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「成功」より「成長」


◆コーチング


 私は元々、数学科の教員であるが、長年、中学のサッカー部の顧問や市の選抜チームの監督として、サッカーの指導に携わってきた。 サッカーの指導を通して教育について学ばせてもらったことが経験資産になって いる。
 それは,選手の「成功」というより「成長」できる学びの環境づくりにおいてで ある。最近では当たり前のように知られている「コーチング」についても,教育界でコーチングという言葉を耳 にしない頃から、サッカーの指導経験を通じて「コーチング」を意識するようになった。動きを止めてしっかり話を聞かせる「フリーズコーチン グ」,活動している途中に声かけをしていく「シンクロコーチング」は,教科指導にも学級経営にもつながる。
 

◆生き方をデザインする

 サッカー部の生徒には,個々の1日をデザインする力をつけていくことを意識させていた。部活動の練習時間は 60 名くらいの部員がいた学校の場合、放課後約 2 時間,部員数が少ない学校の場合は放課後約 1 時間、朝練は一度も行ったことがない。限られた時間の中で、個人とし てチームとして何をすべきか「考える」ことを習慣化し,主体性を育むことを目標にし ていた。この目標が,「成功」より「成長」ということにつながっていくと考えていた。
 練習や試合をする際,その時間の目標をみんなで共有することが一番大切であり,効果を上げると考えていた。このことは教科の授業における教育効果にもつながる考え方だ。1コマの授業に おいての目標は「めあて」とよく言われる。その時間の「めあて(=ゴール)」を共有 し,マインドセットすることが授業の効果を生む。 生徒は,1 日をデザインすることで,食事,休養のための時間や自学したり,家族と 過ごしたりする時間を意識するようになる。すると生徒は,普段の生活の中でも,自分 の考え,自分の夢をもち,そのための時間の使い方を考え,夢中になって努力するよう になる。そして,最後まであきらめない「心」の才能を磨いていく。まさにキャリア教 育につながった。
 1日をデザインする力を育むためにポイントとなるのは,「こんな24時間にしたい」 「こんな生き方をしたい」というイメージになる。そこから夢中になる力が生まれ,イメージの実現につながっていく。

◆近くにいる大人が最高の教育者であれ


 一番近くにいる大人が最初の教育者になる。そういう意味では教育のスタートは家庭になる。そこから学校・地域社会に流れてくる。 関わる人間がどんどん重なり合う。これもキャリア教育と言える。 以前(?)スポーツの指導の世界で「体罰」や「暴力」の問題を耳にした。その要因 として,選手たちを中心に置かない価値観がある。「プレーヤーズファースト」の深い 自覚なしに,恐怖や痛みによって選手を手っ取り早くコントロールしようとする指導者がいる。組織の論理が個人を踏みにじる構図といえる。人間の脳には,大脳辺緑系という本能的な行動を司る部分と,理性の源になる大脳新皮質と言われる部分がある。 恐怖や痛みで人を支配しようとするのではなく,大脳新皮質つまり理性や感性に働きか けて「成長を促す」のが教育である。 選手・生徒の「できない」を「できる」にするためのサポートは,選手・生徒の自信を育てる。もしすぐに成果が表れなくても,私たちは我慢と情熱は失わないようにしなければならない。それが学びの環境づく りにつながる。 人は「安全・安心・安定」の3A と言われる所に集まる。不安や恐怖しかないところ で選手たちが上手になるのは,大きな「はい」の返事だけである。
 私たち教師は,うまくいかなくとき,「もうダメだ」ではなく「まだダメだ」と考え ることを習慣化し,我慢と情熱をもって学び続けなくてはならない。


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