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ナカノヒトゲノム【歌唱中】感想~佐藤純一×ウタノヒトの競宴~

2019年の夏クールに放送されていました、TVアニメ「ナカノヒトゲノム【実況中】」。

キャラクターたちの個性、それをさらに豊かにする声優陣の熱演(ツダケンさんが強すぎた)、そしてユニークな設定の掛け算から生まれる会話劇が楽しい本作でしたし、(ヒミコ役の)石見舞菜香さん推しがさらに高まりもしたのですが、今回触れるのはその音楽面です。

OP&ED、劇伴、毎話異なる挿入歌。その全ての作曲を、fhánaのリーダーである佐藤純一さんが担当されました……改めて書くと俄かには信じがたい話ですね。30分、どこを取っても佐藤純一。

以前から触れていますが、fhánaはここ数年の僕の最重要エレメントで。その中核を担う佐藤さんですから、今の僕にしてみれば「一番好きな作曲家」「最も影響を受けた人物」のどちらにも名前を挙げるような人です。

という訳で今回はナカゲノサウンドの中から、毎話異なるアーティストたちによって歌われた挿入歌を集めたボーカルアルバム「ナカノヒトゲノム【歌唱中】01/02」について、一曲ずつ感想を綴っていこうと思います。

なお注意書きとしては、

・シナリオと絡めてのガッツリした考察ではないです(全話拝見しましたが、やりだすとキリがないので)

・音楽面の語彙レベルは微妙です(コードとか技法とかだいぶ弱い、雰囲気先行!)

・fhánaリスナー(ふぁなみりー)から見て、という側面での感想が多いです

ちなみにこちらは、ED「僕を見つけて」を迎えての感想(というより重すぎるfhánaへの思い入れの奔流)です。宜しければこちらも。

1. 願い事/fhána

作詞、ボーカル、ともにtowanaさん。13th SGのカップリング曲であった「ユーレカ」での "作詞:towana" クレジットは大きな反響を呼びましたが、彼女が詞を手がけることも最近になって増えてきましたね。インスタを中心としたテキスト発信からは、自然に対する鋭敏な感性や、情緒に訴えかける言葉選びは垣間見えていたので、この流れは嬉しいです。

fhánaの、特に林英樹さん作詞×佐藤さん作曲の楽曲は、割と言葉数が多いんですよね。その意味でこの曲の中盤、ゆったりとしたテンポの中で一音一音を噛みしめるようなメロディは少し新鮮で、towanaさんの声の響きをじっくりと味わえるのも好きです。

サウンドも、(デジタルで入れていると思しき)パーカッション以外は、ピアノとストリングスだけで。towanaさんのボーカルと重ねるような佐藤さんのピアノの、息づかいが伝わるようなアレンジも印象的でした。このunplugged感、「天体のメソッド」のイメージアルバムである「ソナタとインターリュード」を思い出す人もいたのでは。

歌詞は「もう会えない、離れてしまった人」を想っているようで。

繋いだこの手 夢だったか 何度も確かめる
静かな空が 一人きりの私を映している

ED「僕を見つけて」、後述の「where you are」も似た視点に感じるんですよね。距離はそれぞれ違いますけど、離別や訣別を経た後の想いの行方、を歌っているのは共通しているような。

「願い事」は「みっつ」まで数えられているんですけど、歌の中で願望と取れるフレーズって「私の言葉届いて」だけで。現在時制で「唱える」のが「ふたつ」なので、恐らくはここが対応していると思うんですが。語りの余白が多いですよね、それが奥行きにもつながっている。

(そういえば「三つの願い」みたいな昔話はよく聞きますよね、国語の教科書でもあったかな)

さらに引っかかるのは、

乾いた涙がいつか溢れたら

一度は、流した涙が乾いているんですよね。一度は克服した、その先で再び訪れる涙の意味。例えるなら、一度目は「悲しみを沈める」、二度目は「悲しみを溶かす」とか。ハードとソフト、抑圧と受容、乗り越えた先でまた向き合う……喪失の後の段階的な変化を、こういう言葉で歌えるセンス、改めて、いい。

2. 24hours precious/RIRIKO

跳ねるリズムとキラキラしたサウンド、ガーリーど真ん中な歌詞。

佐藤さんっぽいんだけどfhánaじゃやらなさそう、という印象でした。

ボーカルと作詞はRIRIKOさん、最近は佐藤さんと一緒の仕事も多い若手のシンガーソングライター/作家さんです。歌い出しのハイトーンから惹かれますよね。

内田真礼さんに提供した「youthful beautiful」が刺さったという人は多いのでは。自身でも「クジラの子らは砂上に歌う」OPの「その未来へ」を歌っていて、これからどんどん名前を見かけることが多そうです。

ギターは和賀さん、「yuxukiくんやっちゃって」「うっす(機材大展開)」というやり取りが聞こえそうな間奏の暴れっぷりが最高。

バッキバキにスラップベースしている須藤優さんも、最近のfhána曲ではかなりの参加率です。

歌詞は誰かに恋する気持ち全開のガーリーな成分もありつつ、やっぱり過去形で、「大好きな人」も近くにはいなくて。

偽りのものでも良い だけどこのキモチは

みたいな作り物感も、ナカゲノの世界観と共に切なさを提示させていて。曲調が明るいから余計に刺さりますよね。

3. アルゴリズム/緒方恵美

CINRAさんでの対談でも語られていますが、佐藤さんと林さんにとってエヴァは超重要作品で。その主人公役である緒方さんとの仕事に際しては、佐藤さんのテンションがすごいことになっているのがツイート越しに伝わってきていました。

最近だと「オガタメシ de オモテナシ」なる企画で、手料理を召し上がってもいるようですし。推しの手料理……和賀カレー……という脱線はさておき。

この「アルゴリズム」は疾走感あふれるギターロックの格好良さも異常なんですが、緒方さんの歌声の色気が、もう、ATフィールド瞬殺です。息づかいといいニュアンスの込め方といい。

作中では路々森からアカツキへの偏執的な巨大感情が示されていたところなんですけど、そのシナリオも相まって一途かつ狂的な愛情がビンビンに来ました。

そしてボーカルだけでなく、作詞も(別名義ですが)緒方さんです。路々森感が溢れるサイエンティフィックな言葉選びに巧みなライミング。

加えて、

答えは大概 ひとつきりじゃない 未来へ続く道は「1」じゃない
壊れたガラスに映り込んでいる/ちぎれた写真に写り込んでいる

という、脳の文芸エリアを刺激しまくりなフレーズも最高です。

アニサマ2016でのLiaさんとのコラボもそうなのですが、こういう「ファンとして憧れていた人との共演」は、オタクにとっての最高の「夢を見せられている」イベントなんですよね。さらに今度はfhánaが追いかけられる方になって、たとえばfhánaを客席で聴いていたスピラ・スピカさんも大活躍中ですし。

どこかのふぁなみりーもいずれ、という風には何度も感じています。

4. ただの雨音になるまで/結城アイラ

結城さんもマルチジャンルな方で。今の僕にとっては「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」楽曲での活躍が印象的です、特に「Violet Snow」の歌唱は泣ける英語ボーカルの極致。きっと一生好きな作品と音楽。

作詞は宮川弾さん。「FGO新宿と、あと渋谷系……?」という曖昧な覚えだったので調べ直してみると、アニソン周りの編曲も手がけてるようでした、「たまこマーケット」のOPとか。

まっすぐに沁み込んでくる、寄り添いのミディアムナンバー。結城さんの歌声の「励まし」成分は、「どんな星空よりも、どんな思い出よりも」でも堪能したんですが、すぐ隣にいるような目線感とエモーショナルさの同居がすごく好きです。サウンドの、歌に寄り添いつつも、叫びのようにゴリッと感が伝わるムードも好きです。最近のfhánaライブでもお世話になっているandrop・前田さんもベース参戦していますね。

ただの雨音になるまで となりで聴いているよ

そうなる前、「ずぶ濡れのメロディー」「でたらめなハーモニー」と形容されているのは、たぶん「君」の涙なのではと。空だけでない内心のどしゃ降り、嗚咽が止んで、雨の音だけが残るまで。

あるいは、君にとって「ただの雨音になるまで」なのかもですね。責める声の暗喩とか、トラウマの刺激とかが雨に込められていて。

通しで鳴っているピアノのリフも、どこか雨のような。

ちなみにfhánaで雨というと、

外は雨が降りしきっているけど、嫌じゃないよ安らげる場所(いつかの、いくつかのきみとのせかい)

こちらを思い出す人も多いのでは。

5. 鬼ノ木偶刀、かく語りき/片霧烈火

今回のプロジェクトの中で一番衝撃が大きかったですね。

和風な戦闘系ロックなんですけど、「ザ・和風」みたいな曲をメロを佐藤さんが書くのは相当に珍しい気が。とはいえこういう曲調も、和語の響きも大好きですし、非常にアガるナンバーなので、素直に嬉しいです。とはいえCメロの怒濤さは佐藤節で。

こういう和ロック、これまでのfhánaの世界観とは離れそうですけど、towanaさんの声との反応がすごく楽しみで、期待したい所です……そういえば「ケセラセラ」も、ちょっと違うながらも和の匂いがしますよね。「有頂天家族」の影響もありますが。

作詞、ボーカルを務めたのはシンガーソングライターの片霧烈火さん。同人音楽・ゲームソング業界を中心に2000年代前半から活躍している方だそうです。寡聞にして存じ上げていなかったのですが、言葉のセンスが刺さりまくり、斬りまくりなので遡りdigしたい所。

そう、歌詞が猛烈に格好いい。文語的な言い回しと擬音語のマッチもいいですし、曲に合わせて語られる鬼ヶ崎のバックボーンとの親和性も見事ですし。歌詞カードで見たときの「この字、こう読みたいですよね!」という感覚も気持ちよかった。

いざや踊れよ淡き泡沫(うたかた)
熱く飛沫(しぶ)いた、標(しるべ)の先に

この辺とか、言い回しの格好よさに加えて、同じ子音を集中させて印象づけているみたいなテクも感じたんですよね、読みすぎかもしれませんが。

6. アンブレラ/畠中 祐

全曲の中でもイチオシです。弾むリズムと優しいメロディの泣きキュン感、ふぁなみりーが好きなラインはちょうどこの辺りという思い込みがあります。

ボーカルは駆堂アンヤ役も務め、OP「not GAME」も歌っていました畠中祐くん。「真夏BEAT」に続いての佐藤さんとのタッグです……「真夏BEAT」の衝撃はなかなかでしたね、「パリピチューンだ!!」って。

畠中くんは声質自体の格好よさは勿論、明らかに難しい歌い回しをビッシリ決める安定感と、ダブルとかフェイクでの声の表現の多様さが凄いと思っていて(後ダンスのスキルが凄い)

この曲では抜群の聴きやすさで歌を届けつつ、Cメロでは胸に迫る主旋律に、語尾のプッシュ感が最高なラップを重ねて、そこからハイトーンのコーラスにつなげるという、ひとりスーパークワイヤっぷりを披露しています。あとアウトロのコーラスのエモ刺激っぷりがすごい。

作詞は松藤量平さん。「真夏BEAT」「not GAME」もこの方でしたね、なんだこのベストマッチ・トリニティ……と調べ直してみると、ボーカルチームの「Unlimited tone」の方でした。知っているどころか、

このイベで生歌を拝聴していました。声の美しさにもハーモニーにも温かさにも感動しっぱなしだったのを、恥ずかしながら今になって思い出す……こんな所でまた繋がるものですね、改めて活動追わせてもらいます。みなさんもぜひ検索を。

その松藤さんによる歌詞。素朴ながらもドンピシャな言葉で綴られるストーリーの温かさも最高ですし、ED「僕を見つけて」とのリンクを感じてならないんですよね。もう過去形になってしまった大切な出会い、それでも「共に」あること。

僕を呼んでる誰かの声が聞こえる

ここで明示されていない「誰か」、「僕」を必要としている新たな誰かかもしれませんし、あるいは記憶の中か未来のどこかにいる「君」かもしれませんし。

「ただの雨音になるまで」も雨テーマで、「rain/pain」の対句はこちらでも登場していましたね。「僕を見つけて」「where you are」でも雨は歌われていましたし、ナカゲノ全体で歌いつがれているような。

ここからアルバム2枚目です。

7. 不条理はリピート/湯毛

聞き出しの印象は「え、wagaさんじゃなくて?」でした。決まっている訳ではないんですけど、こういうバンドっぽいストレートなナンバーはfhánaだとwagaさんなイメージなので。けどサビの後半、上への展開で「あ、佐藤さんだ」となるの、僕だけではないはず。

ボーカルは湯毛さん。こちらも存じ上げていなかったのですが、ニコ動などで歌い手・実況者として活躍されているとのこと。ただそういう背景とか抜きに、熱くて厚くて強い!! パワータイプど真ん中、そしてギターのカッティングのエグさも癖になります。

作詞のhotaruさんはMYTH&ROIDの一員であり、担当曲数はかなりのものでした(SAOのキャラソンで「うおおっ」となった顔)

いつか終わりが来そうな予感と、目前の脅威への焦燥が交錯する、そんな旅のど真ん中。「さりげなく」「何事もなかったと」という感覚、実生活で覚えることは少なくないですけど、ストレートに歌っている曲はそんなにないような。

濃密な「今」が時間に希釈されたり、他に上書きされていく感じ……昔のことを思い返せば「どうせ今回もそうなるでしょ」と感じることもありますけど、それでもやっぱり目の前を越えるべく奔走するのが僕らでしょうし、その瞬間には一緒に走っている誰かがいてほしい。

振り返るときがもし来ても どうでもいいことばかり思い出そう

この一節も、異常事態の中でもクセと中毒性が強いやり取りを欠かさない彼らの空気感に合うな~と。

8. カラフルスクランブル/NOW ON AIR

声優ユニットNOW ON AIRによる、キラキラしたキュートさが光る一曲。ここまでボーカルが多い楽曲を佐藤さんが手がけるのも珍しいですよね、人数ベースだと最多クラス? ……じゃないや、CROSSING STORIESで一大連合やってました。

この手の曲って自分には合わないことも少なくない……はずが、自分でも意外ながらドハマリです。というのも、まずはシンプルに各メンバーの「声」が楽しい。それぞれの声の色を存分に出しつつ、トラックへの乗せ方とか詞の聴かせ方が丁寧で。途中のラップ調のパートでも、フレーズ終わりのユニゾンをきっちりシンクロさせていて見事でした。

落ちサビでの透明感からの、大サビでの佐藤節の歌い上げも素敵でしたし。公式サイトにあった

「心を揺さぶる声の力」=「コトダマ」を発信。

という説明は伊達ではなかった。

結城アイラさんはこの曲では作詞で登場、他にもユニット曲の作詞を担当しているようです。

一番での「色」連発、メンバーカラーを表わしているのかもと思いつつ(ムラサキの方のボーカル大好き)、

だから必要な色 ココロに届けましょう

という、ココロに沁みるフレーズに収束していて。まっすぐな応援ソングとしても非常に楽しいんですが、これまでのfhána曲のエッセンスをビンビンに感じるんですよ。「虹を編めたら」「World Atlas」「STORIES」あたり……勿論、オタク特有の我田引水思考なのは承知してるんですが、こういう所でシンクロを感じるのがオタクの醍醐味だとも思うのです。

本気で陽気で歓喜なカラフルLife!

ここの怒濤の「き」コンボも大好きです。

サウンドはシンセとギターのアンサンブルも楽しいんですが、よく聴くとパーカッションの動きの細かさがすごいです。

共編曲のyuichi NAGAOさん、エレクトロ系中心のトラックメイカーとのことなんですが、

この音の質感、散りばめ方は、ふぁなみりー、特にオーディオにこだわる人に刺さるヤツです。不思議なタッチのアニメも引き込まれますし。

9. Code "Genius" ?/亜咲花

僕らのリーダー佐藤さん、亜細亜に咲き誇るディーバ亜咲花さん、、神曲と見切れに定評が溢れる田淵の兄貴(UNISON SQUARE GARDEN) 、というクレジットだけでぶち上がる編成です。

佐藤さんと田淵さんとの共作で言うと、大橋彩香さんの「Sentimen-Truth」が大好きで。それまでイメージしてた佐藤節・田淵節とは違うながらも、「感情表現としての歌」としての威力と精度がものすごい、声と詞と曲の高次元の融合が起きてまして、震える歌でした。

この曲でも、メロとリズムへの言葉のハマリ方がゾクッと来るくらい見事で。特にサビ前、コーラスと速い譜割りのコンボで「おうっ!?」と引きつけてからの、ジャストタイミングで来るサビの解放感がエグい。随所のライミングとか、音の似せ方とかも。

作中のゲームじゃないですけど、まさに精巧なパズルのような……そういえば田淵さんがTRUEさんに書いてた曲に「パズル」ありましたね。

そして亜咲花さん。「Edelweiss」を初めて聴いたときの感動は超鮮烈でしたね……佐藤さんとは「singbird」以来でしょうか、こちらは英語ボーカルのdiva感が物凄かった。

今回も低音から高音まで、コーラスにポエトリーに、どこを取っても貫禄しかない、格好いい。佐藤さんは(特にfhánaだと)ボーカルを信頼しきって難しいメロを作りがちな印象があるんですけど、この曲からも「亜咲花ならこれくらい行ける」「まだやれますよ佐藤さん!!」みたいなラリーが浮かびました。

10. where you are/fhána

「願い事」に続き、towanaさん作詞です。

2019年12月現在、fhánaはちょうど「where you are Tour 2019」の真っ最中です。僕が参加するファイナル(舞浜公演)は来週です。だからライブで聞いてやっと真髄が分かる曲だとも思うのですが、予習も兼ねて今の感想を。

ここ最近、3rd AL「World Atlas」以降かな、fhánaはメンバーとリスナーそれぞれの人生を「旅」に喩えて、それが「合流」する場所としてのライブを大切にしてきました。歌詞でもMCでも、

「僕らはここにいる、これは君と一緒に紡いでいく物語」

というメッセージが何度となく示されてきたと思いますし、そのムードは「CROSSING STORIES」にも表れていました。

しかし「僕を見つけて」でも「願い事」でも、強調されているのは離別であり、孤独や喪失感が滲んでいたように思います。

そしてこの「where you are」は、時制の解釈に迷ってもいるんですけど。
触れられるくらい近くにいたり、どこにいるのか分からなかったり……出会いと別れを繰り返して、孤独に呑まれそうになりながらも歩いていく。という位置関係で読みました。通して聴くと、やっぱり孤独感、というより切実さの滲む歌だったと思います。

というのもこの曲のtowanaさんのボーカル、特にCメロ以降、エモーショナルさが際立っているんですよ。間奏前のロングトーンの衝撃は凄まじかったです。以前のtowanaさんはどちらかというとニュートラルさ、熱に傾きすぎない温度を特徴としていた(佐藤さん談)ので、そこを崩してきたという意味でも意外で。
そしてストリングスの響きも、これまでよりも「揺れ」の印象が強いように思えました。

繰り返し歌われている

君の瞳に映る今日の空は何色?

つまりは心象、心の色。

その上で、ツアーの特設サイトに記されたメッセージを読んでみると。

あなたはどこにいるのだろう。わたしの居場所はどこなのだろう。それでもわたしはこの場所から、あなたのことを想っている。 (towana)
自分だけのためではなく、誰かのためにだって生きていけるはず。
そのために必要なのは、「ここに居てもいいんだ」と感じられる自分の居場所を見つけることなのではないかと思います。(kevin)

「ここで一緒に居たい」と思えるような大切な人が離れるときに、
「居たいと思える場所に居られますように」と祈る、あるいは
「居場所を疑っていないだろうか」と愁う、そんな歌に思えました。

触れ合える場所で出会ったあなたが。
手の届かない遠くにいるとき、泣いていないだろうか、空は色づいて見えるだろうか、雨に打たれていないだろうか。
見えない心の色を知りたい、痛いならば寄り添いたい。

歌い続けながら、リスナーという共演者と、あるいは個人的に誰かと出会い続け、そして様々な痛みや別れと向き合ってきたtowanaさんの、いま一番叫びたい祈り……そんな風に聴こえます。

という第一答案を用意した所で、来週のライブで答え合わせです。ツアーパンフにも記述があるかな。

11. そよ風のパレット/南波志帆

作詞towanaさん、ボーカルは南波志帆さん。南波さんといえば、一度聴いたら忘れられないようなピュアな歌声で印象に残っていたのですが。
https://twitter.com/jsato_FLEET/status/670895228002263044

こんな風に、fhánaとは以前から親交あった方のようです。

佐藤さんの新旧孫娘の邂逅……とかではなく。

という面々によるこの曲ですが、それぞれのらしさの引き出し合い方が絶妙で非常に好きです。

するっと心に入ってくる優しいメロディと声、「fhánaっぽい」ど真ん中の装飾音。1st ALの頃の手触りを思い出しつつ、生音も楽しくて。タイトル通り、「そよ風」のような心地よさが

そしてtowanaさんの歌詞も、これまでのfhánaを感じさせるようなフレーズが多くて。

いたずらな笑みで手を引いて 見たことない世界へ飛んでいく

「ケセラセラ」を感じました、曲の温度感も含めて。

沢山の色を君だけが僕にくれた
モノクロの冬が来る

タイトルの「パレット」も含めて、色に絡んだフレーズが多くて。2nd ALの「The Color to Gray Wolrd」「虹を編めたら」を思い出すなど。

後は2番の「現実の世界」「夢の時」の対比も、3rd ALを思い出しましたし。

そしてCメロ、

こんな日々がずっと (you colored me)
続かないこと (in days gone by)

日本語詞と英語詞の対応、後半でダブルで「過去形」を示す流れが鮮やかで好きです。他のナカゲノ曲に続いて、やはり別離を経ている。

こう見ると、これまでから現在のfhánaが凝縮されているよう思える、そんんな曲でラストです。

おわりに

という訳で約9k文字、お付き合いくださりありがとうございました。ここからはおまけのような、今回のアルバムまわりの雑感です。

ベストアルバム以降のfhánaチームのリリースというと、(和賀さん参加のSHIROもありますが)「僕を見つけて」といいこのアルバムといい、ナカゲノきっかけが中心だったと思います。以前からは佐藤さんは曲作りについて「アニソンというお題があるから面白い」ということを語っているので、作品きっかけにここまでバラエティ豊かな楽曲群ができるというのは非常にfhánaらしくて。

しかしライブシーンで言うと、「アニソン(レーベル)というジャンルを越えて」という姿勢がさらに強まってきていたのも感じます。「Sound of Scene #01 」はまさにそんなコンセプトでしたし、FCイベでも「独自に」というニュアンスが発せられていたと思います。

こう見ると相反しているようで。しかしSoCライブにアニソン関係者が応援に来ていたりする(O.A. のGothic×Luck、客席には緒方さんとRIRIKOさんもいたはず)ような、面白いつながりも生まれていて。

レーベルアーティストという立場に依存しきらず、しかしその立場によって得られる経験値や仲間は逃さない、そんなfhánaの戦い方が見えたようにも思えました。

……とはいえ。新しいスタイルでの供給が増えたのが嬉しいとはいえ、やはり佐藤さんの日々のハードさが心配でならないんですよね。日付またぐ頃には帰宅して、猫を愛でつつベッドでゆっくり休めるような、そんな日々であってほしい……というのを、僕が言っても仕方ないのですが。

後はやっぱり、僕が歌について語るときって「歌詞と文脈」に筆が行きがちで。佐藤さんがメインで担当している「メロディーとサウンド」を満足に受け取って言語化するには、知識も経験も圧倒的に足りていないんですよね。

とはいえ、3年ほどfhánaを追ってfhánaを語って小説を書いて、を続けているのはやはり楽しいですし、自分にはこの偏り方が向いていると思うのです。
勿論、音楽理論も、音の細部の違いも、分かった方が楽しいはずで、そこはちょっとずつインプットしていきたいとは思っていますが。その辺が不足しているからといって、こうやって綴り続けるのを止めようとは思わなくて。

それと同時に、もっと分かる人はもっと語って~! と思っています。勿論、している人も数多くてありがたいのですが。

詞と音の対比に限らず、僕らの視点って少しずつ偏っているんですよ。だから、色んな角度から得られた像を共有していくことで、コンテンツの魅力がより深く分かっていくという営みが、もっと活発になればいいなと思っています。

軽率でいいのです、まとまってなくていいのです、それがファンでありアマチュアである僕らの特権です。
あなたには拙いと思えるその一行が、誰かの宝のユーレカになり得るのです。

……ということで来週のfhánaライブ、みなさんの反応も含めて楽しみにしています。




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