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茂見社長とユーザ起点のイノベーションを探る―第2回:NTTドコモ 様-2/3

ICI総合センターの共創パートナーである、株式会社トヨコーの代表取締役社長CRC 茂見様にアンカーをお願いし、ユーザを起点としてオープンイノベーションを実践されている方々のノウハウやポイントを明らかにしてしまおうとするこの企画。

第2回のゲストには、株式会社NTTドコモで5Gやオープンイノベーションを活用して建設業のDXやイノベーションを担当されている中岡様・中島様・後藤様をお迎えし、オンラインで熱い議論を行っていただきました。昨日より3日連続でその模様をお伝えしております。今回はPart2をお送り致します。

Part1はこちらから▼

デジタル革命に試行錯誤...建築現場loTソリューション開発秘話!

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次に建設イノベーションにおける建築向けの生産性向上ソリューションについてお聞きしたいと思います。

後藤

ドコモ建設現場IoTソリューションは現場でのヒアリングや仮説検証等を行いながら設計・開発を実施しております。建設業界は労働力不足や週休二日の実現ができていない、若手の働き手の不足など多くの課題を抱えている業界で、どう現場の生産性をあげていくかについて検討を進めています。
具体的には、現場の業務の課題を抽出して対策を検討する等、業務全体をプロセス化したデータを用いた現場の生産性向上について検討をしています。そして、BIM(Building Information Modeling)、プロセス管理、現場で働く人の情報を用いて、建設現場の生産性20%向上(週休二日制の実現)、複数現場を横断した現場の最適化の実現を目指しています。
建設IoTソリューションの中で私は「現場で働く人の情報を用いた人間行動モデル」による生産性向上に取り組んでいます。一品受注生産である建設現場どうしは単純に比較することはできませんが、そこで働く人間の行動の繰り返し性に着目することで比較が出来るようになると考えています。人を軸にデータを取得し、歩掛りに関連する指標の見える化や、工程遅延につながる人間行動からのリスクの見える化をすることで、現場のシミュレーションやリスク管理マネジメントの実現を検討しています。

中島

元々、IoTビジネス部は通信回線を中心に提供してきましたが、もう少し業界に入り込んだソリューションでビジネスをやっていく必要があるのではないかというところからプロジェクトがはじまりました。建設業界を選んだ理由としては、「業界で一番のDXは携帯電話だ」と言う話を聞いて、まだまだICT、IoTを活用していく余地が高いなと思ったからです。建設業界の知見がないところからのスタートだったので、まずは朝から晩まで現場に張り付かせていただき、色々学ばせてもらったところから始まりました。建設現場のデジタル変革の取組みをやってみて、予想以上に大変だということをここ3年間くらいは痛感しております。
ただ、私たちはコミュニケーションの会社ですので、人を中心とした建設業界の現場をコミュニケーションという切り口で色々とお手伝いできないか、ということでこのプロジェクトを進めてきました。はじめは働き方改革というキーワードでやっていましたが、昨今のWithコロナにおいて、いかにデジタルを活用していくか?ということがより重要なポイントになってきたと思っています。

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これまでの開発秘話や難しかったことはありますか。

中島

建設業界に限ったことではありませんが、新しいソリューションに対する抵抗感が強いと感じています。その先の行動変容やプロセスを変えるに至るにはもう少し時間が必要だと思います。ただ、その中で我々としてもアジャイル的な開発やトライ&エラーの形でどんどん現場にフィードバックをもらいながら開発を進めているのはポイントのひとつだと思います。デジタルを活用してプロセス自体を変えるようなDXをめざし「本質を変えずにプロセスを変える」というキーワードを合言葉として取組んでいます。ここで言う本質は、現場に密着しながら課題を汎化し、本来どうあるべきかをしっかり見据えた上で、そこに必要なテクノロジーやソリューションは何かという落し込み方をしながら進めています。

後藤

PoCをするときに、現場の人に協力してもらうことが大変でした。ヒアリングしながら検討したものであっても、現場に持っていくと「思い描いているものと違う」と言われることも多々あります。また現場では、現状のやり方を変えたくないという思いが強く、それをどう打破するかも難しい所でした。

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それでは、次に岩坂さん、建設業界側としてはどうお考えでしょうか?

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古い話で恐縮ですが、25年ほど前、トンネル現場へのPHS導入など担当していました。そのころの経験で言えることは以下の3つでしょうか。
まず、建設業には試作品が存在しないことです。今、施工している工事が商品。失敗できない、遅延できない。よって、後藤さんのお話にあった、現状のやり方を変えたくないという思いは当然強くなりますね。次にデータのとり方が難しいことです。例えばトンネル現場では砂・水・湿度・外力のかかり方など、センサーに対する環境が過酷です。物理的にデータのとり方が難しいのです。また何のデータをとれば「PDCA」がきちんと回り、現場の品質・安全性の向上や工期の短縮につながるかという点。これはまさに『本質を変えずプロセスを変える』で、現場の皆さんの納得と効果をどう上げていくかに繫がると思います。最後に、建設現場の時間最小単位が、無意識のうちにすべて「日」単位になってしまっていることでしょうか。工場だと「分」や「秒」で改善することで、商品の生産数が向上し、コスト低減などを実感できるのでしょうが、建設業だと「日」単位になってしまう。「それやって何日早くなるの?」というような我々の技術開発等における無意識の質問がその例ですね。時計の感覚が違うため、現場で分単位の業務効率化を理解してもらうのが大変ですよね。

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後藤さん、中島さんは、今の岩坂さんのお話しを聞いてどうですか?

後藤

現場が商品というのはその通りだと思います。現場の方の業務を邪魔しないように、実証をさせてもらう工夫が必要と改めて感じました。

中島

岩坂さんのおっしゃる通りで、建設業は一品生産だと良く聞きます。工場のように大量生産とは違うと感じています。ただ、その中で我々は人にフォーカスしています。すると、違いはそこまでないのではないかとも思えてきます。例えば、鉄筋屋さんや土間屋さんといったそれぞれの作業を細分化した行動モデルは、一定の繰り返し性があったりする点です。一つ考え方として、ビックデータを見る尺度を人間の行動という粒度にすることで、活用しにくいデータを使えるものにできるのではないかと考えています。このように、人の動きをモデル化する取組みをしています。どこまで言っていいのか迷いますが…

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同業他社さんとの関係もあるでしょうから無理しないでくださいね(笑)。

中島

わかりました(笑)。現在、やる気やエンゲージメントについての取組みをしています。具体的には、「人と人との調整の見える化」「活動の見える化(位置情報・ホームポジション)」「前工程と後工程の連携の見える化」「習熟効果の把握」「人のコンディションの見える化」に着目しています。これらで導きだしたいことが、『歩掛り』です。これらの一人一人の歩掛りが積み重ねると生産性となると考えています。生産性を図る指標がないとも聞いていますし、生産性を数字で見える化することは重要だと考えています。例えば、行動モデルをスコアリング化して数値化していくことで歩掛りを測る指標とし、前後でどのように変わったか認識できることが重要だと考え取組みをしています。

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未知の領域だった建設業界とのプロジェクト。
朝から晩まで現場張り付いた日々から、糸口が見えてきた今日までの
ストーリーを詳細に語っていただきました。

後藤

現場の人は、一日単位で成果を測るというお話しがありましたが、現状は数値的に生産性が可視化できない部分が多いと感じています。現場で働く人の人間関係やそこで働く人のやる気・体調なども工程進捗に大きく影響していると考えているため、コミュニケーションや人という観点でアプローチしていきたいと考えています。

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実際に同じ仕事でも、習熟度、同じ人でもやる気やコンディションで仕事のスピードや成果は変わってくるのはわかるような気がします。そこを見える化して、歩掛りと関連づけてモニタリングしていく試みをされているという理解でよいでしょうか。

後藤

はい。工事現場は一日単位で業務管理されているため、2時間3時間しか働いていなくても1人・1日とカウントされていることが多いと思います。その中で、手待ちや手戻りが発生しているとか、本来ならばどの程度働けたのかが見えていないのが現状だと思っています。そこで、人間の実際の活動量を切り口にすると、見えてくるものがあると感じています。

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1時間作業が早くなることでのインセンティブをどうつけるかが建設会社の課題です。今回は50分で掘削、では次の掘削は45分にしよう!と協力会社の方にまでモチベーションを上げていただく方法・・・その第一歩として数字でデータを見せることは勇気づけになると思います。まずは、興味を持ってもらうことが大切です。

後藤

おっしゃる通り、現場の人にどうしたら価値を感じてもらえるか。現場へのメリットを与えることが必要だと考えています。

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それは元請の我々がやるべきことなのかもしれないです。協力会社を動かすのも人、現場では必ずキーパーソンがいるので、価値をもっと上手に感じてもらう必要があると思います。

(つづく)

次回でいよいよ最終回となります。パート3、明日の更新をお待ちください。