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2021年読んで感銘を受けた本5冊 「現代」に敗北した者たちとその後

 去年読んだ本で感銘を受けた本5冊の紹介。順番は読んだ順。

・北田暁大『嗤う日本のナショナリズム』(2005)
・宇野常寛『母性のディストピア』(2017)
・TVOD『ポスト・サブカル焼け跡派』(2020)
・與那覇潤『平成史』(2021)
・大塚英志『彼女たちの連合赤軍』(1996)

 ジャンルで言うと「評論」ってカテゴリに入るものが多いだろうか。どの本も面白くて一気に読んだ。
 実はこの5冊全部同じ話をしている。どれも「現代」という時代が1970年初頭に端を発していて、それに対して政治や文化や社会がどう対峙し、どう敗北していったかを語っているのだ。
 宇野常寛の『母性のディストピア』はアニメの話だけど、宮崎駿~富野由悠季~押井守の流れが、まさにこの「現代」との格闘と敗北という図式に当てはまる。

 で、5冊とも「敗北」という認識は共通してるけど、その後どうするかの方向性はそれぞれ異なる。

・自分だけは勝ってると思ってる「冷笑系」を分析した『嗤う日本のナショナリズム』。
・敗北後も、挑戦を試みようとする『母性のディストピア』。
・戸惑いを隠さない『ポスト・サブカル焼け跡派』。
・失ったものを諦めきれずに嘆く『平成史』。
・唯一「現代」を歴史として肯定的に捉えている『彼女たちの連合赤軍』。

 私の立ち位置は『嗤う日本のナショナリズム』と『彼女たちの連合赤軍』に近い。『ポスト・サブカル焼け跡派』もすごく誠実な問題認識だと思ったけど、あれほど悲観していないかな…。

 『嗤う日本のナショナリズム』は、2005年の本で、そのころにはまだ「冷笑系」という言葉はなかったんだけど、この本の問題意識って、現在流行っているフェミニズム~セクシズム研究にも繋がると思う。

 『母性のディストピア』は『シンゴジラ』を例に、「オタク的感性の情報戦」に可能性を見出している。でも歴史上、科学者が戦争にいかに加担してきたかみたいなことを思うと、あの作品をエンタメ以上の意義があると解釈するのは楽観的すぎるのではないかなぁと思う。

 『ポスト・サブカル焼け跡派』は読んだときに「こういうのが読みたかった」という想いでいっぱいになった。90年代の”サブカル”の空気を浴びてきた人間には、内容からレイアウトまで何もかもがたまらなかったな…。 

 『平成史』は「右も左もダメだ」と中庸のような立ち位置を取っているようだけど、「マルクス主義」的なグランドセオリーの不在を嘆いている点で、実はすごくイデオロギッシュ。けれど著者は自身の政治性には無自覚であり、私は著者の言う「中庸」が「中庸」とは思えなかった。

 『彼女たちの連合赤軍』は第5章の森恒夫がいかにヘタレかを描いた章もよかったけど、第2章の永田洋子が消費社会において自分を表現する術を発見し、獄中から自分を発信するまでの経緯を描いた章は涙なしには読めなかった。森恒夫の話は、実は『嗤う日本のナショナリズム』の問題意識とつながっていて、冷笑系の元祖は連合赤軍で同志をリンチした森恒夫だってことが2冊を読むとわかる。


 大事なのは敗北した後どうするか。それを描いたのが1997年公開された『もののけ姫』であり、そして、それと同時上映されて、当時は別の方向性を模索していたが、約四半世紀後に同じ境地に至り、昨年公開されたのが『シン・エヴァンゲリオン』という作品。この話はまた別の機会に。


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