見出し画像

ソウルフィルド・シャングリラ あとがき

 というわけで、『ソウルフィルド・シャングリラ』なのである。
 
 唐突にこの連載を始めた理由は色々あるのだが、とりあえず一番大きな理由は「この小説はとても面白いから貴様ら読め」であった。
 面白いからここまで読んでくれ方、本当にありがとうございます。例え0スキでもやりぬくと決めていましたが、毎日の感想ツイートやスキには大変勇気づけられました。
 中には面白くないけどここまで読んだという奇特な人もおられるかもしれない。貴殿の上にも祝福あれかし。あとがきから読む派の人にも感謝しておく。でもできれば最初から読んでね。

 本作品は、第22回電撃小説大賞に投稿し、一次選考に落選した物を改稿・加筆したものである。2015年に書き上げたが、書き始めたのは更に前だ。居石信吾の処女長編でもある。
 一次落ちした時は小説を書くのをやめるほど落ち込んだが、連載するにあたって読み返すと落ちるのは残念ながら当然といった出来であった。だが逆噴射小説大賞の二次選考まで残った「死が二人を分かつまで」という作品は、この小説の設定を流用して書いたものだ。実はやっぱり面白いんじゃないかこれと思った俺は改稿と加筆訂正を施した連載を開始した。
 そして成功した。
 客観的な数字によるものではなく主観的な判断である。この連載は大成功であった。何故なら生まれて始めて文章を書いて対価を得たからだ。ドネートしていただいた方々の琴線に触れるものをお届け出来て、本当によかった。
 
 ここからようやく作品について語る。もしあとがきから読んでいてネタバレを許さないタイプの人ならここで引き返して目次の上から順に読んできてください。

 ソウルフィルド・シャングリラは、00年代のSFライトノベルの匂いを色濃く反映させた小説である。薄暗くて人が死んでグロくて設定が壮大で少年と少女が出会うお話である。セカイ系も混じっている。
 Twitterでも述べたが、イメージソースは古橋英之「ブラッドジャケット」や三枝零一「ウィザーズブレイン」藤原祐「ルナティックムーン」等に加え、渡瀬草一郎「パラサイト・ムーン」三雲岳斗「レベリオン」浅井ラボ「されど罪人は竜と踊る」吉田直「トリニティブラッド」榊一郎「ストレイト・ジャケット」などダークSFファンタジーなどにも大分影響を受けた。

 主人公の引瀬護留は、自分というものがない少年だ。それは作中でも記憶の喪失という形で自覚しているし、メタ的にも状況に流されるままに動いている。そして不死身系主人公だ。自分が傷を負うのを構わずに相手にとにかく向かっていく。
 オーソドックスな筋書きなら、こういった手合の主人公はヒロインと出会って空虚が埋まり、守るために戦うようになるものだ。だが護留は守れない。最後まで、ただ奪われる。そのためだけの役割を振られたキャラだからだ。
 別に奇を衒ったとか変に捻ったわけではなく、「搾取され打ち棄てられる存在が幸福を感じたらおかしいのか? 明日屠殺される家畜は不幸なのか? 劇を終えて仕舞われる人形はかなしい存在なのか?」という作者の疑問を体現して、その答えの一端を垣間見せてくれるのを期待して書いた。いや奇を衒ってるし捻くれてるなこれ。答えを示せたかどうかは読者の皆様に委ねる。
 そんな因業を作者に背負わされたキャラだが、ライトノベルの主人公でもあるのでヒロインとはイチャつく。かなり口が悪いので会話は書いていて楽しかった。あと作者はバトル描写が非常に苦手なのだが、こいつは不死身なので敵の攻撃を躱す必要がないからそのぶん負担が少なかった。優秀な主人公だったといえよう。

 ヒロインの天宮悠理がポンコツキャラなのは最初のプロットの段階から決まっていた。白髪紅眼なのも決まっていた。貧乳なのも決まっていた。何故ならそういうのが好きだからである。
 ソウルフィルド・シャングリラは着想の基になった、かなり昔に書いた掌編があり「魂が通貨となった世界で大金持ちの不老長寿のお嬢様とスラム街の孤児の男の子が出会う」という内容であった。悠理がお姫様なのはその設定の微かな名残だ。
 護留が厨二系虚無キャラと見せかけてガチの空っぽなキャラなのでこっちは中身を詰め込んだ。主に萌えを。
 ボツになったバージョンの第四章では二人は地下ではなく廃棄区画に逃げ込み、最終的に天宮のビルに向かうという内容で、そっちルートだともっと技術者として優秀な面が掘り下げられたかもしれない。でも地上で逃亡しながらだと二人がイチャつく時間が必然的に減るので、悠理はただポンコツを晒すだけの生き物となった。でもその分かわいく書けたんじゃないかな……。
 本作品はボーイミーツガールであるからして、二人のやり取りが肝である。幸い日常シーンは割と評判が良かったようで安心した。本当はシャワーを覗かれてキャー護留さんのエッチ! とか書きたかった。

 本作は投稿作だったので当然賞の規定を守って書かれている。そのためページの都合上だいぶ端折られたり浮いたりした設定やキャラがある。今回の連載にあたり加筆したがあまり大筋を変えることはしたくなかったので敢えて放置した物もある。
 ここではそんな「あれってなんだったの」といった部分を折角なので言い繕っていく。

・紹介屋の己條は、実は屑代の幾つかある裏の顔の一つである。
 重要なようでいて割とどうでも良いし、そこまでなんでもかんでも結びつけるのもなあと思ったので削られてしまった。
・天宮花束の旧姓は『御影』。
 葛城・引瀬・御影というのは作者が過去に書いていた小説のキャラの苗字の流用である。花束女史はもう少し掘り下げても良かったかもしれない。かわいそう。
・西暦2199年の割に澄崎市の科学進みすぎ問題。
 最初、作中年代は西暦2899年だった。あまりにも遠未来すぎたので今の設定になったのだが、ガジェットは当初のままなのでこうなった。
・時臥峰なんなの。
 当初彼は天宮理生に完全に騙されているだけの空宮のエージェントであり、活躍も大体10行くらいのぽっと出てぽっと死ぬキャラだった。加筆で一番大きく変更されたキャラであり、一番の被害者である。

 というわけで、ソウルフィルド・シャングリラなのだった。

 この作品を世に出さなければ俺は前に進めないと(勝手に)思っていたので、こうして無事連載を終えることが出来て安心している。
 繰り返しになりますが、本作をお読みくださった全ての皆様に無限大の感謝を。
 そして縁と機会と幸運があれば次の作品でお会いしましょう。

 ――最後に、一言だけ。
 ありがとう。そして――

 この作品が、どうかあなたの心の本棚に仕舞われますように。

・――AD.2019/05/27 居石信吾――・

PS5積み立て資金になります