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鉄腕アトムVSミサイルマン(SFショートショート)R15指定

自転車で走るおれの動体視力を

「チェリーボム」


という看板の文字がとらえた。い、いやらしいお店に違いない!!

急ブレーキをかけた自転車が、前輪を支点に1回転して、こう配を横滑りしていく。自転車のサドルから軍用機の射出装置のごとく舞い上がったおれは、「チェリーボム」の突き出した看板にズボンのポケットが引っ掛かり、半けつ状態のままもがきながら、落ちていく自転車をただ見ているしかなかない。そこへ大型ダンプが通過し、瞬く間に、おれの自転車はバラバラの残骸へと変貌した。

ビリビリとズボンが裂け、おれは鼻からアスファルトに真っすぐに着地した。鼻血が噴水のごとくふき出す。

意識もうろうとしたままダラダラ流れる鼻血を、ゴシシシと袖で拭う。

「チェリーボム」の看板のせいだ、けしからん。私の目の届かないのをいいことに、健全なこの町にピンクな施設を建ておって。わが町の貞操観念の番人と呼ばれているこの私が即刻に立ち入り、調査せなばならぬ。

ま、というのは建前で。

「たのもう~~」おれは同じ側の手足を同時に出しながら、失いそうな意識を奮い立たせて扉を開けた。

・・・・・・・・・・・

うっとりするようなスローモーションで、女という女がおれを迎えると思いきや。テーブルの前でお手玉を使ったレクリエーションをしていたおじいちゃんおばあちゃんが一斉にこっちを見つめた。

そうなのだ!!

おれの動体視力には看板の文字が「チェリーボム」としか読めなかったが、「チェリーホーム」という老人ホームだったのだ。

「おお!!!」

血まみれのおれに、施設の老人の間に動揺が走る。職員が受話器を取って、いぶかしげな顔をしておれの一挙一動に警戒を怠らない。

「ハ・・・ハロー」

頭をポリポリ掻いて、悪意のないことを示すために両手をぶんぶん振ってその場を取り繕うしかないおれだったが、一人のおじいちゃんの眼鏡がキランと光り、よろよろとおれの元にやって来た。

おじいちゃん「もしかしてあなたは、第四八五砲兵部隊第三飛行戦隊の中尉殿ですか?」
おれ「恥ずかしながら帰って参りました!!」

とりあえず今はこのおじいちゃんに合わせるしか方法がない。

シュタッ!!

お互いに挙手の敬礼を交わした。おじいちゃんの曲がった背中がシャンとしている。おれは節度ある回れ右をして、出口から退散した。「はーっ助かった」と胸に手を当てて大きなため息をつく。

人間っていろんな目の錯覚をするもんだ。看板の読み間違い違いしかり、おれを残留日本兵か何かと錯覚したおじいちゃんしかり。奇妙なことに、おじいちゃんが指摘した砲兵部隊は日本には存在しない。どこかの架空の国の架空の部隊なのかもしれない。虚空に精神をさ迷わせているおじいちゃんの想像の産物なのか。

おれの動体視力を超えた、域外の世界では確かに、老人ホームがピンクの桃源郷だった。この理屈でいけば、おれの動きが音速をこえた時に世界はヌーディストビーチに見えるはずである。

それなら超音速旅客機のコンコルドに乗っている乗客が見る世界はヌーディストビーチじゃないかということになるが、おれは通常の人よりも動体視力がずっと鈍いのである。


おれはさっそく、「お茶の水博士」に頼んで「ミサイルマン」に改造してもらった。

ミサイルマンは音よりも速く、物音を立てずに忍び寄る。でかい穴ぼこを開けて、すべてを破壊しつくしたその後に、

「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」

という音が大空から遅れてやってくる。爆撃に生き延びれば、おれの足音が聞こえるぜ。

思った通りだ。空を飛んでいる時、おれの世界はポルノになった。世界を燃やし尽くしてやるぜ。爆発のたびに、焼け跡からゴーレムのように復元して立ち上がると空を飛び、今日も世界のどこかで爆発している。大爆発がおれの性的な絶頂だ。おれを誰にも止められない。


南極から北極まで
ジャングルからツンドラまで
マンハッタンより安い値で
ミサイルマンが競り落とす

THE HIGH-LOWS 「ミサイルマン」より


世界中で破壊の限りを尽くしていたおれだが、お茶の水博士のところの「鉄腕アトム」がやって来た。超音速のおれと同じ速度でぴったりと並走している。こいつにはこのポルノの世界が見えないのか?同じ速度のアトムは止まって見えるから、こいつは鉄腕アトムだ。

「空を飛び回るのは勝手だけど、爆発して罪のない人たちをこれ以上、犠牲にするのをやめるんだ!」

アトムとの空中での格闘の末、おれは胸のハッチを開けられ、中の指向性の回路の配線と、おまけに復元装置までちぎられた。やっぱり百戦錬磨のアトムには敵わない。

おれはもう、真っすぐにしか空を飛ぶことができなくなり、地球を飛び出し、太陽系も通り過ぎ、地球では人類がとうに滅んだ長い年月を経てなお、永久とも思える暗黒の宇宙空間を飛び続けている。

星も見えない真っ暗闇の世界では、おれの動体視力を錯覚させて、世界をポルノに変えるものは何もない。


ある日、おれの視神経が宇宙空間に浮かぶ巨大な女性器を捉えた。

それは銀河帝国軍が建造した月のサイズもある人口の天体、要塞兵器デス・スターだった。


ダースベイダー率いる帝国軍はスーパー・レーザー砲で平和な惑星を花火のように木っ端みじんにしては面白がっていたが、ミサイルマンであるおれの軌道はちょうどデススターの中心部への核融合炉に通じる道へとピッタリと一致した。反乱軍の宇宙戦闘機によるデススター破壊作戦に先んじて、デススターの内部に侵入したおれは、大規模な連鎖反応的な爆発を引き起こし、この超兵器の破壊に成功した。

おれは最期の瞬間に、超兵器とミサイルの衝突によって実現した、未発見のセックス、機械とセックスの融合に、最高の性的な快感を覚えて死んだ。


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蛇足だけど、デススターの残骸の漂う宇宙空間の虚無から、ミサイルマンと、デススターとの間の子供が誕生するというのはどうだろう。

アニメ「機動戦士ガンダム」の「ボール」みたいなやつ。笑


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