『ジャムおじさん』春風亭㐂いち

バタコへ。
君がこの手紙を読んでいるときには、もう私は遠いところだ。
バタコや、今まで本当に世話をかけたね。
私が肩を脱臼しがちになってからは君がアンパンマンの新しい顔を投げる役目になった。
君が夜な夜な投球練習をしていた事はみんなが知っていたよ。ありがとう。

三年くらい前になるかな、世間でアンパンチ論争といったアンパンマンに対するバッシングがあった事は君も知っているね?
一部の親から出た「アンパンチは暴力なんじゃないか」という意見から派生したこの論争がアンパンマンを変えてしまった。
当初はアンパンマン自身はそんな事まったく気にしていないように見えた。
だけどあれはそういう振りをしていただけで本当はだいぶショックを受けていたんだよ。
それにもっと早く気がついていればね…
徐々にアンパンマンはやさぐれでいった。
いや、本当の意味で腐っていったよ。

アンパンマンの弱点は顔じゃない。
換えが効かないボディが本当の弱点だってことは君やチーズには教えていただろ。
いつの間にか、もうみんなが知っている事になったがね。
あのバイキンマンでさえ知っていたんだから。
なかなか粋な男だよ、あのバイキンマンは。
アンパンマンの弱点がボディだと知りながら、あえて顔を狙い続けたんだから。
そして、いつもアンパンチで飛ばされ続けた。
あのバイバイキ~ンには「アンパンマン、お前はそれでいいんだよ」というメッセージがきっと込められていたんだよ。
だがねバタコ、その優しさがアンパンマンを苦しめていったんだよ。
パトロールが週一になり、戸田恵子の悪口を言うようになり、なにより当人があれだけ拘っていたこしあんが粒あんになり、、、
本当にアンパンマンは変わってしまったんだよ。

バタコや、君の考えている通りだよ。
私がやったんだ。
私がアンパンマンの新しい顔に毒を盛った犯人だ。
もうこれ以上、アンパンマンが腐っていくのを私は見てられなかった。
だからアンパンマンを殺して私も後を追おうと。
だけどまさか、そのアンパンマンの顔を食べてカバ男くんが死んでしまうだなんて、、、
肝心のアンパンマンは私の計画に気づき逃亡、今や指名手配犯だ、いや指名手配パンだ。
もうすぐ復讐を果たしに私のところへやってくるよ。
愛と勇気だけが友達だって?
笑っちゃうよね。
だって今は孤独と復讐心が友達なんだからね。

P.S
この際だからなんだけど、最近、私、朝、ご飯を食べているんだよ。お米が美味しくてね〜
もうすっかり和食派だ。
これじゃ『ふりかけおじさん』だね。
ははは。バタコや。

2020.4.18

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