『無人島に一つだけ持っていくなら…』春風亭㐂いち

私はお弁当箱を持っていきます。
そのお弁当箱にはとても美味しい猛毒のアップルパイと記憶が消せる薬が入ってます。
まず初めにお弁当箱から記憶が消せる薬(液状)を取り出します。
次にお弁当箱の蓋を丁寧に閉めて、まだ開けてない程にします。
ここからが問題です。
このまま私みたいなのが無人島なんかで生きていけるわけがないんです。
私は死にます。
でも正直、自殺できるようなタイプじゃないんです私は。
そこでこの薬です。
私ははたしてここでこの薬を飲むことが出来るんでしょうか?
この薬を飲めば、記憶がなくなり私はきっと大好きなアップルパイを食べるでしょう。
しかし、そのアップルパイには猛毒が入っている。
それを食べると眠くなりそのまま二度と起きないという代物。
でもそのアップルパイは凄く美味しいんです。
つまり私はとても幸せな気持ちで死ぬことが出来る。
だからこの記憶を消す薬こそ私にとって自殺薬なんです。
でも私にはおそらくこの薬を飲む勇気がない。
そこで私はアップルパイの入った弁当箱を隠すことにしました。
そしてどこに隠したかを砂浜に書いておく。
「この島のどこかに貴方の大好きなアップルパイが隠されている。探せ、この世の全てを置いてきた!」
そんな感じで書けば精神年齢の低い私はきっとそそられ夢中になって探すことでしょう。
次はどこに隠すかが問題です。
出来るだけ早く見つけないと保冷剤が溶けてアップルパイが腐ってしまう。
でも簡単に見つけられてしまうと、その時の感動が薄れ美味しさが半減してしまう。
ベストは空腹のギリギリ限界のところでアップルパイを発見し食し幸福に満たされ眠るように死ぬ。これです。これがベストです。大変、有意義な終活です。
このコロナ渦で先行きが見えない現代社会を生きるより、大好きなアップルパイをどこに隠すか。それを考えながら私はここで生きていく。

2020.6.27

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?