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松坂大輔、斉藤和巳に見る好投手の条件

今日(5月1日)BS1で放映された2006年のプレーオフ、松坂大輔選手と斉藤和巳選手の投げ合いはご覧になったでしょうか。今日においても名勝負とされる2人の投げ合いは噂に違わず、素晴らしいものでした。斉藤選手は現在YouTubeチャンネルを開設しており、当時の心境を交えつつ、ライブ動画で解説をしていました。本人の解説付きで極上の投手戦が見られるなんて、贅沢な時代になったものだという思いです。
 この投手戦を見ていくうちに、これが好投手の条件なのでは、と思う点があったのでそれを書いていこうと思います。


1.好投手の条件:リスクの低いカウント球

 まずは、威力のある決め球があること、を前提に考えてください。その上で、リスクの低いカウント球とはなにか。それを満たす要素は2つあると考えています。
・見逃しを奪いやすい
・仮に手を出しても空振り、あるいはゴロになる

です。エース級の投手ともなると、打てる球は1打席に1球くるかどうかのレベルになることも多々あることと思います。ですから打者心理としては、初球から、また一番速いストレートに的を絞って打っていくことが多いでしょう。その中で初球からストレートばかり投じていては、時にはリスクを負ってしまうことになります。そこで変化球の出番になるわけですが、ボールになりやすい変化球では投手不利になってしまいます。そんな状況で上の2つの条件を備えた球種があれば、初球を狙われて痛い目に遭うことも減りますし、手を出してきたとしてもゴロならば1球でアウト1つが稼げるので、より長いイニングを投げられることにも繋がるわけです。
 では、2人の球種構成などを交えて本題に入ります。

1‐2.松坂投手のカウントの稼ぎ方

 松坂投手の球種は、主に
・ストレート
・スライダー
・カットボール
・フォーク
・チェンジアップ
の5つと思われます。松坂投手の代名詞と言えば、豪速球と大きく曲がり落ちるスライダーだったと思いますが、そのスライダーで初球のストライクを奪うのが最高に上手かったんです。

当該試合の全球ハイライトがなかったので同じ2006年のWBCの映像を貼り付けました。この試合は春先ということもありエンジンがかかり切っていないような印象を受けますが、スライダーの使い方は似通ったものがありました。

松坂投手のスライダーは前述の通り大きく曲がり落ちるスライダー。現在における「パワーカーブ」に似た性質を持っていると感じました。そのパワーカーブ的なスライダーを、ストライク→低めのボールではなく、高めボール→ストライクに投げることによってカウントを稼いでいたのです。強烈なスピンがかかったボールは、高めに投じられても抜けることなく曲がり落ちてゾーン内に収まります。コースで見れば甘いコースだとは思いますが、打者目線で考えると、「ボールになると思った球がそこから曲がってゾーンに来た」という状態なのだと思います。一度ボールかと思って目線を浮かせてしまうと、もはやスライダーがミットに収まることを見送るしかできません。そして初球ストライクを奪ってしまえば、あとは松坂投手のペース。ストレートで押しても良し、フォークを落としても良し、ボールゾーンにスライダーを曲げても良しです。
 このようにスライダーによって、松坂投手は見逃しで初球のストライクを奪っていたのだと思います。

1‐3.斉藤投手のカウントの稼ぎ方

 斉藤投手の球種は、主に
・ストレート
・カットボール
・カーブ
・フォーク(スプリット)
の4つ。フォークについては、本人がフォークと呼んではいますが球速や性質的にはスプリットに近いと感じたので、以後スプリットと表記します。

斉藤投手はカーブとスプリットでカウントを稼ぐことが出来ます。

まずはカーブについて。斉藤投手のカーブは、古典的なドロップカーブに近く、縦に大きくドロンと曲がります。そしてこのカーブは、斉藤投手の球種のなかで最も異彩を放つものなのです。斉藤投手のボールは基本的に超高速で、ストレートは145キロをコンスタントに記録し、またカットボールやスプリットも140キロに迫ります。その中でカーブは115キロ前後で、30キロもの緩急をつける球になります。
 基本的に球速が速い斉藤投手なので、おそらく打者はその速い球種に狙いをつけて打席に入ります。そこでそのカーブを投じることによって簡単に見逃しでストライクを奪う。それが出来るのが斉藤投手のカーブだったのです。
 次にスプリット。これはカウント球の条件2つにおける後者、手を出しても空振り、ゴロになりやすい球です。前述したように、斉藤投手のスプリットは140キロに迫る超高速です。それを真ん中甘めのゾーンからゾーン低めに投じることによってカウントを稼ぎます。ゾーン→ゾーンなので見逃してもストライクですし、仮にストレートだと思って手を出してもそこから沈み空振りになります。また仮にバットに当てられたとしても、140キロの高速で沈むので、バットの下側に当たりゴロになることが大半でしょう。
 これで初球ストライクが奪えれば投手ペースに引き込めますし、ゴロになったらなったで1球でアウト1つがもらえます。このように安全にカウントを稼げる球が2つあることも、斉藤投手の強みの1つであったことでしょう。

2.好投手の条件2:ダブルプレーを獲れる球種

 仮にランナーを背負っても併殺が奪えれば必然的に楽に投げられますし球数削減にもつながって長いイニングを投げられます。ダブルプレーを生み出しやすい球の特徴として、「丁度良い勢いのゴロになる」が挙げられます。打球が速すぎるとゴロでもヒットになる可能性が出てきますし、また弱すぎても一塁が間に合わずセーフになる可能性があります。よって、「丁度良い」ゴロを打ってもらう必要があるのです。

2人の球種に当てはめると、松坂投手においてはカットボール、斉藤投手においてはカットボール、スプリットが当てはまります。どれも140キロに迫る高速な上に、丁度良くゴロを打たせられる小さく鋭い変化です。(斉藤投手のスプリットはおそらく変化量を調整できる)
打者はこれらの球種を投じられると、高速なためストレートと錯覚または変化球と分かっていても対応が追い付かずゴロになる、という状態に陥りやすくなります。

これも別試合ですが、松坂投手のカットボールエグすぎるので貼っておきます。

斉藤和巳の投球術の神髄を見た

 あとこれはどうしても書きたいので書きます。私が思わず唸ったのがこの試合の1回裏西武の攻撃、2アウト2塁で4番・カブレラ選手を迎えた時の斉藤投手のピッチングです。この年カブレラ選手は打率は3割をマークし、打点も100をマーク。パワー、技術を兼ね備えた真のコアヒッターでした。西武打線における最警戒打者は間違いなくこのカブレラ選手でしょう。

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1塁は空いており最悪歩かせても良いこの状況、斉藤投手は慎重な投球を見せます。フォーク、カーブを低めボールゾーン、あわよくば手を出してくれないか、というゾーンに投げ込みますが、カブレラ選手もその思惑を察知してのか全く反応する様子を見せずにカウントは3ボールになります。普通ならばここで割り切り、はっきり歩かせても良い場面です。しかし、ここからの投球が凄まじいんです。

4球目:甘いコース、ストレート待ちであろう打者に対し意表を突くカーブ。全く狙っていなかったので見送るのみ。
5球目:甘いコースから落とすスプリット。ストレートと思ってまんまと食いつくも空振り。
6球目:ボールゾーンに落とすスプリットで空振り三振。もし振ってくれなくてももとから1塁は空いていたので問題なし

という流れでした。画像と実際は多少違いがありましたが、相手の心理を読み切りリスクも考慮した球種選択とその投球には、斉藤投手の投手としての完成度の高さ、この一戦を必ず取るという気概がひしひしと感じられました。最高のピッチングです。

終わりに

過去の出来事には、その当時はすごいと思ったから、という「思い出補正」がついて回ります。しかしこの勝負は現代においても全く色あせない素晴らしいものであると断言できます。ペナントは始まりませんが、このような企画をしてくれたNHKさんには感謝したいですね。
 それにしても2人ともピッチングスタイルが現代的過ぎて驚きました。そりゃスーパーエースだったのも納得です。松坂投手は「スラット・カーブ型」、斉藤投手は「スラット・スプリット型」ですかね。(もし分からなければお股ニキさん(@omatacom)をフォローしてみてください)

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