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子どもはどうなるの?マルトリートメントと親の別離の同時発生

 この記事は下記のオープンアクセスの文献を翻訳したものです。文献の原題名、原著者名は以下の取りです。
掲載書:Child Maltreatment 2022, Vol.0(0) 1-13
原題名:What About the Children? Co-occurrence of Child Maltreatment and Parental Separation
原著者:Sheila R. van Berkel , Mariëlle J. L. Prevoo, Mariëlle Linting, Fieke Pannebakker, Lenneke R. A. Alink
 離婚はマルトリートメントのリスクを増加させるため、離婚前の親教育を必修化して子どもへの悪影響をミニマイズすること、加えて離婚家庭の親子に対するカウンセリングの利用支援が必要です。

子どもはどうなるの?マルトリートメントと親の別離の同時発生

シーラ・R・ヴァン・ベルケル¹,マリエル・J・L・プレヴォー¹’²,リエル・リンティング¹,フィーケ・パンネバッカー³,レネケ・R・A・アリンク¹

概要

 この研究の目的は、⒜マルトリートメントが親の別離と同時にどの程度発生するか、および⒝様々な種類のマルトリートメントと様々な種類の別離に関連した親同士の葛藤との関連を調査することであった。 子どもに関わる専門家(N = 785)は、3か月間観察したマルトリートメントの疑いのある各事例を報告し、親の離婚または別離が間近に迫っているか、あるいは既に離婚や別離をしているかを明らかにした。その結果、親同士の関係の状況に関する情報が入手可能な、マルトリートメントの定義に一致する報告事例が530件報告された。マルトリートメントを受けた子どもの殆ど(60%)は、両親の離別(間近)も経験していた。このような事例の69%では、マルトリートメントが親の別離と関連していた。特に、感情的ネグレクトや精神的虐待の事例は、親の別離と同時に発生していた。加えて、別離に関連した両親間葛藤を4つのクラスター(観察されなかった葛藤、非身体的葛藤、言葉による葛藤や身体的葛藤、および複数の葛藤)に区別した。これらは子どもと家庭の特徴および特定の種類のマルトリートメントに関連していた。この研究の結果は、マルトリートメントは両親の別離と同時に、特に、両親間の葛藤がかなり激しい場合に多く発生することを示唆している。

キーワード

両親の別離、高葛藤離婚、マルトリートメント、親の間の暴力

 マルトリートメントは、複数の発達領域において有害な結果を生むかなりのリスクをもたらす(Cicchetti & Toth, 2005)。マルトリートメントに関連する多くの家庭、親子の特徴の中でも、ひとり親家庭であること、継親との同居、親同士の間暴力など、親の別離や離婚に関連する側面が重要な役割を果たしているようである(Assink et al.,2019;Mulder, et al ., 2018;Stith et al., 2009;Van Berk e et al., 2020)。マルトリートメントと両親の別離との関係が文献で殆ど注目されていないことは驚くべきことである。なぜなら、ひとり親家庭であることと継親との同居は、どちらも親同士の暴力は勿論のこと、親の別離と明らかに関連しているからである(Holtzworth-Munroe, 2011;Van Dijk et al. , 2020)。この関連は、両親の別離が子どもの発達にも悪影響を及ぼすという証拠を考慮すると、特に関連性が高い(Auersperg et al, 2019)。今回の研究は、親の別離(離婚を含む)がマルトリートメント一般とどの程度同時に発生するのか、また、その具体的な種類について、そして、マルトリートメントに関連した別離における潜在的な危険因子について洞察を提供することを目的としている。両親の別離とマルトリートメントとの関連性に関する知識は、離婚または別居した家庭に対する予防的介入をあつらえるのに有益となり得る。親の別離(両親が結婚しているかどうかに関係なく、子どもの親同士の関係が終了することと定義される)は、多くの子どもにとってそれ自体がトラウマ的な経験であり、学業成績、メンタルヘルス、非行、自尊心、対人関係などにおいて長期にわたる多くのマイナスの結果をもたらすとされている(Lansford, 2009;Sands et al., 2017;Van Dijk et al.,2020)。子どものいるカップルの別離率に関する、公式情報源から得た詳細な国際データは不足している。しかし、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ17カ国の国家調査データに基づく家族力学に関する国際比較研究は、これらの国では子どものいるカップルの10~44%が、子どもの1人が15歳に達する前に別離していることを示している(Andersson et al.. 2017)。子どもの発達に対するマイナスの結果に加えて、例え別離家庭の大多数でマルトリートメントが発生していないとしても、親の別離はマルトリートメントのリスクを高める可能性がある(Afifi et al., 2009; Baker & Ben-Ami, 2011; Dong et al., 2004)。両親の別離とマルトリートメントとの関連性については幾つかの解釈が存在するが、これについては後で更に詳しく説明する。両親の別離に関連する要因は、子育ての問題やマルトリートメントのリスクを高める可能性があり、高葛藤の両親の別離はそれ自体がマルトリートメントである可能性があり、同一の根底にある危険因子が、両親の別離とマルトリートメントの両方を説明できる可能性があり、マルトリートメントは両親の別離の危険因子である可能性がある。
 両親の別離は、家庭生活に幾つかの混乱が生じる激動の移行期と考えることができる(Van Dijk et al., 2020)。生活状況や親(の一方または両方)との接触量の変化に加えて、これらには、親同士の葛藤の増加、親子関係と子育ての質の崩壊、経済的資源の減少などが含まれることが多い(Amato, 2010; Lansford, 2009)。これらの混乱の程度は、両親の別離後の子どもの状態の変化に関係している。これらの混乱は、子どもの発達に直接的な脅威をもたらすことに加えて、マルトリートメントのリスク増加にも関連している(Assink et al., 2019; Mulder, et al., 2018; Stith et al., 2009; Van Berkel et al., 2020)。別離には経済的資源や社会的支援の減少が伴うことが多く、同居親(多くの場合は母親)にとってはひとり親であることが困難である一方、別居親(多くの場合は父親)にとっては子どもとの日常的な接触の欠如が結果として、喪失感、無力感、力不足、無能感が生じる可能性がある(Amato, 2000; Coley, 2006; Kruk, 2010)。幾つかの研究では、親は別離後にうつ病の症状をより多く報告し、より多くの社会的孤立や健康上の問題を経験することが判明した(例えば、Bierman et al., 2006; Wood et al., 2007)。これらのストレス要因は親のエネルギーを消費し、最適な子育てを低下させる可能性がある(Altenhofen et al., 2010; Elam et al., 2019)。これは、別離に関連した環境から生じるストレス、イラつき、怒り、欲求不満が、マルトリートメントの危険因子となる、より敵対的で過酷な子育て戦略につながる可能性があると予測する家族ストレスモデル(Masarik & Conger, 2017)と一致している。このモデルに基づくと、両親の別離の一部における高葛藤の性質は子育ての質に影響を与え、マルトリートメントのリスクを高める可能性もある(Polak & Saini, 2019; Van Dijk et al., 2020)。この考えは、親同士の葛藤と子どもの悪い状態(精神障害、否定的な自尊心、内在化問題と外在化問題など)との関連性は、少なくとも部分的には子育ての質によって媒介されることを示す幾つかの研究(Harold & Sellers、2018; Van Dijk et al., 2020)や、親同士の暴力とマルトリートメントがしばしば併発することを示す研究(Assink et al., 2019; Guedes et al., 2016; Schellingerhout & Ramakers, 2017; Van Berkel et al., 2020)によって確認されている。
 両親の別離による移行期の課題や混乱に関連した親同士の葛藤の増加は、多くの場合、実際の別離が起こる前に始まり、それが継続するのは平均して別離後2~3年である(Kelly, 2007; King & Heard, 1999)。しかし、親の別離の約10~15%では、このような葛藤は時間が経過しても続き、更に長期間続く可能性がある(Amato, 2001)。元配偶者間の継続的かつ明らかに解決不可能な葛藤を特徴とする両親の別離は、高葛藤または手間のかかる別離として定義されている(Amato, 2001; Grych, 2005; Smyth & Moloney, 2009; Stewart, 2001)。国際的な文献では、高葛藤の別離は、子どもの感情的ネグレクトなどのマルトリートメントと直接的に関連していることは勿論、子育ての問題や監督の欠如などのマルトリートメントの危険因子と関連していることが認められている(Joyce, 2016; Sturge-Apple et al., 2006; Van Dijk et al., 2020)。青少年のケアと青少年保護に関するオランダのガイドライン(2020)は更に踏み込んで、手間のかかる別離に巻き込まれた親は「永続的で深刻な葛藤により、子どもの利益や福祉を見失ってしまう」と述べている。従って、手間のかかる別離のこの定義には、親が子どもの感情的ニーズを満たさず、適切な愛情を提供できないことも含まれており、これは感情的ネグレクトと見做される(Dullaert, 2014; Sedlak, et al., 2010; Stoltenborgh et al., 2013)。別居に関連した両親間の葛藤には、法的紛争、日々の子育ての実践、監護権や訪問の取決めをめぐる継続的な意見の相違、子どもの前でのもう一方の親に対する中傷や敵意などが含まれる場合がある(Johnston & Roseby, 1997; Smyth & Moloney, 2009)。現在、この幅広い種類の葛藤が全て高葛藤の別離によって定義されていることを考慮すると、様々な種類の高葛藤の別離を特定するには実証研究が必要であることが示唆されている(Birnbaum & Bala, 2010; Cashmore & Parkinson, 2011)。更に、様々な種類の別離に関連した葛藤に関与する家庭間の違いをより深く理解することで、別離に関連した葛藤の一因となり得る様々な危険因子(Polak & Saini, 2019)や、子どもの悪い状態とマルトリートメントとの併発(Grych, 2005; Polak & Saini, 2019)についてのより良い洞察が得られる可能性がある。従って、本研究は、別離に関連した葛藤クラスターを特定することを目的とし、これらのクラスターが様々な形のマルトリートメントとどのように関連しているかを調査した。
 更に、別離に関連した親同士の葛藤が非常に激しい場合は、往々にして親の間の言葉による暴力や身体的な暴力が含まれる(Johnston & Roseby, 1997)。監護権紛争中の子どもを対象とした研究では、このような子どもたちの41%が親の間の暴力を目撃したことが示された (Hirst, 2002)。その上、過去に生じていた親の間の暴力は、高葛藤の別離における増大したリスクと関連している(Polak & Saini、2019)。このような親の間の葛藤かつ/または暴力を目撃することは、感情的ネグレクトの一形態であると考えられるため、それ自体がマルトリートメントである(Dullaert, 2014; Sedlak, et al., 2010; Stoltenborgh et al., 2013)。
 また、同じ危険因子が両親の別離とマルトリートメントの両方の根底に流れている可能性もある。親の精神障害と薬物乱用、親の間の暴力、子どもの問題行動、親の教育の低さなど、幾つかの要因が両方のリスクを高めることが示されている(Amato, 2012; Mulder, et al., 2018; Stith et al., 2009 ; Wade & Pevalin, 2004; Wymbs et al., 2008)。更に、マルトリートメントは両親の別離の危険因子となる可能性がある。マルトリートメントの申立ては、子どもの監護権訴訟において法廷で親が定期的に行っており、これらの申立ての少なくとも半分が正当であるという証拠が幾つか存在する(Johnston et al., 2005; Trocmé & Bala, 2005)。
 マルトリートメントに関連する可能性のある家庭要因を調査した研究は幾つかあるが、マルトリートメントを受けている家庭における両親の別離に関する研究は殆ど存在せず、マルトリートメントが起きている家庭で両親の別離がどの程度の頻度で起こっているか、あるいはこれから起こるかはまだ分かっていない。マルトリートメントしている家庭が両親の別離をどの程度経験しているかについて洞察を提供し、両親の別離とマルトリートメントの同時発生についてより深く理解するため、本研究では、⑴マルトリートメントの定義に合致する危険な家庭状況について情報提供者が報告した子どものサンプルにおける両親の別離の発生率を調査する。更に、⑵報告されたマルトリートメントが両親の別離と関連しているかどうかを調査し、⑶別離に関連したマルトリートメントの割合を様々な種類のマルトリートメントについて比較した。私たちは、特に感情的なネグレクトと感情的なマルトリートメントが両親の別離に関連していると予想した。加えて、⑷マルトリートメントに対する特定の既知の児童および家庭レベルの危険因子-親の教育レベルの低さ、親の精神障害および薬物使用、親の失業、移民の背景、ステップファミリー、ひとり親家庭、子だくさんの家庭、および幼児の年齢(つまり、4歳未満; Assink et al., 2019; Mulder et al., 2018; Sedlak et al., 2010; Stith et al., 2009; Van Berkel et al. ., 2020)等—を、特に別離に伴うマルトリートメントの可能性のある危険因子として調査した。これらの危険因子が別離に伴うマルトリートメントのリスクも高めることが判明するものと私たちは予想した。最後に、⑸別離に伴う両親間の葛藤の種類の変化(例えば、身体的葛藤、忠誠葛藤、法的葛藤)と、様々な種類のマルトリートメントの発生との関連性を、上述した考えられ得る危険因子の発生と同様に調査した。

方法

参加者

 団体およびこれらの団体に加入している専門家-監視員-を、保育所および幼稚園、小中学校、育児相談所、一般医、病院の児童保護専門家、虐待された女性のためのシェルターおよび児童保護委員会など、幾つかの職種の中からランダムに選択した。(募集の詳細については、Van Berkel et al.,2020 を参照)。地理的に代表的なサンプルを確保するために、オランダの州を5つの区域に分け、各区域に住む子どもの数がほぼ同じになるようにした。各職業グループに含まれる監視員の数は、その区域の子どもの数に比例して決定した。選択バイアスを防ぐために、特定の区域内の新しい団体と専門家をランダムに選択することにより無回答を処理した。合計で、289の団体から785人の専門家が研究に参加した(表1)。

表1.参加組織と専門家の総数、観察した子どものサンプル数、および職種毎のオランダの総人口

手順

 監視員は、NIS調査(児童虐待およびネグレクトに関する全国発生率調査; Sedlak et al., 2010)および以前のオランダの青少年マルトリートメント蔓延研究(NPM)の調査(NPM-2005: E.M. Euser et al., 2010 および NPM-2010: S. Euser et al., 2013)で使用されたフォームに基づいて、2017年9月中旬から12月中旬までの3か月間、マルトリートメントが疑われた専門家集団のそれぞれの子どもについて標準化されたオンライン登録フォームに記入した。登録フォームには、子ども、家庭状況、子どもの養育者、マルトリートメントの疑い、加害者の疑い、ドメスティックバイオレンスと親の離別または離婚の状況に関する質問を含めた。監視員が報告した家庭の詳細を全て知っているわけではないと考えられるため、登録フォームの全ての質問には「不明」という回答オプションを付けた。児童保護委員会のごく最近の組織再編により、これらの団体から参加した専門家は、登録フォームに記入するのは負担が大きすぎると考えていた。従って、研究助手が児童保護委員会(CPB)の選ばれた監視員のクライアントファイルの情報に基づいて登録フォームに記入するという手順をこの職種に適用した。この方法が選択されたのは、CPBの専門家が、登録フォームに記入する際にファイル内の情報を自分で使用する可能性があり、これらのクライアントファイルには、子どもの家庭状況や子どもの安全を危険にさらす可能性のある状況の記述が含まれていると指摘したためである。私たちは、CPBのフォーム(研究助手が記入)と他の職種のフォーム(監視員が記入)の間で考えられる違いを調査するために、欠落データの量を比較した。CPBのファイルに基づいて記入されたフォームには、親の就業、教育レベル、在留資格、親の離別に関するより多くの背景情報が含まれていた(p値< 0.004)。これは恐らく、CPBが他の職種に比べて家庭に関する情報をより多く登録しているという事実によって説明可能で、必ずしもデータ収集方法の違いによるものではない。
 監視員は、735人の子どもに関するマルトリートメントを報告した (Van Berkel et al., 2020)。32件は、被害者が胎内にいたか18歳以上であったこと、マルトリートメントが指定期間中に起きなかったこと、あるいは子どもが監視員の集団に属していなかったこと(例えば、育児相談所の子どもの年上の兄弟姉妹)を理由に削除された。更に、事件の説明が虐待とは見做されなかったため、40件が削除された(以下のマルトリートメントのコーディングの説明を参照)。データの重複を検査した結果、2人の異なる監視員が報告した2件に重複が判明した。これらの子どもの2件の登録フォームは1つのフォームに統合した。その結果、472件の家庭に暮らす子どもに対するマルトリートメントの定義に一致する、報告された663件の最終サンプルが得られた。オランダでは、マルトリートメントの疑いを報告することは義務ではない。しかし、これらの事件の殆ど(75.6%)では、監視員はこの事件を「家に居ても安全(Safe at Home)組織」(ドメスティックバイオレンスおよびマルトリートメントに関する全国連絡窓口)にも報告したと述べた。「家に居ても安全」に紹介されなかった事件の68.3%では、家庭が既に専門的なケアを受けているか、「家に居ても安全」の支援なしに監視員が専門的なケアを手配していた。

マルトリートメントのコード化

 監視員が提供した潜在的なマルトリートメントと危険な家庭状況を反映する状況の詳細な記述は、⒜以前のNPM研究(E.M. Euser et al ., 2010; S. Euser et al., 2013)とNIS-4(Sedlak et al., 2010)で使用した定義に従って、その事件がマルトリートメントと見做せるかどうかを決定し、⒝記述を6つの虐待タイプ、即ち、⑴性的虐待、⑵身体的虐待、⑶精神的虐待、⑷身体的ネグレクト、⑸精神的/教育的ネグレクト、(5a)親の間の暴力の目撃(精神的ネグレクトにおける固有のサブタイプとして)、および⑺不特定の虐待またはネグレクトの中の1つ以上に分類するために、3人の訓練を受けたコーダーが個別にコード化した。この最後のカテゴリーは、明らかにマルトリートメントがあったものの、他のサブタイプを特定する情報が不十分な場合にコード化した。NPM-2010のコード化との一貫性を保証するために、NPM-210のコード化に関与したコーダーとNPM-2017の専門コーダーの間のコーダー間の信頼性を最初に評価した。信頼性評価(κ係数)は、様々なタイプのマルトリートメントに対して0.75から0.93の範囲だった。次に、93件のフォームの信頼性のセット(NPM-2010およびNPM-2017から)を3人のコーダー全員がコード化し、コーダー間の信頼性の範囲は0.65~0.95だった。疑問がある場合は、合意が達するまで他のコーダーその事件を議論した。

両親の別離のコード化

 親が離婚した、または結婚しないまま別離した、あるいは離婚/別離しつつあると監視員が報告したマルトリートメント事件(n=314)は、訓練を受けたコーダーがコード化した。監視員から提供されたマルトリートメントと家庭の状況の詳細な記述に基づいて、コーダーは、⒜親同士の関係の状況が報告されたマルトリートメントに(程近くまたは程遠く)関連しているかどうか、および⒝監視員が報告した両親間葛藤はどんなタイプかを決定した。報告されたマルトリートメントが別離に関連している場合、例えば、感情的ネグレクトが、別離後または別離の過程で親が課した忠誠葛藤に起因する場合(例えば、親同士の告訴に子どもを巻き込むなど)、親の別離はマルトリートメントと密接に関連していると見做した。親の別離に起因する状況の変化がマルトリートメントと関連している場合、例えば、感情的ネグレクトが別離後に家庭を遣り繰りするひとり親の問題に起因する場合、親の別離は僅かに関連しているとコード化した。更に、記述された葛藤を8つのカテゴリーに分類した:⑴身体的葛藤(両親間のあらゆる形態の身体的暴力、例えば、もう一方の親に向かって物をぶつける、投げるなど)、⑵言葉による葛藤(例:脅迫、怒鳴る)、⑶法的葛藤(例:監護権の取り決めやアリモニーに関する葛藤)、⑷忠誠葛藤(例:一方の親が子どもに対して他方の親を中傷したり、子どもがもう一方の親と接触することを妨げたりする記述)、⑸子育ての葛藤(例:規則や子どもへの期待に関する意見の相違)、⑹その他の葛藤(葛藤は存在したが、それを他のカテゴリー分類するための情報が不十分であった)、⑻不明(両親間葛藤に関する情報が提供されなかった場合にコード化した)。これらのカテゴリーは相互に排他的ではないため、葛藤は複数のカテゴリーにコード化することができた(例えば、両親間葛藤には言葉による暴力や身体的暴力が含まれ、子育て上の意見の相違を考慮し得る)。訓練を受けた2人のコーダーが、報告された、両親が別離しつつある、または別離が起こった事件を個別にコード化した。30件のフォームの信頼性セットを2人のコーダーがコード化し、コーダー間の信頼性の範囲は0.71~1.00だった。疑問がある場合には、合意に達するまで、その事件を議論した。
 葛藤のある親の離別の種類。親の別離を様々な葛藤プロファイルに分類できるかどうかを判断するために、SPSSを使用して、コード化された葛藤カテゴリーの5つ(即ち、身体的葛藤、言葉による葛藤、法的葛藤、忠誠葛藤、子育ての葛藤)に対して2段階のクラスター分析を実施した。距離測定として、対数尤度基準を使用し、赤池情報量基準(AIC)とシルエット係数をクラスターソリューションの比較に用いた。なお、シルエット係数が0.50を超えると、良好なソリューション品質と見做なされる(Sarstedt & Mooi、2014)。「その他の葛藤」および「葛藤なし」のカテゴリーは、2、3回しかコード化されなかったため、クラスター分析には含めなかった。4つの異なる両親間葛藤クラスターが特定された:⑴どの葛藤紛争カテゴリーも報告されなかった家庭が属する「葛藤が観察されなかったグループ」(n=99, 31%)、⑵身体的葛藤を除く全ての葛藤カテゴリーが報告された家庭が属する「非身体的葛藤グループ」(n=81, 26%)、⑶言葉による葛藤と身体的葛藤のみが報告された家庭が属する「言葉による葛藤と身体的葛藤グループ」(n=78, 25%)、⑷5つの葛藤カテゴリー全てが報告された家庭が属する「複数の葛藤グループ」(n=56, 18%)。 クラスターの品質は良好で、シルエット係数は0.70だった。

データ分析

 マルトリートメント事件における親の別離の頻度は、マルトリートメントの種類ごと、および両親間葛藤の様々なクラスターごとに計算した。両親間葛藤クラスター間の特定の種類のマルトリートメントの発生の違いを、χ²検定とボンフェローニ補正事後の一対比較で調べた。親の別離に関連したマルトリートメントの潜在的な危険因子として子どもと家庭の特徴を分析するために、別離に関連したマルトリートメントの事件と別離に関連しないマルトリートメントの事件の間の家庭と子どもの特徴の発現の違いをχ²検定とボンフェローニ補正事後の一対比較で検査した。
 研究に参加した専門家は家庭に関する具体的な情報を知らなかったため、幾つかの危険因子変数にはかなりの量の欠損データが含まれていた。特に親の人口統計情報には多数の欠損値があった:親の教育の81%、親の精神障害(薬物使用を含む)の62%、親の失業率の58%、在留資格の49%に欠損値があった。他の危険因子は欠損値が少なかった:家族構成(即ち、ひとり親家庭かステップファミリーか)には6%、世帯内の子どもの数には10%、そして子どもの年齢には7%の欠損地が含まれていた。親の別離、在留資格、親の学歴、失業、家庭内の子どもの数に関する欠損値は、研究に参加した専門家の職種と関連していた(p値 < 0.001)。このことは、どのような種類の家庭情報を定期的に尋ねて登録するかが職種で異なるためだと説明し得る。例えば、親の失業や親の学歴に関する情報は、育児相談所の専門家や中等学校の教師がそれぞれ記入したフォームよりも、CPBの事件報告書に基づいて記入されたフォームに欠損していることが多く、一方、在留資格に関する情報は、CPBの事件報告書に基づいて記入されたフォームや小学校の教師、虐待を受けた女性のためのシェルターの専門家によって記入されたフォームと比較して、病院の児童保護専門家のフォームに欠けていることが多かった。欠損データのペアワイズ削除(利用可能なケース分析)を適用し、欠損値が50%を超える危険因子は分析から除外した。その結果、次の危険因子が含まれるようになった:⑴在留資格(第1世代-オランダ国外で生まれた-または第2世代-少なくとも1人の第1世代移民の親を持つ;NPM-2017;Van Berkel et al., 2020)、⑵大家族(4人以上の子どもがいる家族として定義)、⑶ひとり親、⑷ステップファミリー、⑸子どもの年齢(3歳以下)。同様に、別離に関連したマルトリートメントにおける特定の両親間葛藤クラスターに関し、潜在的な危険因子を調査した。

結果

 マルトリートメントの定義に一致する報告された663件のうち、親同士の関係の状況に関する情報は、375件の家庭で暮らす530人の子どもについて入手できた。監視員によると、家庭レベルでは、これらの家庭の59%(n=220)で、両親間の別離が発生した(n=190;法的離婚n=122、結婚していない両親間の別離n=68)、またはこれから発生しようとしていた(n=30)。子どもレベルでは、マルトリートメントを受けた子どもの60%(n=320)(親同士の関係の状況に関する入手可能な情報あり)が、両親の別離を経験したか、またはこれから経験しようとしていた(図1)。両親が別離した190件の家庭のうち、別離の64%が過去3年以内に発生していた。

図1.監視員が報告した、親同士の関係状況別マルトリートメントの子どもの数

 両親の別離がマルトリートメントの潜在的な危険因子であるかどうかを検査するには、一般集団における両親の別離の分布を決定する必要があった。両親が結婚していない場合の両親の別離に関する公式の数字が存在しないため、一般的な別離のリスク比を計算することはできなかった。そこで、法的離婚のリスク比は、離婚した家庭内でマルトリートメントを受けている家庭の割合と、離婚していない家庭内でマルトリートメントを受けている家庭の割合との比率として計算した。離婚した家庭のうちマルトリートメントを受けている家庭の割合は次のように計算された:私たちのサンプルに含まれる家庭の17%は、2010年から2017年の間に法的離婚を経験した。監視員の報告に基づくマルトリートメントを受けている家庭の推定総数は 57,224件(NPM-2017;Van Berkel et al., 2020)で、2010年から2017年の間に離婚を経験した一般人口の 150,895件の家庭に対し、離婚したマルトリートメントを受けた家庭は 9728件となった(割合:0.064;オランダ統計局,2020)。離婚していない家庭内でマルトリートメントを受けている家庭の割合は、残りのマルトリートメントを受けている47,496件の家庭を、この期間中に離婚しなかった一般人口の1,612,059件の家族で割ったものとなる(割合:0.029;オランダ統計局,2020)。結果として得られたリスク比(相対リスク比RR=2.19;95%信頼区間CI:1.37~3.49))は、離婚した家庭ではかなりマルトリートメントのリスクがあることを示している。
 両親の別離に関連して発生した報告されたマルトリートメントの大部分は、両親の別離または両親が離婚しつつある状況に関連していた(n=220,69%、図1を参照)。この大部分(82%)は、親同士の別離(間近)と専ら密接に関連しており、6%がほんの僅かに関連し、12%は密接と僅かの両方で別離(間近)と関連していた。マルトリートメントの種類ごとに、両親の別離(間近)に関連したマルトリートメント事件の割合を図2に示す。監視員が、子どもが親の間の暴力を目撃したと報告した事件の半数以上で、この形態のマルトリートメントは両親の別離と関連していた(62%)。加えて、精神的ネグレクト(親の間の暴力の目撃を除く)の53%は、両親の別離に関連しており、次いで、報告を受けた精神的虐待の39%、身体的ネグレクトの27%、身体的虐待の23%、性的虐待の16%が続いた(図2)。

図2.全てのマルトリートメント事件とマルトリートメントの種類ごとの両親の離別事件の割合

別離に伴うマルトリートメントに関連する子どもと家庭の要因

 両親の別離に伴うマルトリートメントの潜在的な危険因子を調査するために、両親の別離に伴うマルトリートメントを受けた子どもと家庭の要因の頻度を、χ²検定を使用して、報告されたマルトリートメントが両親の別離に関連していない家庭の頻度と比較した(表2)。在留資格だけが別離に伴うマルトリートメントと関連しており、χ²(2) = 6.89、p値=0.03、クラメールのV=0.21であり、移民の背景を持たない家庭が別離に伴うマルトリートメントの事件で大きな比率を占めていることを示している。欠落データの大部分を考慮すると、在留資格に関する結果は慎重に解釈する必要があることに注意が重要である。

表2.両親の別離と同時発生するマルトリートメント事件の子どもと家庭の要因の頻度

両親間葛藤クラスター

 2段階のクラスター分析(「方法」を参照)の結果に基づいて、別離した親を持つ全ての子どもを、表3に示す4つの両親間葛藤クラスターに分類した。これら4つのクラスターにおける、マルトリートメントが両親の別離と関連している事件の分類は次のとおりである:⑴葛藤が観察されなかったグループ(n=14、親の別離に伴うマルトリートメント事件の8%)、⑵非身体的葛藤グループ(n=78、親の別離に伴うマルトリートメント事件の33%)、⑶言葉による葛藤と身体的葛藤グループ(n=72、親の別離に伴うマルトリートメント事件の36%)、⑷複数の葛藤グループ(n=56、親の別離に伴うマルトリートメント事件の23%)。

表3.両親間葛藤クラスターの記述

 子どもレベルでは、マルトリートメントが両親の別離と関連していた事件について、両親間葛藤クラスターとマルトリートメントの種類との関連性を計算した(図3)。χ²検定は、感情的ネグレクト(χ²(3) = 20.83、p < .001、V = .26)と親の間の暴力の目撃、χ²(3) = 96.52、p < .001、V = .55 が、特定の両親間葛藤クラスターと関連していることを示していた。ボンフェローニ補正事後検定は、両親の別離に伴う感情的ネグレクトは、非身体的葛藤と複数の葛藤のクラスターで最も頻繁に発生し、次に言葉による葛藤と身体的葛藤のクラスターが続き、観察されなかった葛藤のクラスターの発生頻度が最も低いことを示していた。予想できるように、親の間の暴力の目撃は、言葉による葛藤と身体的葛藤突および複数の葛藤のクラスターで最も多く見られた。性的虐待、χ²(3) = 0.76、p = 0.85、身体的虐待、χ²(3) = 5.27、p = 0.15、精神的虐待、χ²(3) = 0.16、p = 0.15、身体的ネグレクト、χ²(3) = 0.27、p = 0.97は、特定のクラスターに関連付けられなかった。

図3.全てのマルトリートメント事件およびマルトリートメントの種類ごとの葛藤事件の割合(マルトリートメントが別離に関連していた事件のみ)

 子どもと家庭の要因。最後に、マルトリートメントが両親の別離と関連していた事件について、両親間葛藤クラスターと子どもと家庭の要因との関連性を計算した。χ²検定は、子どもの年齢、χ²(6) = 21.68、p = .001、V = .23、および在留資格、χ²(6) = 24.62、p < .001、V = .31が、特定の葛藤クラスター関連していることを示した。子どもの年齢に関しては、ボンフェローニ補正事後検定では、非身体的クラスターおよび複数の葛藤のクラスターと比較して、0〜3歳の子どもが言葉による葛藤および身体的葛藤クラスターに多く含まれているのに対し、12〜17歳の子どもは、言葉による葛藤および身体的葛藤クラスターと比較して、非非身体的葛藤クラスターに多く含まれていた。加えて、ボンフェローニ補正事後検定は、他のクラスターと比較して、葛藤が観察されなかったグループと言葉による葛藤および身体的葛藤グループに移民第二世の子どもが多く含まれていることを示した。移民の背景を持たない子どもは、他のクラスターと比較して、非身体的葛藤クラスターと複数の葛藤のクラスターに多く含まれていた。2つの家庭要因は、特定の葛藤クラスターと関連していなかった:大家族、χ²(3) = 5.10、p = 0.17、および家族構成、χ²(9) = 16.29、p = 0.06。

考察

 この研究は、マルトリートメントを受けている子どもの大多数が両親の別離にも曝されていることを示している。両親の別離も発生しているマルトリートメント事件の殆どで、マルトリートメントは両親の別離と関連していた。特に、感情的ネグレクトと感情的虐待の事件は、両親の別離に関連するとコード化されていた。更に、感情的ネグレクトと親の間の暴力の目撃は、両親間葛藤が限定的な範囲で発生した家庭と比較して、別離に関連した両親感葛藤がある家庭でより頻繁に発生した。最後に、特定の子どもや家庭の特徴と、別離に伴うマルトリートメントや、別離に伴う両親間葛藤(例えば、身体的葛藤および言葉による葛藤、忠誠葛藤、法的葛藤、子育ての葛藤など)の種類の変化との関連性を示す証拠は乏しかった。
 この研究の結果は、マルトリートメントがある家庭では一般集団に比べて親の離婚が2倍発生していることを示唆している。この発見は、両親の別離が親のストレスの増加、親子関係の崩壊、子育ての質の低下に関連しており(Amato, 2010; Lansford, 2009; Van Dijk et al., 2020)、これら全てがマルトリートメントのリスクを高める要因であり得るという証拠と一致している。加えて、この結果は、両親の別離がマルトリートメントの確率増加と関連しているという以前の研究の結果を裏付けるものであり(Afifi, et al., 2009; Dong et al., 2004)、家族カウンセラーやメンタルヘルスの専門家は、両親の別離に直面している家庭における機能不全の子育てや両親間の葛藤の可能性に特別な注意を払うべきであるという、広く支持されている考えを強化するものである。また、マルトリートメントの報告を受けた家庭が、(共同)子育てに関する葛藤を軽減することを目的とした介入を受けることで、子育てが改善する可能性もある(例えば、Mitcham-Smith & Henry, 2007)。このようにして、かなりの両親間の葛藤を抱えるマルトリートメントする親は勿論のこと、両親の別離にも直面している家庭は、特別な介入を受けることで子育てを改善できる可能性がある。しかし現在、両親の別離に直面している家庭に対する科学的根拠に基づいた子育ての介入は不足している(Amato, 2010)。このようなプログラムの有効性については更なる研究が必要である。両親の別離とマルトリートメントとの関連性は、両親の別離とマルトリートメントの両方の出現のリスクを構成する隠れた変数、例えば親の精神病や親のマルトリートメントの経験によっても説明できる可能性があることに注意することが重要である。更に、私たちの結果は、両親の別離の大部分がマルトリートメントに関連するということを意味するものではないことに注意することが重要である。実際、殆どの別離家庭でマルトリートメントは発生していない。
 私たちの知る限り、この研究は、高葛藤の別離と通常の葛藤による別離を区別するのではなく、別離後の葛藤タイプに基づいて家庭をクラスター化した最初の研究の1つである(Birnbaum & Bala, 2010)。別離に関連した葛藤タイプに基づき、私たちは4つの葛藤クラスターを区別することができた。即ち、観察されなかった親同士の葛藤、非身体的葛藤、言葉による葛藤および身体的な葛藤、および複数の葛藤のクラスターである。両親の別離と葛藤が子育ての質に及ぼす悪影響に関する文献(総説は、Amato, 2010, Lansford, 2009参照)と同様に、私たちの研究結果は、両親間葛藤が両親の別離とマルトリートメントを関連付ける重要な要因である可能性を示している。これは、非身体的葛藤、言葉による葛藤および身体的葛藤、そして複数の葛藤クラスターの家庭の大多数において、報告されたマルトリートメントが、(近からず遠からず)両親の別離に関連していたという調査結果に反映されている(即ち、非身体的葛藤の家庭の96%、言葉による葛藤および身体葛藤の家庭の78%、複数の葛藤クラスターの家庭の100%;表3)。対照的に、観察されなかった葛藤クラスターの家庭の殆どでは、マルトリートメントは両親の別離と関連していなかった(即ち、これらの事件のうち、両親の別離と関連していた事件は僅か14%だった)。このことは、主に両親の別離が原因ではなく、それ以上に、マルトリートメントのリスクを引き起こす別離に伴う両親間葛藤であることを示唆している可能性がある。しかし、この結論を導くためには、今後の研究で、両親の別離後の家庭でマルトリートメントがなかった家庭と、マルトリートメントがあった家庭を比較する必要がある。別離に関連した両親間葛藤とマルトリートメントとの関連性は、高葛藤の離婚が子どもの発達に及ぼすリスクに関する文献を更に増やしている(Davies & Cummings, 2006; Fabricius & Luecken, 2007)。
 特に感情的ネグレクト、感情的虐待、および親の間の暴力の目撃が両親の別離と関連しているという発見は、両親間葛藤を感情的虐待および感情的ネグレクトと結びつける文献によって説明し得る(Glaser, 2011; Kelmendi et al., 2019; Van Berkel et al., 2020)。激しい両親間葛藤は、親の監督や感情的な対応力の低下、子どもに対する敵対的なコミュニケーションの増加に関連し、最も極端な形態では感情的虐待や感情的ネグレクトと見做され得る(Glaser, 2011; Sturge-Apple et al., 2006)。両親間葛藤と精神的虐待および精神的ネグレクトとのこの関連性は、この種のマルトリートメントが観察されなかった葛藤クラスターよりも3つの葛藤クラスターでより頻繁に発生したという私たち発見にも映し出されている。
 結果を解釈する際には、この研究の幾つかの制約を念頭に置くことが重要である。まず、データが監視員を通じて収集されたこと。監視員を使用することで、報告されていないマルトリートメント事件を含めることができたが、この方法でも、家庭に関する特定の情報の一部が参加した専門家に知られていなかったため、家庭の特徴に関するかなりの量のデータが欠落する結果になった。監視員のグループによっては、時折訪問するときにのみ子どもとその家族に会ったグループ(例えば、一般医、育児相談所、病院の児童保護専門家など)もあり、監視員が家庭に関する背景情報をどのように組織的に収集したか、知識を得ていたかにはバラツキがあった。このことで、かなり大量の欠損データが発生したが、これはある程度職種に関連していた。そのため、分析では一部の背景変数を使用できなかった。このリストごとの削除を行ったことで、欠落している背景情報が職種に関連付けられていたことを考えると、何らかのバイアスが導入された可能性がある。
 専門家が子どもやその親と接触した範囲が変化に富むことは、両親間葛藤に関する情報へのアクセスや、マルトリートメントが両親の別離と関連している程度も専門家によって異なり得ることを示している可能性がある。私たちは、家庭の状況とマルトリートメントが起こった状況の詳細な記述を専門家に依頼し、訓練を受けたコーダーを使用して、両親間葛藤があった場合に監視員の記述がマルトリートメントとみなされるかどうか、そしてマルトリートメントが両親の別離と関連していたかどうかを示すことで、この潜在的な偏見を軽減しようとした。しかし、両親間葛藤の隠れた性質を考えると、両親間葛藤が過少に報告されているか、専門家が両親の別離とマルトリートメントとの関係を気付いていなかった可能性は十分にある。
 一方で、専門家は、両親が別離している家庭の子育て問題に関して偏見を持っている可能性がある。その場合、私たちはマルトリートメントと別離との関連性の強さを過大評価していた可能性がある。私たちは次の2つの方法でこの偏見を軽減しようとした。⑴報告された事件は、他の大規模な国内発生率研究で使用されたのと同じ定義でコード化した(Sedlak et al., 2010; Euser et al., 2013)。⑵マルトリートメントと両親の別離との関係は、訓練を受けた研究者がコード化した。最後に、CPBと他の監視員の間のデータ収集手順の違いが制約となっている可能性がある。
 記載された制限に沿って、別離に伴うマルトリートメントや特定の両親間葛藤クラスターに関連する子どもと家庭の要因に関する調査結果は、欠落データが大量にあるため慎重に解釈する要がある。マルトリートメントを受けた子どものうち、移民の背景を持たない子どもは、移民の背景を持つ子どもと比べて、別離に伴うマルトリートメントを経験することが多く、マルトリートメントを経験していた子どもは非身体的葛藤紛争グループに多く含まれていた。別離に伴うマルトリートメントを経験した移民二世の子どもは、非身体的および複数の葛藤グループと比較して、観察されなかった葛藤および言葉による葛藤および身体的葛藤のグループに多く含まれていた。従って、彼らは、法的葛藤、忠誠葛藤、子育ての葛藤を含まない葛藤グループに多く含まれていた。なので、これらの調査結果は、移民第一世代の親は、移民の背景がない親と比較して、法的葛藤、忠誠葛藤、子育ての葛藤が少ないことを示唆している可能性がある。しかし、移民第一世代の親と移民の背景を持たない親の違いは、専門家が移民の背景を持つ親同士の葛藤の具体的な内容についての情報が少ないことによっても説明できる可能性があり、これは恐らく言語の問題や、家庭問題を部外者に伝えることを許容する範囲が文化によって違うことによると考えられる。
 言葉による葛藤および身体的葛藤グループにおいて、幼い子ども(0~3歳)を持つ親が多くを占め、12~17歳の子どもを持つ親が僅かであることは、乳児期以降の父親の関与の増加で説明し得る可能性がある(Yeung et al. , 2001)。その結果、共同養育や訪問の取決めをどのように纏めるかについて、親の間で更に大きな論争が起こる可能性があり、それが更に法的葛藤、子育ての葛藤、忠誠葛藤を引き起こす可能性がある。他の家庭要因がマルトリートメントと両親の別離または特定の両親間葛藤クラスターとの関連に関わっていなかったという結果は、両親の別離がマルトリートメントに及ぼすリスクがハイリスク家庭に特有のものではなく、寧ろ一般的なものであることを示している可能性がある。親の離婚の影響に関する文献は、別離の結果として家庭生活に起こる様々な変化の程度が、子育ての質の低下、家族のストレスの増大、心理的機能の低下を決定づけることを強調しているが、これらの影響が高リスク家庭と低リスク家庭で異なるかどうか、またどのように異なるかについてはあまり注目されていない(Amato, 2010)。ただし、特定の家庭の特徴が別離に関連しているという証拠が幾つかあるため(例えば、低所得および移民の背景、Alola, et al., 2020; Amato, 2010; Van Huis & Steenhof, 2003)、滞在資格に関する欠落データがかなりあるため、別離家庭におけるマルトリートメントに対する様々な家庭要因のリスクに関する結果は、より大きなサンプルや欠損データがないサンプルでは再現できない可能性があるため、慎重に検討する必要がある。
 結論として、両親の別離は、特に両親間葛藤がかなりある場合には、マルトリートメントと併発して起こることが多い。このことは、別離中の親に対しては勿論、マルトリートメントしている家庭に対する介入は、両親間葛藤を対象とし、別離後の子育てと子どもの安全な家庭環境の改善に焦点を当てるべきであることを強調している。更に、私たちの研究結果は、児童保護機関の対応に加わっている相当な数の親が、人間関係の問題や元パートナーとの問題を解決するために支援を必要としている可能性があることを示唆しているのかもしれない。親同士の関係の問題がマルトリートメントの重要な特徴である可能性があり、それ故、マルトリートメントを減らすことを目的とした介入においてかなりの注意が必要なことは明らかである。

謝辞

 今回および以前の2つのNPM研究への貢献について、Marinus van IJzendoorn に感謝します。彼は2005年に更なる発生率研究を構築できる基礎を築き、その後の両方の発生率研究の設計に携わってきました。また、研究に参加して頂いた全ての専門家の方々、そしてこのプロジェクトに貢献して下さった数多くのアシスタントの方々にも大変感謝いたします。最後に、建設的な貢献と支援を頂いた監督委員会のメンバー(Frits Boer (委員長), Annemarie ten Boom, Nicole Mertens, Helen Verleg, Klaas Kooijman, Inge van der Valk, Maartje Gofers and Gaston van Bokhoven)に感謝いたします。

利益相反の宣言

 著者らは、この記事の研究、執筆、出版に関して潜在的な利益相反がないと宣言しました。

資金調達

 著者らは、この記事の研究、執筆、および/または出版に対して以下の財政的支援を受けていることを明らかにしました:この研究は、オランダ司法安全保障省の研究文書センター(WODC)によって支援されました。

ORCID ID

シーラ R. ヴァン バーケル https://orcid.org/0000-0003-4555-4456
マリエル J. L. プレヴォー https://orcid.org/0000-0003-4909-8048
Lenneke R.A. Aリンク https://orcid.org/0000-0003-3459-0785

脚注

1 児童保護委員会(CPB)は安全保障司法省の執行機関である。CPBは、児童の発達が危険にさらされている状況を調査し、児童保護や青少年の非行事件において、どのような法的アドバイスや措置が児童の発達にとって有益であるかを検討する。児童にとって急性または重大な危険がある場合、および/または親が援助を拒否した場合、CPBは「家に居ても安全(Safe at Home)組織」から連絡を受ける。

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[訳者註]κ係数 Kappa
ある現象を2人の観察者が観察した場合の結果がどの程度一致しているかを表す統計量。カッパ統計量や一致率とも言う。0から1までの値をとり、値が大きいほど一致度が高いといえる。

[訳者註]アリモニー alimony
英米法において、離婚又は恒久的な別居に伴い、配偶者の一方(一般的には夫)が相手方に支払うことが、法的に強制される扶養のための金銭。
アメリカにおけるアリモニーは、歴史的には、日本の「慰謝料」と同様に、不当な扱いを受けた配偶者が夫婦間の契約に違反したとして、それを補償するための方法として使われていた。しかし、1970年代から1990年代にかけて、殆どの州では扶養手当に対する考え方が変わり、一方の配偶者の落ち度に応じて金銭的補償をするのではなく、経済的に弱い立場にある当事者のニーズを満たし、彼らが自立できるように支援することに重点を置くようになった。幾つかの州ではアリモニーを「メンテナンス」(維持手当)または「サポート」(扶養手当)と呼ぶようにまでなった。現在では、アリモニーは通常、一方の配偶者が他方の配偶者よりも著しく高い収入を得ているカップルの間でのみ問題になる。

[訳者註]SPSS SPSS
SPSSは、IBMの統計解析ソフトウェアの製品群。当初は独立した会社の社名および製品名であったが、2009年のIBMによる買収以降は、IBMの製品名となった。相関係数や回帰分析以外に、社会調査の統計解析の定番である、分散分析、共分散分析、判別分析、因子分析、信頼性係数、クラスター分析がBasic Unitに含まれている。SPSSは、Statistics Package for Social Scienceの頭文字である。

[訳者註]2段階クラスター分析 two-step cluster analysis
クラスター分析は似たような傾向のあるケース同士をグループ化してその説明をする。クラスター分析のうち、階層クラスター分析は「50ケース以下の小さなデータ向け」という欠点があり、K-Means法(大規模ファイルのクラスター分析)には「予めクラスター数を決めておかねばならないので何度か実行を繰り返す必要がある」という欠点があった。2段階クラスター分析では名前のとおり2段階でクラスターの作成を行ない、第1段階としてK-Means法のように距離をもとに小さなクラスターを作成し、第2段階として小さなクラスターを階層クラスター分析のように段階的に結合させてまとめ上げる。これによってK-Means法のように大きなデータを分析対象に出来る上でクラスター数を決めずにモデル化が出来る(クラスター数を自分で指定することも可能)。更にカテゴリー変数も分析対象に出来る。距離は対数尤度(スケールおよびカテゴリー)かユークリッド距離(スケールのみ)を使用する。

[訳者註]距離測定 distance measure
階層クラスター分析において、クラスターを作成するために使用する、全てのデータの「似ているか」「似ていないか」を示す統計値。測定方法には「ウォード法」「最短距離法」「最長距離法」「重心法」等があり、それぞれの方法で距離の算出式が異なる。例えば、ウォード法では、クラスターの結びつきが最小値になるように平方和(データと平均値との差の2乗の和)を算出する。

[著者註]尤度 likelihood
尤度(likelihood)とは,あるモデル(回帰式)がどれだけ事象(観察結果)を説明しているかの「尤もらしさ」のことであり,そのモデルによりその事象が起こる確率で表される。尤度は,確率モデルに対してパラメータ値とデータの値を代入して計算し、 尤度が大きいほど分布の当てはまりがよい。

[訳者註]対数尤度基準 log-likelihood criterion
尤度xは常に0より大きい値なので、自然対数をとって、log(尤度)とできる。このlog(尤度)のことを、対数尤度関数といい、求めるパラメータをθとしてl(θ)と表す。この対数尤度関数の値を使用してモデル選択の基準に使用する。

[訳者註]赤池情報量基準(AIC) Akaike’s Information Criterion (AIC)
統計的モデルの予測性の良さを、観測値と理論値の差(残差)を用いて評価する統計量。値が小さいほど当てはまりが良いと言える。単にAICとも呼ばれ、この呼び方のほうが一般的である。統計学の世界では非常に有名な指標であり、多くの統計ソフトに備わっている。元統計数理研究所所長の赤池弘次が1971年に考案し1973年に発表した。公式は次の通りである。
AIC=-2lnL+2k ここで、Lは最大尤度、kは自由パラメータである。

[訳者註]シルエット係数 silhouette coefficient
K-means法を行う際にはあらかじめ全データを何個のクラスターに分けるか定める必要がある。この個数に関して最適解は無く、データ分析者自身が判断しなければならない。できるだけ類似度の高いデータを集めたクラスター数を決める方法として、エルボー法(elbow method)とシルエット法(silhouette method)が知られている。
シルエット法は、シルエット分析(silhouette analysis)とも呼ばれ、クラスター内のデータの密度をプロット化し、シルエット係数(silhouette coefficient)を求め、最適なクラスター数kの数を判断する。シルエット係数は−1から1の範囲で表され、1に近いほどクラスター間の距離が遠く、しっかりとクラスターが分けられていることを表す。各バーがおよそ均等な幅になるようにクラスター数を設定する。

[訳者註]χ²検定 chi-square tests
χ²検定は、χ²分布(「理論値からの食い違いの大きさ」について、確率的に表した分布)を利用する検定方法の総称。χ²検定では、クロス集計表で表される、連続していないデータ(カテゴリカルデータ)の集まりについて検定を行う。χ²検定でよく使われるのは「適合度検定」と「クロス集計表の表頭と表側の関係性を探る検定」の2種類である。「適合度検定」は、データの分布を描いたときに、理論的な分布と実際の分布が同じと言えるかを検定し、「独立性の検定」は、2つの変数の集計結果の数値の差に、関連があるかないかを検定する。

[訳者註]ボンフェローニ補正事後一対比較 Bonferroni-corrected post-hoc pairwise comparison
ボンフェローニ補正とは、多重比較法の手続きの1つで、ボンフェローニ法とも言う。ある検定で得られた有意確率p値をBonferroniの補正によって修正すると、多重比較の問題を避けることができる。3群以上の比較にt検定(差の検定)を行うと,t検定を3回行わなければならない。これでは検定の繰り返しという多重比較の問題が起こるため、t検定で得られたp値をp×3(検定の繰返し数)と補正して、補正後のp値がp<0.05となれば有意差ありと判断する。

[訳者註]ペアワイズ削除 pair-wise deletion
相関係数行列を求める場合などに,2変数のいずれか(あるいは両方)が欠損値を持つ場合に当該の相関係数の計算にのみ用いないこと。可能な限り多くのデータを計算に使用することができるが,相関係数ごとにその計算に関与するケース数が異なるため解釈が困難になる場合もある。別の除去方法に、リストワイズ削除がある。

[訳者註]利用可能なケース分析 available case analysis
一般的な統計学の教科書で解説される統計手法は、原則として全て「⽋測は1つもなく、完全なデータが観測されている」ことを前提としている。しかし、殆ど全ての調査・実験研究において、なんらかのデータの⽋測は生じる。⽋測が起きると、統計的な推定・検定を⾏う上での情報量の損失が生じ、損失の分だけ、推定精度・検出⼒が低下するだけでなく、⽋測が多くなると、有意差が示せなくなる可能性もある。そこで、これらの課題をクリアするため、欠測データの分析には幾つかの手法が開発された。
代表的は手法に、完全ケース分析(Complete-Case Analysis)と利用可能なケース分析とがある。利用可能ケース分析では、分解された個々の分析ごとに、用いる変数の少なくとも1つが欠測となっている調査客体を分析対象から除外しており、この操作を「ペアワイズ削除(pair-wise deletion)」と呼ぶ。
なお、完全ケース分析では、分析に用いる変数の全ての値が、観測されている調査客体のみを用いて分析を行うので、通常の完全データに対する解析手法(最小二乗法,最尤法など)を適⽤可能である。

[訳者註]リスク比 risk ratio
リスク比とは相対リスク(relative risk:RR)のことで、ある状況下(例:高血圧や糖尿病など)におかれた人の発病率をそうでない人の発病率で割った値。即ち、リスク比は危険因子のあるなしで何倍のリスクがあるかを示す数値であり。RR=1なら危険因子のあるなしはアウトカムのありなしとは無関係 (独立)ということになる。

「訳者註」信頼区間 Confidence interval ,CI
信頼区間とは、統計学において母集団がどのような数値の範囲にあるかを確率で示すもの。95%信頼区間とは、母集団の値が、95%の確率で入る範囲(区間)のこと。相対リスク又はオッズ比は、通常 「1.2 (95%CI:0.5~1.5)」と表示され、括弧内はその値のばらつきの95%の範囲を示し、これを信頼区間として表示している。

[訳者註]クラメールのV Cramer's V
r行×c列のクロス集計表における行要素と列要素の関連の強さを示す指標。0≦V≦1の値をとり、1に近いほど関連が強い。クラメールの連関係数(Cramer's coefficient of association)とも言う。サンプルサイズを、χ²値をとすると、クラメールのVは以下の式で表される。
V=√{χ²/(n×min(r-1,c-1))}

[訳者註]ORICD
ORCID(オーキッド)とは、Open Researcher and Contributor IDの略称で、世界中の研究者に一意の識別子を与えることを目指す、学術関連の様々な利害関係者が集まって研究者識別子に取り組む国際的な非営利組織。2010年8月に米国デラウェア州の非営利法人として発足した。
利害関係者とは、研究者本人はもちろんのこと、研究機関、大学、出版社、学会、資金助成機関、学術情報関連企業などが含まれる。ORCIDが付与する研究者識別子はORCID iDと呼ばれ、ORCID iDには研究者プロファイルと業績リストが連携する。研究者識別子を研究者に付与することによって、これまでに解決できなかった研究者の名寄せの問題を解決して学術情報を研究者ごとに整理し、様々な立場の関係者がそこから生まれる利便性を受けることができるようになる。

(了)

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