フィギュアスケート_シルエット

フィギュアスケートにおけるジェンダー

フィギュアスケートにおけるジェンダー

フィギュアスケートは、日本においても人気のあるスポーツである。氷上を優雅に滑りながら、かつ3回転・4回転のジャンプを軽々と跳ぶスケーターの姿を見ると、まさにフィギュアスケートとは、芸術とスポーツが融合した、新たな形のスポーツと言えるであろう。

日本におけるフィギュアスケートは、1992年のアルベールビルオリンピックにおいて、世界の女子選手の中で初めてトリプルアクセルを飛んだ伊藤みどりさんをはじめ、バンクーバーオリンピックでは女子で史上初、3回のトリプルアクセルを成功させた浅田真央選手、同じくバンクーバーオリンピックでは、日本人として男子シングルで初めてメダルを獲得した高橋大輔選手や、ソチオリンピック、平昌オリンピックで2連覇を果たした羽生結弦選手、そして近年では、グランプリファイナルで浅田真央さん以来となるシニア1年目で金メダルに輝いた紀平梨花選手など、数々の素晴らしいスケーターが多く存在する。

その長い歴史に基づき、フィギュアスケートのルールも、時代と共に変化してきた。現在のフィギュアスケートにおいては、技術点と演技構成点の合計点によって、順位が決まる。技術点とはその名の通りスケーターのパフォーマンスにおける技術を数値化したものであり、ジャンプやスピン、ステップなどがその代表である。一方で演技構成点とは、そのスケーターのパフォーマンスにおける、いわば芸術性を評価したものである。これには、スケーティングの次の動作においてのつなぎの部分や、音楽の解釈などが含まれる。

今回の記事において紹介したいのは、この演技構成点についてである。長年フィギュアスケートのファンとして、フィギュアスケートを見てきた私にとって、毎回疑問に思うことがあった。どれだけ女子選手が男子選手と同じようなジャンプを飛び、ミスをしなかったとしても、男子選手には到底、点が追いつかないのである。

例えば、今年開催されたジャパンオープにおいて、男子のネイサン・チェン選手と、女子のアレクサンドラ・トゥルソワ選手の技術点を比べてみよう。
ネイサン・チェン選手は98.67点、一方トゥルソワ選手は97.51点である。これをみると、技術点はほとんど変わらない。
しかし、総合得点は、ネイサン・チェン選手が189.83点、トゥルソワ選手が160.53点なのである。

ネイサン選手は昨年の世界選手権の金メダリストであり、一方のトゥルソワ選手はまだ15歳のシニア一年目。昨シーズンは一つ下のカテゴリーで大会に参加していたため、もちろん、スケーティング技術に差はあるだろう。
しかし、それを考慮したとしても、30点もの差はつくのだろうか。

この演技構成点においては、あるルールが存在する。男女のショート・フリープログラムの演技構成点において、それぞれ一定の数値が掛けられているのである。例えば、男子のSPは5項目×10点の50点満点であるが、これに対し、女子のSPは50点に0.8を掛け、40点満点となる。フリーでは、男子が2倍の100点満点、女子が1.6倍の80点満点だ。

このルールが作られた背景には、基本的には女子の方が技術点は男子に劣るため、結果として女子の演技では技術点と演技構成点が同じくらいになるように調節するためだという考えもあるという。
しかし現在、女子選手の中でも、男子選手と同様、またはそれ以上のジャンプや技術を習得している選手たちもいるのだ。
この時代において、女子選手と男子選手によって演技構成点で与えられる最大点数が違うというのは、果たしてどうなのだろうか。

演技構成点にも関わってくるが、さらにもう一つ、掘り下げたいことがある。女子の衣装である。
衣装について全てを書くと長くなってしまうため割愛するが、今回特に注目したいのは、女子選手のズボンである。

2006年に女子選手のズボンが解禁されてからというもの、実際の多くの女子選手は、いまだにスカートの衣装を着ている印象が強い。
これには、音楽を表現するのにスカートの方が良い、という考えもあるだろう。しかし、それ以外の要因の方が大きいのではないか、と私は感じた。

スケーターの演技を審査するのはジャッジたちである。ジャッジは最大9人、そしてそのジャッジとは別に、技術を審査するジャッジが2~3人いる。
比較的年齢層の高いジャッジにおいては、昔のルールが強く根付いてしまっている人もいるのではないだろうか。これが何を示すかというと、2006年まで女子はズボンを禁止されていたため、ジャッジに良い評価をもらうには、ズボンよりもスカートを着た方が良いのではないか、と考えるスケーターも多いのではないかということだ。

一つ興味深い演技がある。ロシアのエリザベータ・トゥクタミシェワ選手の衣装だ。
彼女は今年のフリープログラムにおいて衣装を昨年とはガラリと変えてきた。今年の衣装はズボンにしたのだ。

しかし、昨年の国別対抗戦(シーズン最後に行われた試合)で行われたフリープログラムでは、演技構成点が71.74点だったのに対し、ズボンの衣装を着て挑んだ今年のグランプリシリーズ、アメリカ大会では、演技構成点が64.30点まで下がっていたのだ。違うプログラムとはいえ、同じスケーターの演技構成点はここまで下がるだろうか。

そして彼女は次の大会で、昨年のプログラムに戻していた。そこでの演技構成点は66.50点。この時の衣装はスカートのタイプであった。

フィギュアスケートにおいて、衣装もまた重要なプログラムの一つである。また、今回の衣装に関する考察は、あくまでも私自身の勝手な考察である。
しかし、衣装によって、それも女子はスカートの方がジャッジからの印象が良い、という事実がもし本当にあるならば、それはあってはならないことのように思える。

オリンピックチャンネルのインタビューにおいて、トゥルソワ選手はこう答えた。「男子とも戦ってみたい。」
2022年には北京オリンピックも控える。それまでに女子フィギュアスケートがどのように変化していくのか、今後が非常にたのしみだ。

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