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#逆噴射小説大賞2022 セルフライナーノーツ

 今年もwebパルプ小説の祭典、逆噴射小説大賞が終わった。今年からレギュレーションに小変更が加わり、投稿作が一人2作までに制限されたのでどうなるかなと思っていたら最終的に260超ものパルプ小説が集まり俺はシャッポを脱いだ。新規参加者もかなり見かけ、イベントとしての強さを感じた。
 自分も二作投稿したので、それらの解説や反省点などを書いていこうと思う。
 ちなみにヘッダー画像はAIに頼んだら出てきたCORONAっぽいビールとタコスっぽい料理です。

一作目:ピリグリムは月に触れる

 趣味の月と竜のファンタジー。今回の祭りにあたって事前に用意していた弾は2つ。じゃあそれ投稿して終わりじゃん、となるが一つは初日の趣味枠に撃ち込むためにリザーブされた空席だったのです(レギュ変更判明前に書いてたからね、仕方ないね)。
 月から竜が降ってくる、というイメージを膨らませて書いた作品。天から降ってくるならニニギノミコトだろ、ということで和風テイストが混ざった。
 大陸竜とかいうのが出てくるが、実は惑星竜や衛星竜等もいる。月も竜なのだ。そこら辺を盛り込みたかったが説明が長くなりすぎるのでカットした。失敗だったな、とちょっと後悔している。
 主人公かと思ってたやつが死んで主役交代、ってのをやってみたかった。最後に出てきた女の子は紅眼白髪です。
 技工とか工夫ポイントも特に何もない。100%手癖で好きに書いたやつ。ラスト一文はベニー松山神の神小説「風よ、龍に届いているか」のプロローグのラスト一文の丸パクリです。
 ちなみになんで俺がファンタジーを書くと高確率で竜が出てくるのかというと、生まれて初めて能動的に読んだ本格的ファンタジー小説が「ゲド戦記」だからです。ゲド戦記の竜は超かっこいいからね、仕方ないね。

二作目:泥と鯨のワルツ

 泥と鯨のSF。こっちは事前に練って数ヶ月前から準備していた……ものではない。
 去年の逆噴射小説大賞が終わった後、「来年は『泥』でいこう」と色々調べ、泥=塹壕戦の発想から、塹壕で起きた殺人事件の話が出来上がった。
 が、ボツにした。理由は、舞台にしていたのが地名とかは特に書いていないのだが、東欧の『あそこ』辺りだったんですよ。現実が酷すぎる、となりポシャった。
 更にリアル生活が殺人的忙しさとなり、あれよあれよという間に時は過ぎて10月に。どうしよう、となったがボツにした作品とボツにした作品を合体させたらどうだろうと思いつく。もう一つのボツになった作品は知性化した鯨たちのスクールライフを描く部活モノだった。鯨の群れのことを英語でSchoolと言う。つまりはダジャレです。
 そんな訳で泥の海を泳ぐ鯨、というネタが出来上がった。ただの鯨だと捻りがないなと思ったので鯨……と思わせて実は潜水艦にする。『SMN』は原子力潜泥艦という意味の造語です(原子力潜水艦はSSN)。ミスグルヌスはやけに響きはかっこいいが、実は泥鰌どじょうの学名である。泥って漢字がついてて黒くてぬるっとした細長い形なのでぴったりだな! と決定した。鯨じゃないのかよ。
 あと登場人物たちの名前は、ユダヤ教のゴーレムの身体に掘られているシェムハメフォラシュから採用した。ゲーティアの悪魔に対応した72の天使の名前なんですが、今年の逆噴射小説大賞はなんかやけに天使ネタが多いので「被ってるよ」と指摘されたらどうしようかとビクビクしていたら何も言われなかったのでここでネタバラシしておきます。
 主人公のアハイアくんは純人間ですが、叢人達は違います。「流体になる」というのも文字通りの状態になってます。くさむらと書いて村と読ませるのは、泥の海の中で定住出来るのが草が根を張った一帯だけだから、という設定だったり。
 ちなみにタイトルは上遠野浩平神の未発表小説「叛乱と霰のワルツ」より連想。
 そしてこれは実は凄いシステマティックに書かれた作品なんですね。趣味枠が適当だったのでこちらはきちんとしておきました。過去の大賞作や最終選考作を読み込んで、自分的に抑えておくべきポイントを抽出してそこにプロットを打ち込んで書き上げました。
 だいたい以下の通りです。

冒頭:五感に訴える描写

 これを入れるだけで読者の脳内に生々しい質感を刻み込めるアド中のアドです。本作では「泥の臭い(嗅覚)」「海の広さ(視覚)」「ガスの音(聴覚)」「泥が肌に付く(触覚)」を盛り込んでいます。味覚はさすがに入り切りませんでした。
 食事の描写は五感描写をフルに盛り込めるので強いです。

最初から異常な状況

 800文字しかない逆噴射小説大賞では最初から異常状況にしておかないと展開が間に合いません。本作では見渡す限りの泥の海、という分かりやすく異常な状況から始めました。

異常な状況下の日常

 異常な状況はあくまで「読者にとって」異常であって、登場人物たちにとっては日常でなくてはいけません。日常→非日常の落差こそが物語の推進エネルギーを生むのですから。
 本作では「求婚のために伝説の鯨の漁」という何か割と現実でもありそうなラインの描写で日常感を出しています。

異常な状況下での非日常(人が死ぬ)

 人は殺しておきましょう。それも主人公にとって大事な人を殺しましょう。そこら辺のモブをあっさり殺すのでは非日常感は出ません。モブがあっさり死ぬような状況が日常の作品でも、このフェーズでは大事に殺しましょう。
 本作では友人のハマシアくんが魚雷で吹っ飛んでいます。かわいそう。

主人公に主体的決断を行わせる

 主人公が状況に振り回されるだけで面白さを確保するのは相当厳しいです。ドラクエの選択肢くらいシンプルでもいいので何か一つは決めさせた方が良いです。
 本作では(咄嗟ではありますが)アハイアくんは叢人ではなく《雷鯨》の方を選び取っています。

それまでの展開を反転させる

 順調に事が進んでいたのなら障害を、困難が続いていたのなら成功を用意しましょう。もしくは伏せていた情報を開示させましょう。
 本作では「主人公が人間で、叢人は違う」というカードをオープンしています。

内的葛藤はあるか?

 本当はやりたくないのにやらざるを得ない、あるいは本当にこれで良いのか悩むって感じの心理描写を入れておくと良い感じに引き締まります。
 本作では入れる隙間がなかったので、叢人に視線を送ることで「この状況から助けて欲しいが見捨てられてショック」という心情を匂わせました。

外的葛藤は起こるか?

 死体を隠さなきゃいけないのに警官が来るとか、人妻と浮気してたら夫が帰ってきたとか、要するにその場をどうにか切り抜けないとヤバいことになるピンチです。「展開反転」とセットで使ってもオッケーです。
 本作では最後の謎の泡立ちで、咄嗟に叢人側でなく雷鯨側に飛んでしまった部分に当たります。

 とまあ、こんな感じで上記の各項目を埋めていくと自動で逆噴射小説大賞向けの文が出力されるシステムな訳です。まあ別に新奇性はなく当たり前のことしか書いてないですが……。
 ちなみに後一作このシステムを使って書き上げていた作品があったのですが、今回の逆噴射小説大賞では天使ネタの次に「会話劇モノ」が多かったので被りを恐れてお蔵入りとなりました。
 
 去年は予選で三作全部通ったのに最終選考で全て落ちるというかなりきつい目に遭った訳ですが、懲りもせず今年も参加してしまいました。今年こそは最終選考残るといいな……。
 以上です。またどこかでお会いしましょう。

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