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J.G.バラード クラッシュ(1973)第一回 バラードの話

ポルノ小説なのでオススメはできない。クローネンバーグの映画も観ないと。

クラッシュは、「世界最初のテクノロジーに基づくポルノグラフィー」と言われているよ。

自動車とエロってなかなか結び付かないけど、読んでるとそれなりに納得させられる。

自動車を単なる性的なイメージに結び付けるのではなくて、現代社会の人間生活全体のメタファーに、自動車という題材を使っているから、わかる気がするんだろうね。

おもしろそうだと思ったら読んでみて。

この小説の主人公の名前が、作者と同名のバラード。いちばん自伝に近いんだって。

マンネリの夫婦が出てきます。
 
バラードには奥さんがいるけど、キャリアウーマンで前途洋洋たる妻のキャサリンの気持ちはここ数年、遠ざかるばかり。
 
夫婦そろって堂々と愛人がいます。笑 彼女がタバコに火を付けたライターは薬莢の形をした男物だから、これは新しい恋人ができたってこと。ヤッてる時に恋人の名前を言うし、言う前からとっくに知っていることもある。二人でいつもエロ目的の出会いについて、新しい恋人の名前を言い合う。ギリギリまで相手の名前を口に出さない方が楽しい・・・だそうです。笑

二人でいろいろ工夫してるんですね。
 
ある日、バラードが雨上がりの高速道路で正面衝突を起こします。これが人生の転機になる。
 
車はスリップして、時速100キロで対向車線に飛び込み、前輪はパンクして飛んで行き、若い女医と、その夫が乗っていた車に激突。夫はサーカスの人間大砲みたいに窓を破って射ち出され、バラードの車の窓も突き破って、運転席に血を振り撒きながら即死です。
 
バラードは両膝を粉砕したものの命に別状はなく、女医も歯がぐらつく程度の軽傷。
 
バラードは事故の直後に不思議な多幸感を味わいます。

高速道路はひどい渋滞、立ち往生した車はヘッドライトを光らせ、パトカーのサイレンが鳴っています。自分は劇場にいて、無慈悲なドラマのクライマックスをぶっつけ本番で演じる主演俳優だ。ひしゃげた車、衝突で殺された男、ヘッドライトを光らせて舞台袖で待つ何百人ものドライバーがつくりあげる舞台。この感覚が病院に着くまで続きます。
 
担架で病院まで運ばれてくると、急に多幸感が薄れますが、衝突で人を殺してしまった罪悪感に苦しむとか、そういうことはなくて(笑)、むしろ自分の心をおおっていた強迫観念から解き放たれて自由な気持ちになります。自分の身の周りのあらゆることをエロに結び付けるようになり、車の衝突こそ、これまで気が付かなかった究極のセックスだと開眼。機械にはまだ未発見のセックスが隠されている!
 
病院に見舞いに来た妻のキャサリンが、レズビアンの志向があるからナースの物色を始めたり、やっぱりこの夫婦、頭がおかしい。
 
それでも多少の罪の意識はあるらしい。股間はずっとおとなしいままだ。バラードは、ナースに装具を替えてもらった時に、事故以来初めて勃起します。屹立した股間が文字通り、彼をベッドから持ち上げて、歩き回れるようになりました。完全復活!!おい、反省しろ。笑
 
バラードは以前から、テクノロジーとセックスの可能性について気がつきかけていた。
 
事故の二か月前にパリに旅行した時のことです。空港のエスカレーターで前に立つスチュワーデスを、男性器に見立てた銀色の飛行機が貫く妄想にボーっとして、うっかりお尻を触ってしまいます。とっさにフランス人のフリをして、怪しいフランス語で弁解しますが、バランスを崩し、エレベーターから転がり落ちるパントマイムをして事なきを得たのでした。難しい言い回しで書かれてるけど、ギャグ小説だと思います。

こういう出来事や、とりとめのないイメージの積み重ねが無意識を漂っていて、事故のショックでポーンと閃いたんだろうね。

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