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映画 テス(1979)

映画「テス(1979)」

ヒューマントラスト有楽町で観たけど、かなり良かった。

ナスターシャ・キンスキーが美人だから、同時代の「ワン・フロム・ザ・ハート」「キャット・ピープル」も観ないとね。

彼女のお父さんの家系図をたどると、先祖は伯爵だった。

あのみすぼらしい両親から生まれたとは思えない美しさは、先祖返り・隔世遺伝的だけど、むしろ突然変異かもしれない。旧家とか、由緒ある家柄とか、そういう古くさい考えから自由な性格だからだ。

小さなきょうだい達は可愛いから環境が人をつくる気もする。

恋に落ちて結婚したエンジェルと、お互いに過去の告白をして、どっちも2、3週間のできごとという点で変わりはないけど、テスは妊娠して子供が産まれてしまったから、彼の気持ちの整理がつかず、許してもらえない。

再び故郷に帰ったテスだけど、かつて自分を愛人にしていたアレックが現れ、エンジェルのことを侮辱してテスからビンタされたら、彼女をモノにするという彼の闘争心にいよいよ火がついてしまう。しかし、彼女はこの時点で、「心で彼を殺し」ていたらしい。後でこの人、本当に殺されるんだけど、あれは衝動的に殺してしまったのではなくて、「殺し」という状態がずっと継続していて、実際に殺した時に、殺人が完成したということだから、彼女は冷静な人なんだな。

衝動殺人ではないってことです。「点」としての殺人ではなくて、「線」としての殺人だ。彼女を向こう見ずな性格だと思いこんで、たぶんみんな誤解してる。

テスたちが食事をしているシーンで、「夜空の星を見ていると身体から魂が脱け出してしまう」という言葉。これ、かなり重要だと思ってる。

この言葉にみんなポカーンとしていて、エンジェルだけが読んでいた本を置いて、思わず聞き入ってるけど、みんなが彼女を理解していないのは、おそらく近代になって、「意識」中心の世の中になったからだ。

物語にはしだいに、農場でも石炭で動く機械が導入されたり、蒸気機関車が登場するから、時代の変化もわかります。機械によって、どんどん農場での労働が過酷になってるように見えたから、朝から晩まで働いて、ばったり倒れて眠るしかないし、無意識でいる時間をつくれない世の中になってる。

都市化して人間の頭から無意識というものをどんどん除外していくようになって、当たり前のように日常に存在していた無意識が、どんどん見えないものになったから、ジークムント・フロイトが改めて無意識を「発見」する。

原作者のトマス・ハーディも、フロイトもほとんど同時代の人物です。

テスは当たり前のように無意識の世界に魂を飛ばしたり、残された家族のためとか、生活の安定のために好きでもない人の物になることを拒んで、本当に愛する人のためなら死ぬこともできる。

テスがアレックを殺して、エンジェルとの逃亡で、ストーンヘンジにたどり着くけど、ここでも自分の魂を夜空の星まで飛ばしていきたいと言っていて、彼女はもっと空を見上げていて、星が身近にあった、人間本来の考え方ができた古代人に近いのかもしれない。

そう考えると、貴族時代のご先祖よりも、もっともっと先祖返りしてる!笑 石器時代の人間のほうが現代人よりもすすんでるじゃん!

彼女が警察に連行されるまでストーンヘンジの石の上で眠っていたのも重要なシーンだ。

映画とは関係ないけど、ストーンヘンジがヒッピーのたまり場になっていたというエピソードを友達から教えてもらって、かなり納得がいった。ヒッピーも旧態依然とした価値観からの離脱をしようとした人たちだからだ。彼らがドラッグをやったり、瞑想したりしてるのは、やっぱり合理的で、物質中心の豊かさを求める世界よりも、無意識の世界を広げようってしたからですよね。

テスってある意味でヒッピーだ。

この原作を1891年に出版したトマス・ハーディってすごい人だなあと思った。

やっぱり古典的な小説が原作の映画だから、どんな時代でも古くさくならない、普遍性をもってる。

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