じ上げませんでしたので、各事例を見て、SF 小説とか「虚構新聞」とか「空想科学読本」とかを想起しました。あとは「イヴの時間」とかですかね。不思議で刺激的な写真や光景(「ドリーム」という用語法でしたが)から逆算して考えさせるというところに意味があるから「スペキュラティヴ speculative」なのだろうと理解していますが、そういう意味では、厳密な用法ではないとは思いますが、我々が日常的に見る作品群から大きく外れたデザインの考え方でもないような気もしています。実際、起業家のためのデザインではなく一般人もできるということのようなので、講演中にご紹介くださったような「ぶっ飛んだ」ケースに至らずとも、既にそれっぽいものはジョーク的なものも含めて日本国内にいくつもあるのかなと思ったりしました。強いて明確な違いがあるとすれば、あえて積極的に理解を促すような措置をとらず、かつ、価値中立的に見せるという点において、従来の「考えさせる系の SF 作品」とは異なるように思っています。ただ、正直なところ、現時点でも「スペキュラティヴ・デザイン」が何なのかやっぱりわからないところはあり、以上に述べたことはせいぜい「ひとつの定義」くらいにしかならないのかもしれません。なかなかに自己言及的と言いますか、自己実現的な概念だなぁと考えさせられております。まったくもって speculative です。

(執筆者:平塚翔太/本研究科 M1)

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